ギリシア文学

ギリシア文学：古代から現代への壮大な旅

ギリシア文学は、ギリシア本土、島嶼部、古代マグナ・グラエキア、小アジアに住む人々によってギリシア語で書かれた文学作品群の総称です。ホメロスに始まる古代の輝かしい遺産から現代の作家たちの作品まで、その歴史は実に幅広く、古代東地中海世界における共通語としてのギリシア語の影響もあり、非ギリシア人による作品も多く存在します。世界文学史におけるその重要性は、とりわけ古代の作品において顕著です。

古代ギリシア文学：神話と詩の時代

紀元前8世紀頃には、すでに『イーリアス』や『オデュッセイア』といったホメロスの叙事[[詩]]が成立しており、現存する最古のギリシア文学作品として知られています。初期のギリシア文学はすべて韻文、つまり詩の形をとっていました。ホメロスやギリシア[[神話]]、そしてその他の詩人は単なる物語の語り手ではなく、神々についての知識や道徳、社会規範を伝える重要な役割を担っていました。ヘーシオドスの『神統記』や『労働と日々』なども、当時の社会に大きな影響を与えた作品です。しかし、多くの詩人の作品は失われ、断片のみが現代に残されているのが現状です。アポロンとムーサたちは詩の守護神とされ、詩は音楽と結びつき、吟唱されることが一般的でした。「ムーシケー」という言葉は、当時「文芸」と「音楽」の両方を意味し、現代ヨーロッパ言語における「音楽」の語源にもなっています。この時代には、叙事[[詩]]やディテュランボスなどの主要な詩形や詩脚が確立されました。シモニデスやピンダロスといった著名な詩人もこの時代に活躍しました。さらに、タレスに始まるギリシア[[哲学]]も初期には詩の形で表現されていました。紀元前5世紀頃には、富裕層の教育において、古代詩の暗唱が重要な位置を占めていました。

アテナイ黄金期：弁論術と演劇の隆盛

紀元前5世紀のアテナイでは、裁判や政治の場で用いる弁論術が高度に発達しました。各地を巡回し、弁論術を教えるソフィストたちが現れ、ソクラテスもその一人と見なされることもありました。一方、演劇も大きく発展し、三大悲劇詩人やアリストパネスといった喜劇作家が登場し、アッティカ方言を用いた文学が隆盛を極めました。プラトンはソフィストの知のあり方に反発し、イデア論に基づく独自の哲学を展開しました。彼の『国家』では、詩は現実の模倣に過ぎず、真の知識ではないとして、理想国家における詩人の存在を否定しています。プラトンは対話篇という新しい形式を考案し、それまでの韻文による哲学に代えて散文による哲学を導入しました。アリストテレスはプラトンの哲学を受け継ぎつつ、『詩学』において詩の教育的効果を再評価し、悲劇の構造と本質を分析しました。同時期には、ヘロドトスやトゥキディデスといった歴史家、クセノポンといった文筆家も活躍し、雄弁家イソクラテスは母音調和を提唱しました。

ヘレニズム期：ギリシア文化の拡大

アレクサンドロス大王によるオリエント征服によりギリシア語圏が拡大したヘレニズム期には、ギリシア文学も地理的に広がり、各地で文化交流が盛んに行われました。エジプトのアレクサンドリアは重要な文化の中心地となり、プトレマイオス朝によるムーサイオン（アレクサンドリア図書館）の設立は、学問の発展に大きく貢献しました。この時代には、古伝承の収集・整理も進み、「ギリシア[[神話]]」の多くの物語が文章化されました。

ローマ帝国期：アッティカ方言とキリスト教の影響

ローマ帝国の支配下に入った後も、アテナイは重要な都市であり続け、アッティカ方言が文章語として規範とされました。プルタルコスの『対比列伝』、ポリュビオスの『歴史』などが書かれ、弁論術の研究も進みました。313年のミラノ勅令によってキリスト教が公認されると、キリスト教文書の制作が盛んになり、『旧約聖書』（七十人訳聖書）と『新約聖書』が正典化されました。多くの聖歌やカノンが作られましたが、異教的なものとみなされた古代ギリシアの悲劇は衰退していきました。アレクサンドリア図書館は火災で焼失し、529年にはアテナイの非キリスト教学校が閉鎖され、古代の学問伝統は一時的に衰えました。

中世：ビザンツ帝国と古典の継承

東ローマ帝国（ビザンツ帝国）では、ギリシア語が公用語となり、古典研究が盛んに行われました。フォティオス1世やコンスタンティノス7世などの皇帝の支援もあり、古代ギリシア古典作品が保存・研究されました。13世紀のパレオロゴス朝時代には、ギリシア語による史書の著述や古典研究がさらに活発化し、コンスタンティノポリスはギリシア語文化の中心地でした。1453年のコンスタンティノポリス陥落後、多くのギリシア人学者たちが西ヨーロッパに亡命し、イタリア・ルネサンスにおける古典復興に貢献しました。

近代以降：民族意識と新たな表現

近代ギリシア文学の先駆けとして、『ディゲニス・アクリタス』が挙げられます。オスマン帝国支配下において、ギリシア本土では自由な文化活動は制限されましたが、イスタンブルやキプロス、ヒオス、クレタ、イオニア諸島などでは文学活動が続けられました。クレタ島は特に重要な中心地となり、豊かな文学作品が誕生しました。「エロトクリトス」などは、後のギリシア民衆詩に大きな影響を与えました。

近現代の代表的な作家

ニコス・カザンザキス、イオルゴス・セフェリス、オデッセアス・エリティス、コンスタンディノス・カヴァフィスなど、多くの優れた作家が20世紀以降も活躍し、ギリシア文学は世界的に高い評価を得ています。

ギリシア文学の影響

古代ギリシア文学は、高度な文化を誇り、古代ローマ文学に多大な影響を与えました。その影響は、西洋文学全体に及ぶとされています。

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