ピエロ・レニョーリ

ピエロ・レニョーリ（Piero Regnoli, 1921年 7月19日 - 2001年 4月27日）は、イタリア映画界で脚本家、映画監督、そして映画評論家として多岐にわたるキャリアを築いた人物です。特に低予算の娯楽映画やホラー映画の分野でその名を馳せ、一部の熱狂的な映画ファンからはカルト的な支持を得ています。作品や時期によって、ルチオ・フルチ監督との仕事でピエトロ・レニョーリ、マカロニ・ウェスタンの脚本やスパイ映画の監督ではディーン・クレイグといった別名義を用いたことでも知られています。

彼は1921年、イタリアの首都ローマに生を受けました。そのキャリアは映画評論家として幕を開け、バチカン機関紙である「オッセルヴァトーレ・ロマーノ」紙に映画批評を寄稿していました。評論家としての実績から、1949年と1954年にはヴェネツィア国際映画祭の審査員という重責を務めています。

映画製作の現場に進出したのは1950年、『ポンペイ最後の日』でマルセル・レルビエ監督の助監督を務めたのがきっかけです。翌1951年には『オペラツィオーネ・ミトラ』の脚本を手がけ、その後も脚本家としての活動に軸足を移していきます。特にコメディ映画『ノン・エ・マイ・トロッポ・タルディ』などの脚本で、その才能を発揮しました。

レニョーリのキャリアにおいて特筆すべきは、1957年にイタリアで製作された初の本格的ホラー映画とされる『吸血鬼』（監督：リッカルド・フレーダ、マリオ・バーヴァ）の脚本を執筆したことです。この作品は公開当時イタリア本国では大きな話題とはなりませんでしたが、フランスで注目を集め、時を経て恐怖映画の古典的名作として再評価されるに至りました。レニョーリはこの作品で助監督も兼任しています。

同年にはメロドラマ映画『ラ・キアマヴァン・カピネラ...』で監督デビューを果たし、翌年にはフィルム・ノワール『アンケ・リンフェルノ・トレマ（ウンオラ・ペル・ヴィヴェレ）』を発表しました。1960年には、マリオ・バーヴァ監督の大ヒット作『血ぬられた墓標』の成功に時流に乗る形で、低予算ながらホラー映画『グラマーと吸血鬼』を監督しました。現在では必ずしも高い評価を受けていないB級作品ではあるものの、封切り当時はイタリア本国で大ヒットを記録しました。また、同年にはフィルム・ノワール風の佳作『ティ・アスペッテロ・アッリンフェルノ』も監督しており、『グラマーと吸血鬼』以上に質の高い作品と評価されています。

その後も、レニョーリは脚本家として、また映画監督としても精力的に活動を続けました。1960年代にはローマ史劇ものやスパイ映画といった冒険活劇を、1970年代に入るとデカメロンものに代表されるエロティック・コメディを監督しています。

脚本家としては、1960年代から1990年代にかけて、史劇、マカロニ・ウェスタン、イタリア式コメディ、戦争映画、刑事アクション、エロティック映画、そしてホラー映画と、実に多岐にわたるジャンルの脚本を手がけました。これらの作品の多くは低予算で製作されたB級映画でしたが、その一部は熱狂的なマニアによってカルト映画として愛されています。特に1970年代以降の脚本では、ホラーやメルヘン、喜劇といったエンターテイメント作品のストーリーにエロティックな要素を加味することで知られました。

彼が脚本を手がけた作品の中には、セルジオ・コルブッチ監督の『さすらいのガンマン』やカルロ・リッツァーニ監督の『帰って来たガンマン』（いずれも1966年）といった、今日でも高く評価されているマカロニ・ウェスタンの傑作があります。また、同年製作の『黄金の三兄弟』は、ローマ史劇とマカロニ・ウェスタンを融合させた異色作として一部で評価されていますが、出演俳優からは商業的な仕事と評されるなど、評価は分かれています。

