ファイヴ・バイ・ファイヴ

ローリング・ストーンズの記念碑的EP『ファイヴ・バイ・ファイヴ』：1964年の衝撃

1964年、ローリング・ストーンズは彼らのキャリアにおいて重要な転換点を迎えることになります。それは、同年6月にシカゴのチェス・スタジオで行われたレコーディングセッションから生まれたEP『ファイヴ・バイ・ファイヴ』(Five by Five)のリリースです。この作品は、デビューアルバム発表後間もない8月にイギリスで発売され、瞬く間にチャートを駆け上がりました。

成長期の才能とR&Bへのオマージュ

このEPには、ミック・ジャガーとキース・リチャーズのソングライティング能力の進化がはっきりと見て取れます。2曲は「ナンカー・フェルジ」名義で発表されていますが、彼らの才能がすでに開花しつつあったことを示す重要な証拠と言えるでしょう。一方、残りの楽曲は、ストーンズが深く敬愛するR&Bアーティストたちの楽曲を巧みにカバーしたもので、彼らの音楽的ルーツと選曲センスが鮮やかに表現されています。プロデューサーにはアンドリュー・ルーグ・オールダムが起用され、彼のプロデュース力とライナーノーツ執筆が、この作品の魅力をさらに高めています。ただし、ライナーノーツにはデビューアルバムのチャート順位に関する若干の誇張が見られる点は留意すべきでしょう。

「南ミシガン通り2120」は、EPでは短いバージョンで収録されていますが、後に発表されたアルバム『12×5』ではフルバージョンが聴くことができます。この楽曲の違いは、初期ストーンズの楽曲制作における実験性と進化を示す興味深い点です。

チャート制覇と後の作品への影響

『ファイヴ・バイ・ファイヴ』はイギリスのEPチャートで堂々の1位を獲得し、その人気を証明しました。さらに、このEPは、同年後半にアメリカでリリースされたセカンドアルバム『12×5』の土台を築いたと言えるでしょう。収録曲の一部が共通しており、アルバム全体の構成にも影響を与えていることがわかります。イギリス人音楽評論家のロイ・カーは、このEPをビートルズの『ロング・トール・サリー』と並ぶ歴史的EPと評しています。

このEPは、長らくCD化されていませんでしたが、2004年にアブコ・レコードによるボックスセット『シングルズ 1963-1965』に収録されたことで、初めてCDで聴くことができるようになりました。その後も、様々なボックスセットや再発盤に収録され、現在でも多くのファンに親しまれています。日本では、ロンドン・レコードから12インチ盤としてリリースされ、当時としては斬新なプロモーションとして、帯にコンドームを模した小型のサックが添付されていたことも有名です。

音楽性とメンバー

『ファイヴ・バイ・ファイヴ』は、ローリング・ストーンズの初期サウンドを象徴する作品です。ミック・ジャガーのリードボーカル、ブライアン・ジョーンズのギターとハーモニカ、キース・リチャーズのギター、チャーリー・ワッツのドラムス、ビル・ワイマンのベース、そしてイアン・スチュワートのキーボードといった、バンドの主要メンバーがそれぞれの持ち味を発揮しています。特に、R&Bカバーでは、彼らの卓越した演奏技術と音楽性が際立ちます。

「エンプティ・ハート」は、後にMC5によってカバーされるなど、他のアーティストにも影響を与えた楽曲であることも注目に値します。

まとめ

『ファイヴ・バイ・ファイヴ』は、ローリング・ストーンズの初期における重要な作品であり、彼らの才能と音楽性を凝縮した一枚です。R&Bへの敬意、そして彼ら独自の音楽性を融合させたこのEPは、ロック音楽史における重要なマイルストーンとして、現在も高く評価されています。その後の彼らの成功の基礎を築いた、まさに歴史的名盤と言えるでしょう。

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