ファールス地方のサーサーン朝考古景観

ファールス地方のサーサーン朝考古景観

ファールス地方のサーサーン朝考古景観は、イランの世界遺産のひとつであり、サーサーン朝の成立・勃興期（3世紀）と末期（7世紀頃）の遺跡、計8件で構成されています。これらの遺跡は、ファールス州内のフィールーズアーバード郡、カーゼルーン郡、サルヴェスターン郡に位置し、フィールーズアーバード（5件）、ビーシャープール（3件）、サルヴェスターン（1件）の3つのエリアに分かれています。

構成資産

フィールーズアーバード

シーラーズの南に位置するフィールーズアーバードは、サーサーン朝初代の王であるアルダシール1世が首都とした場所です。彼が建設した建造物群が今も残っており、以下の5件の構成資産は、戦略的要所であるTang-i Ab渓谷周辺に位置しています。

ドフタル城（ガルエ・ドフタル）（乙女の城）: 209年に渓谷北端の断崖上に築かれた城塞で、アルダシール1世がパルティアとの戦いのために建設しました。
王権の象徴を授与されるアルダシール1世のレリーフ: ゾロアスター教の神アフラ・マズダーから王権の象徴を授けられる場面を描いたレリーフで、渓谷の右岸に刻まれています。
アルタバノス4世に勝ったアルダシール1世のレリーフ: アルダシール1世がパルティア最後の王アルタバノス4世を破った戦勝記念碑で、渓谷南端に位置します。現存するレリーフとしてはイラン最大です。
シャフレ・グール（アルダシールフルラ）: アルダシール1世が築いた円形都市で、イラン初の円形都市とされています。中心部には行政や祭祀に関する建物があったとされ、火の寺院の遺構も残っています。
アルダシール1世宮殿: サーサーン朝の王権を確立した後に建てられた宮殿で、堅固な防壁は備えていません。

ビーシャープール

ビーシャープールは、シャープール1世にちなんで名付けられた都市で、カーゼルーン近郊に位置しています。この都市遺跡は、「サーサーン朝の栄光と偉大さを物語る最も重要な史跡」とも言われ、エデッサの戦いに勝利し、ローマ皇帝ウァレリアヌスを捕虜にした後に築かれたウァレリアヌス宮殿や、ゾロアスター教の水の女神アナーヒターを祀る寺院などが残っています。また、ビーシャープールから6kmに位置するシャープール洞窟には、巨大なシャープール1世の立像があります。

サルヴェスターン

サルヴェスターン郡には、都市サルヴェスターンの南10km前後に残る宮殿の遺跡があります。この宮殿は、5世紀前半の王バハラーム5世が建てたとも言われていますが、放射性炭素年代測定では7世紀後半から9世紀のものであることが示唆されており、サーサーン朝末期の建造物と考えられています。王宮として信じられていましたが、考古学的知見から「火の寺院」だった可能性も指摘されています。

登録経緯

この資産は、当初フィールーズアーバード単独で世界遺産の暫定リストに記載されていましたが、後にビーシャプールとサルヴェスターンを含めて再構成されました。2018年の第42回世界遺産委員会では、ICOMOSから登録延期の勧告が出されたものの、委員国の支持により、8件すべての登録が認められました。

登録基準

この世界遺産は、以下の登録基準を満たしています。

(2) ある期間を通じてまたはある文化圏において、建築、技術、記念碑的芸術、都市計画、景観デザインの発展に関し、人類の価値の重要な交流を示すもの。
(3) 現存するまたは消滅した文化的伝統または文明の、唯一のまたは少なくとも稀な証拠。
(5) ある文化（または複数の文化）を代表する伝統的集落、あるいは陸上ないし海上利用の際立った例。もしくは特に不可逆的な変化の中で存続が危ぶまれている人と環境の関わりあいの際立った例。

ファールス地方のサーサーン朝考古景観は、サーサーン朝の文化、建築、都市計画を今に伝える貴重な遺産であり、その普遍的な価値が認められています。

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