ピアノ協奏曲第1番 (ヒナステラ)
アルベルト・ヒナステラが1961年に完成させたピアノ協奏曲第1番 作品28は、彼の創造力の円熟期における記念碑的な作品です。この協奏曲は、南米アルゼンチンの活気あるリズムと色彩感、そしてヨーロッパ現代音楽の先進的な技法が見事に融合した、演奏者と聴衆双方に強烈な印象を与える傑作として知られています。
本作は著名なクーセヴィツキー財団からの委嘱を受け、1961年に完成されました。ヒナステラにとって、1952年のピアノソナタ第1番以来、約9年ぶりにピアノ独奏をフィーチャーした主要作品となりました。作品はセルゲイとナタリー・クーセヴィツキー夫妻に献呈されており、委嘱者への深い敬意が示されています。
作曲家自身が「新印象主義」と呼んだ、自己の創作における第3期に生み出されたこの協奏曲には、母国アルゼンチンからのインスピレーションは依然として息づきつつも、アルバン・ベルクやアルノルト・シェーンベルクといったウィーン楽派の技法、特に部分的な十二音技法への積極的な接近が見られます。これは、ヒナステラが自己の音楽語法を絶えず拡張しようとした証と言えるでしょう。
初演は1961年4月22日、米国のワシントンD.C.にて行われました。ジョアン・カルロス・マルティンスが鮮烈なピアノ独奏を務め、ハワード・ミッチェル指揮のワシントン・ナショナル交響楽団が共演しました。
この協奏曲は、ピアノ独奏に加えて大規模な管弦楽のために書かれています。オーケストラには、フルート2、ピッコロ、オーボエ2、コーラングレ、クラリネット2、小クラリネット、バスクラリネットといった充実した木管楽器群、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、テューバという力強い金管楽器群が含まれます。特筆すべきは、ティンパニに加え、5人もの奏者を要する多様な打楽器群です。さらに、ハープ、チェレスタ、そして標準的な弦楽五部が加わり、極めて色彩豊かでパワフルな響きを生み出しています。
全4楽章構成で、演奏時間は約25分です。各楽章は異なる性格を持ちながらも、全体として劇的な統一感を持っています。
1. 第1楽章 Cadenza e varianti
オーケストラによる12音音列に基づく鋭い和音のクレッシェンドで開始。これに呼応するように、ピアノがフランツ・リストを思わせるような超絶技巧的なオクターヴで登場し、楽章の基礎となる12音の配列を提示します。この音列から導かれた管弦楽付きカデンツァが展開された後、音楽は次第に静まり、変奏部分へと移行します。静謐な開始から、技巧的な発展、神秘的な雰囲気、そして終盤の暴力的な表現へと変化する全10の変奏が続き、猛烈なコーダで楽章を締めくくります。
2. 第2楽章 Scherzo allucinante
6/16拍子で書かれたこの楽章は、「幻想的なスケルツォ」と題されています。作曲者自身は「非常に素早く、ピアニッシモで」と記していますが、音楽はアーチ形の構造を取り、頂点ではホルン、ピアノ、打楽器が大きく響く箇所もあります。冒頭の94小節は管弦楽のみで、神秘的で超常的な雰囲気を作り出します。ピアノが登場すると、目くるめくアルペッジョやトリル、重音が奏され、その後再び冒頭の静謐な雰囲気へと戻り、弱音で閉じられます。
3. 第3楽章 Adagissimo
緩やかなテンポのアダージョ楽章は、3つの部分から成ります。ヴィオラの孤独なソロで始まり、やがてオーケストラ全体がそれに答えます。20小節目からはピアノが加わり、情熱的かつ悲愴な感情を込めて展開されます。ここでもオーケストラとの対話が繰り広げられ、途中でベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番の第2楽章を思わせる引用が登場します。楽章の終わりは、12音音列から導かれた弦楽器の半音階の動きに、ピアノが短い音形で応える形で閉じられます。
