ファゴソーム

ファゴソームとは

ファゴソーム（phagosome）は、食作用を行う細胞（食細胞）が、細菌やウイルス、細胞 debris などの異物を取り込む際に形成される小胞です。この小胞は、細胞膜が異物を包み込むように変形し、最終的に融合することで作られます。ファゴソームは単なる入れ物ではなく、細胞内の消化器官であるリソソームと融合することで、異物を分解・処理する重要な役割を担っています。

形成過程

ファゴソームの形成は、異物が細胞表面の受容体に結合することから始まります。この結合は、細胞内にシグナルを伝え、アクチンの重合を引き起こします。アクチンは細胞骨格の主要な構成要素であり、重合することで細胞膜が異物を取り囲むための仮足（pseudopod）を形成します。仮足が異物を完全に包み込むと、細胞膜が融合し、ファゴソームが完成します。

ファゴソームの形成には、Fc受容体、補体受容体、マンノース受容体など、様々な受容体が関与しています。これらの受容体は、異物を認識し、食作用を促進する役割を果たします。また、オプソニン化と呼ばれる現象もファゴソーム形成を助けます。オプソニン化とは、抗体や補体などの分子が異物に結合し、食細胞による認識を容易にすることです。

成熟過程

形成されたばかりのファゴソームは、まだ異物を分解する能力を持っていません。ファゴソームは、エンドソームやリソソームといった他の細胞内小器官と融合することで成熟し、分解に必要な酵素やタンパク質を獲得します。この成熟過程は、いくつかの段階を経て進行します。

1. 初期ファゴソーム: 形成直後のファゴソームは、Rab5と呼ばれるタンパク質を特徴とします。
2. 後期ファゴソーム: Rab5がRab7に置き換わり、エンドソームとの融合が進みます。
3. ファゴリソソーム: 最終的に、ファゴソームはリソソームと融合し、ファゴリソソームを形成します。リソソームは、加水分解酵素や活性酸素種（ROS）を含んでおり、異物を分解する役割を担っています。

ファゴリソソーム内部は酸性化されており、これは酵素の活性化やタンパク質の変性に役立ちます。分解された異物のうち、アミノ酸などの有用な物質は細胞質基質へ移行し、不要な老廃物はエキソサイトーシスによって細胞外へ排出されます。

ファゴソームの機能

ファゴソームは、生体防御機構において重要な役割を果たしています。食細胞は、ファゴソームを用いて病原体を分解・除去することで、感染症から体を守ります。また、ファゴソームは、アポトーシスを起こした細胞や老化細胞などの不要な細胞 debris を除去することで、組織の恒常性を維持する役割も担っています。

樹状細胞においては、ファゴソーム内で分解された病原体の断片（抗原）が、MHC分子と呼ばれるタンパク質に結合し、細胞表面に提示されます。この抗原提示は、T細胞を活性化し、獲得免疫応答を誘導するために不可欠です。

細菌による回避と操作

一部の細菌は、ファゴソームによる分解を回避する巧妙な戦略を持っています。例えば、結核菌（Mycobacterium tuberculosis）は、ファゴソームとリソソームの融合を阻害することで、ファゴリソソームの形成を防ぎます。また、レジオネラ菌（Legionella pneumophila）は、ファゴソーム膜を改変し、リソソームとの融合を妨げます。

リステリア菌（Listeria monocytogenes）は、ファゴソームから脱出して細胞質内に侵入することで、分解を回避します。これらの細菌は、ファゴソームの機能を巧みに利用し、宿主細胞内での生存と増殖を可能にしています。

まとめ

ファゴソームは、食作用における中心的な役割を担う細胞内小器官です。その形成、成熟、機能は複雑であり、多くのタンパク質や酵素が関与しています。ファゴソームは、生体防御や組織の恒常性維持に不可欠なだけでなく、免疫応答の誘導にも関与しています。また、一部の細菌は、ファゴソームの機能を回避または利用することで、宿主細胞内での生存を可能にしています。ファゴソームの研究は、感染症の予防や治療法の開発に繋がる可能性があります。

参考資料

* MeSH A11.284.430.214.190.875.190.700

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