ピペラシリン

ピペラシリンについて

ピペラシリンは、広域スペクトラムを持つβ-ラクタム抗生物質であり、特にウレイドペニシリンの一種です。この薬剤は日本では「ペントシリン」の製品名で知られ、富山化学工業によって開発され、富士フイルム富山化学が製造・販売を行っています。ピペラシリンの化学構造には極性側鎖が含まれており、これがグラム陰性菌に対する優れた浸透性を持つ要因とされます。また、グラム陰性菌が持つβ-ラクタマーゼによる分解感受性の低下にも寄与しています。このため、特に病院における重要な病原菌、例えば緑膿菌に対して活性があります。この性能から「抗緑膿菌ペニシリン」とも称されることがあります。

薬理効果

ピペラシリンは単独で使用した場合、主にグラム陽性菌、例えば黄色ブドウ球菌に対する活性は強くありません。一方で、細菌のβ-ラクタマーゼによって加水分解を受けるため、同薬剤の活性には限界があります。しかし、医療現場ではβ-ラクタマーゼ阻害剤であるタゾバクタムと組み合わせて使用されることが一般的です。この組み合わせは、商品名「ゾシン」や「タゾシン」として知られ、多くのβ-ラクタマーゼを阻害する能力を持っています。ただし、ピペラシリン・タゾバクタム合剤はMRSA（メチシリン耐性黄色ブドウ球菌）に対しては効果を示さないため、この点には注意が必要です。

抗菌作用と作用機序

ピペラシリンの抗菌作用は、緑膿菌を含む多様なグラム陰性菌や、腸球菌、およびバクテロイデス属の嫌気性菌に対して効果を及ぼします。例えば、グラム陰性のインフルエンザ菌に対する最小発育阻止濃度（MIC90）は2μg/mLで、グラム陽性の肺炎球菌についても同様です。これにより、ピペラシリンは他の抗生物質、特にセフェム系製剤に比べて優れた抗菌活性を持つことが確認されています。細菌の細胞壁合成を阻害することで細菌を殺菌する作用があるため、非常に効果的です。

適応と適応菌種

この薬剤は、β-ラクタマーゼ阻害剤との合剤が特に重症の院内感染症に用いられています。具体的には、米国外の病院で広く使用されている治療法の一つで、経済的にもジェネリック医薬品としての利用が推奨されています。院内肺炎などの多剤耐性菌による感染症に対する治療の際にも、ピペラシリン・タゾバクタムが推奨されており、他の抗生物質に比べて推奨される抗菌剤の一つに位置付けられています。

適応菌種としては、ブドウ球菌属、レンサ球菌属、肺炎球菌、腸球菌、大腸菌、シトロバクター、肺炎桿菌、エンテロバクター、セラチア、プロテウス、モルガネラ・モルガニー、プロビデンシア、インフルエンザ菌、緑膿菌、バクテロイデス属などが挙げられます。

副作用

ピペラシリン・タゾバクタム合剤に伴う最も一般的な副作用には、下痢、便秘、吐き気、頭痛、不眠などがあります。さらに、比較的稀ですが、アナフィラキシーやStevens-Johnson症候群、Clostridium difficileによる関連下痢などの重篤な副作用が起こることもあります。

投与方法

ピペラシリンは経口投与では吸収されないため、静脈内または筋肉内に注射する必要があります。持続的な投与と間欠的な投与の方法が研究されています。

このように、ピペラシリンは多様な病原菌に対して効果を発揮し、特に院内感染や重症例での治療において大きな役割を果たす重要な抗生物質です。

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