4. 第4楽章 Toccata concertata
「協奏的トッカータ」と題された終楽章は、ロンド形式に基づいています。7つの部分構成で、活発な開始主題が4回現れる間に3つの異なるエピソードが挿入されます。この楽章では12音技法よりも、アルゼンチンの民族舞踊「マランボ」を想起させるような、躍動的でリズミカルな楽想が支配的です。ピアノと打楽器を駆使したオーケストラが、主役を激しく交代しながら熱狂的な展開を繰り広げます。コーダでは音量が最大限（ffff）に達し、圧倒的な熱量の中でピアノがオーケストラに不協和音を叩きつけ、劇的に全曲を終えます。
この協奏曲は、その革新性とエネルギーによって批評家からも高い評価を得ています。例えば、『ロサンゼルス・タイムズ』紙のマーク・スウェッドは、2016年のセルジオ・ティエンポとロサンジェルス・フィルハーモニックによる演奏評の中で、本作を「冷酷主義者の作品、魔法のようなレアリズム」と形容しました。彼は、時に「アルゼンチンのバルトーク」を思わせる打楽器的な瞬間や、「不気味な熱帯雨林の奇妙さ」を喚起する部分、そして打楽器の「見事な跳ね回り」に言及し、ティエンポの演奏についても「恐れなく弾き切り」「忘れがたいジャズ風の瞬間から鍵盤の色彩の大爆発に至るまでを明らかにする」と絶賛しました。
『ニューヨーク・タイムズ』紙も、この協奏曲の「断続的なリズム」が「ヒナステラのいきいきした無調の語法を近づきやすく、理解しやすいものと思わせてくれる」と評し、ピアノの「ぶちまけるような動き」が「弦の優美な囁きの中へ倒れこんでいく」様子を描写しています。これらの評価は、本作が持つ複雑ながらも魅力的な音楽的特徴をよく捉えています。
本作は現代の音楽家にも影響を与えています。特に、第4楽章はプログレッシブ・ロックバンド、エマーソン、レイク＆パーマー（ELP）によってアルバム『恐怖の頭脳改革』（1973年）に収録され、クラシック音楽とロックの融合の試みとして広く知られることとなりました。ELPによる編曲は、『ローリング・ストーン』誌からは「精力的でおどけている」と評されています。
作曲の背景
本作は著名なクーセヴィツキー財団からの委嘱を受け、1961年に完成されました。ヒナステラにとって、1952年のピアノソナタ第1番以来、約9年ぶりにピアノ独奏をフィーチャーした主要作品となりました。作品はセルゲイとナタリー・クーセヴィツキー夫妻に献呈されており、委嘱者への深い敬意が示されています。
作曲家自身が「新印象主義」と呼んだ、自己の創作における第3期に生み出されたこの協奏曲には、母国アルゼンチンからのインスピレーションは依然として息づきつつも、アルバン・ベルクやアルノルト・シェーンベルクといったウィーン楽派の技法、特に部分的な十二音技法への積極的な接近が見られます。これは、ヒナステラが自己の音楽語法を絶えず拡張しようとした証と言えるでしょう。
初演は1961年4月22日、米国のワシントンD.C.にて行われました。ジョアン・カルロス・マルティンスが鮮烈なピアノ独奏を務め、ハワード・ミッチェル指揮のワシントン・ナショナル交響楽団が共演しました。
楽器編成
この協奏曲は、ピアノ独奏に加えて大規模な管弦楽のために書かれています。オーケストラには、フルート2、ピッコロ、オーボエ2、コーラングレ、クラリネット2、小クラリネット、バスクラリネットといった充実した木管楽器群、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、テューバという力強い金管楽器群が含まれます。特筆すべきは、ティンパニに加え、5人もの奏者を要する多様な打楽器群です。さらに、ハープ、チェレスタ、そして標準的な弦楽五部が加わり、極めて色彩豊かでパワフルな響きを生み出しています。
楽曲構成
全4楽章構成で、演奏時間は約25分です。各楽章は異なる性格を持ちながらも、全体として劇的な統一感を持っています。
1. 第1楽章 Cadenza e varianti
