ピエール・マンデス＝フランス

ピエール・マンデス＝フランス：インドシナ戦争終結に導いたフランスの政治家

ピエール・マンデス＝フランス（1907年1月11日 - 1982年10月18日）は、20世紀フランスを代表する政治家の一人です。彼は、1954年から1955年にかけてフランスの首相（閣僚評議会議長）を務め、第一次インドシナ戦争の終結に尽力しました。その政治姿勢は「マンデス主義」とも呼ばれ、現代の政治にも影響を与えています。

生い立ちと初期の経歴

1907年、パリでユダヤ系中産階級の家庭に生まれたマンデス＝フランスは、パリ大学で法学博士号を取得後、弁護士として活動を始めました。早くから政治に関心を持ち、急進社会党に入党。1932年には、当時最年少の25歳で下院議員に当選し、その才能を発揮し始めます。1936年にはレオン・ブルム人民戦線内閣で大蔵担当の閣外相に任命され、将来を嘱望される存在となりました。

第二次世界大戦とレジスタンス

第二次世界大戦が勃発すると、マンデス＝フランスは空軍に志願。しかし、1940年にフランスがドイツに降伏すると、彼は逮捕され、軍籍剥奪などの判決を受けます。その後、脱獄に成功し、イギリスへ亡命。シャルル・ド・ゴール率いる自由フランスに参加し、空軍で活躍しました。戦時中は、国民解放委員会で財政担当委員を務め、ブレトンウッズ会議ではフランス代表として戦後の国際金融制度の構築に貢献しました。

第四共和政とインドシナ戦争

戦後、マンデス＝フランスは国民経済相に就任しますが、物価統制を巡る対立から辞任。その後、国民議会議員として政界に復帰します。第四共和政下、フランスは第一次インドシナ戦争に深く関与していました。マンデス＝フランスは、早くからフランスの植民地政策を批判しており、1954年、ディエンビエンフーの戦いでフランス軍が敗北すると、戦争継続を主張するラニエル内閣を批判し、内閣総辞職に追い込みました。

1954年6月、マンデス＝フランスは首相に就任。彼は、就任演説で30日以内にインドシナ戦争を終結させることを宣言し、実現できなければ辞任すると公約しました。彼は、ホー・チ・ミンとの交渉を進めると同時に、中国の周恩来首相とも会談。ジュネーブ会議を開催し、ソ連との交渉を経て、1954年7月21日、インドシナ諸国の独立、南北ベトナムの分断などを決定したジュネーブ協定を締結し、見事に公約を果たしました。

失脚とその後

インドシナ戦争の終結後、マンデス＝フランスは北アフリカ問題に取り組み、チュニジアやモロッコの独立交渉を進めました。しかし、アルジェリア問題への対応や、欧州防衛共同体（EDC）構想を巡る対立から、次第に政治的な基盤を失い、1955年2月に内閣は総辞職しました。その後、社会党のギー・モレ内閣で国務大臣を務めますが、アルジェリア問題を巡り短期間で辞任。

第五共和政下では、ド・ゴールの政治手法を批判し、反ド・ゴール勢力の結集を図りますが、議席を失い、急進党からも除名されました。その後、統一社会党に参加し、1967年に再び議席を回復するも、1968年の選挙で落選。1971年の社会党再編ではミッテランを助けました。1981年にミッテランが大統領に当選するのを見届け、翌1982年にパリで75歳で亡くなりました。

人物と評価

マンデス＝フランスは、公正、厳格、真実を重んじる政治家であり、議会制民主主義を擁護し続けました。その穏健な中道左派としての政治姿勢は「マンデス主義」と呼ばれ、多くの人々に影響を与えました。彼は、政敵であったド・ゴールからも敬意を払われ、その政治的見解や理想主義、正義感は広く賞賛されました。

彼の最大の功績は、ジュネーブ協定の締結によるインドシナ戦争の終結です。しかし、議会における安定的な基盤を築けなかったため、政権は短命に終わりました。また、ユダヤ人であったことから、右翼を中心に反ユダヤ主義の標的となりました。

政権を失った後も、北アフリカや中東問題に積極的に関与し、イスラエルだけでなく、パレスチナ国家の独立を支持する立場からイスラム教徒からも信頼されていました。現在もパリ市内には彼を記念した「ピエール・マンデス＝フランス通り」が存在し、その功績を称えています。

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