レニョーリの名前が今なお映画ファンの間で語り継がれているのは、主に彼が手掛けたホラー映画の脚本による部分が大きいでしょう。前述の『吸血鬼』は古典としての地位を確立している他、『猟奇連続殺人』（1965年）、『ナイトメア・シティ』（1980年）、『ゾンビ3』（1981年）、『ルチオ・フルチの新デモンズ』（1990年）といった作品はカルト映画として一部のマニアから支持されています。日本未公開の低予算ホラーの中にも、『ローズマリーの赤ちゃん』や『エクソシスト』といった既存作品を模倣しつつ、独自のエロティックな解釈を加えた作品（例：『卑猥な欲望/腹部の痛み』、『マラビンバ』）や、無許可で製作された続編（『パトリックは生きている』）、ゴシック的なエロティックホラー（『サタンの娘』）などがカルト的な扱いを受けています。

これらのホラー映画において、レニョーリの脚本は怪奇色の強い物語にエロティックな解釈を加え、独自の脚本世界を構築した例が多いのが特徴です。日本でもよく知られる『ゾンビ3』や『ルチオ・フルチの新デモンズ』でも、恐怖とエロスを融合させたショッキングな描写が散見され（前者は母子の近親相姦、後者はフェラチオが恐怖場面と結びつくなど）、これにより、イタリア恐怖映画の脚本家たちの中で、レニョーリは他に類を見ない特異なポジションを確立しています。

同時代に活躍した他の脚本家、例えばエルネスト・ガスタルディやダルダノ・サッケッティとは異なり、ジャッロと呼ばれるイタリア製ミステリー映画の脚本は比較的少ない傾向にあります。その数少ない例の一つが、俳優ロッサノ・ブラッツィが監督した『サルヴァーレ・ラ・ファッチャ』（1969年）で、レニョーリは共同で脚本に参加していますが、映画本編のクレジットには彼の名前は見られません（別の脚本家夫婦がクレジットされています）。それでもこの作品は、まずまずのスリラーとして評価されています。

1973年には、アメリカの成人向けファンタジー映画のヒットに触発され、童話の世界を大胆にエロティックに翻案した成人向けファンタジー映画を二本監督しました。一本目の『白雪姫と七人の小人』は、ディズニーアニメを下敷きにエロティックな要素を盛り込み、実際の小人症の俳優を起用しています。この作品は1974年のジッフォーニ国際映画祭でコンペティション外ながら上映されました。二本目の『エンドウ豆の王女』は、白雪姫やシンデレラが登場するエロティックなファンタジーコメディでしたが、製作後に検閲で上映禁止となり、劇場公開が実現したのは1976年になってからでした。

1986年には、イタリアの人気歌手ニーノ・ダンジェロの監督・主演作品『ジューロ・ケ・ティ・アーモ』で共同監督を務め、これがレニョーリにとって最後の監督作品となりました。脚本家としては、1994年に名カメラマン、ジャンカルロ・フェランドの監督デビュー作『ラ・ラガッツァ・ディ・コルティーナ』の脚本を担当し、これが実質的に最後の脚本執筆となりました。また、1997年にTV放送されたドラマ『インクエティテュディーネ』の脚本にもクレジットされていますが、これは1992年にパイロット版として製作され、お蔵入りとなっていたものを再編集して放映されたものです。

ピエロ・レニョーリは2001年 4月27日にローマでその生涯を閉じました。彼の妻シルヴィア・インノチェンツィは映画の衣裳デザイナーであり、レニョーリの監督作品でも衣裳を担当しました。娘のダニエラ・レニョーリは女優であり、ポトラッチ劇場の創設者として知られています。

多作な脚本家・監督として、特にイタリア映画界のB級路線の隆盛を支え、ホラー映画史における特異な足跡を残したピエロ・レニョーリは、今なお一部の映画ファンにとって忘れられない存在です。

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