オーケストラによる12音音列に基づく鋭い和音のクレッシェンドで開始。これに呼応するように、ピアノがフランツ・リストを思わせるような超絶技巧的なオクターヴで登場し、楽章の基礎となる12音の配列を提示します。この音列から導かれた管弦楽付きカデンツァが展開された後、音楽は次第に静まり、変奏部分へと移行します。静謐な開始から、技巧的な発展、神秘的な雰囲気、そして終盤の暴力的な表現へと変化する全10の変奏が続き、猛烈なコーダで楽章を締めくくります。
2. 第2楽章 Scherzo allucinante
6/16拍子で書かれたこの楽章は、「幻想的なスケルツォ」と題されています。作曲者自身は「非常に素早く、ピアニッシモで」と記していますが、音楽はアーチ形の構造を取り、頂点ではホルン、ピアノ、打楽器が大きく響く箇所もあります。冒頭の94小節は管弦楽のみで、神秘的で超常的な雰囲気を作り出します。ピアノが登場すると、目くるめくアルペッジョやトリル、重音が奏され、その後再び冒頭の静謐な雰囲気へと戻り、弱音で閉じられます。
3. 第3楽章 Adagissimo
緩やかなテンポのアダージョ楽章は、3つの部分から成ります。ヴィオラの孤独なソロで始まり、やがてオーケストラ全体がそれに答えます。20小節目からはピアノが加わり、情熱的かつ悲愴な感情を込めて展開されます。ここでもオーケストラとの対話が繰り広げられ、途中でベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番の第2楽章を思わせる引用が登場します。楽章の終わりは、12音音列から導かれた弦楽器の半音階の動きに、ピアノが短い音形で応える形で閉じられます。
4. 第4楽章 Toccata concertata
「協奏的トッカータ」と題された終楽章は、ロンド形式に基づいています。7つの部分構成で、活発な開始主題が4回現れる間に3つの異なるエピソードが挿入されます。この楽章では12音技法よりも、アルゼンチンの民族舞踊「マランボ」を想起させるような、躍動的でリズミカルな楽想が支配的です。ピアノと打楽器を駆使したオーケストラが、主役を激しく交代しながら熱狂的な展開を繰り広げます。コーダでは音量が最大限（ffff）に達し、圧倒的な熱量の中でピアノがオーケストラに不協和音を叩きつけ、劇的に全曲を終えます。
評価と受容
この協奏曲は、その革新性とエネルギーによって批評家からも高い評価を得ています。例えば、『ロサンゼルス・タイムズ』紙のマーク・スウェッドは、2016年のセルジオ・ティエンポとロサンジェルス・フィルハーモニックによる演奏評の中で、本作を「冷酷主義者の作品、魔法のようなレアリズム」と形容しました。彼は、時に「アルゼンチンのバルトーク」を思わせる打楽器的な瞬間や、「不気味な熱帯雨林の奇妙さ」を喚起する部分、そして打楽器の「見事な跳ね回り」に言及し、ティエンポの演奏についても「恐れなく弾き切り」「忘れがたいジャズ風の瞬間から鍵盤の色彩の大爆発に至るまでを明らかにする」と絶賛しました。
『ニューヨーク・タイムズ』紙も、この協奏曲の「断続的なリズム」が「ヒナステラのいきいきした無調の語法を近づきやすく、理解しやすいものと思わせてくれる」と評し、ピアノの「ぶちまけるような動き」が「弦の優美な囁きの中へ倒れこんでいく」様子を描写しています。これらの評価は、本作が持つ複雑ながらも魅力的な音楽的特徴をよく捉えています。
影響と編曲
本作は現代の音楽家にも影響を与えています。特に、第4楽章はプログレッシブ・ロックバンド、エマーソン、レイク＆パーマー（ELP）によってアルバム『恐怖の頭脳改革』（1973年）に収録され、クラシック音楽とロックの融合の試みとして広く知られることとなりました。ELPによる編曲は、『ローリング・ストーン』誌からは「精力的でおどけている」と評されています。
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