フランシスコ・カブラル

フランシスコ・カブラル：日本布教における功績と負の遺産

フランシスコ・カブラル（Francisco Cabral、1529年 - 1609年4月16日）は、戦国時代末期の日本に派遣されたイエズス会宣教師であり、カトリック教会の司祭です。彼は日本布教区の責任者という重要な役割を担いましたが、その言動は多くの議論を呼びました。

生涯

スペイン貴族の家系に生まれたカブラルは、コインブラで学び、インドで軍人として活動中にイエズス会に入会しました。高度な教育を受けていた彼は、1558年には司祭に叙階され、その後インド各地で要職を歴任。コスメ・デ・トーレスの後任として日本に派遣され、1570年（永禄13年）に天草志岐に到着しました。この時、ニェッキ・ソルディ・オルガンティノも同行していましたが、事前にカブラルとオルガンティノの間で管区長代理の権限が重複するという問題が発生しており、これが日本での対立の火種となりました。

日本に到着後、カブラルはただちに日本布教区の責任者として宣教方針を決定しました。その際、彼はイエズス会員が絹の着物を着ていることを清貧の精神に反すると指摘。前任者のトーレスは、日本の社会では服装が重要視されると考え、宣教師にあえて良い服を着るように勧めていましたが、カブラルは日本の事情を考慮しませんでした。

適応主義の否定

トーレスはフランシスコ・ザビエルと同様に日本人の資質を高く評価し、宣教師たちに日本文化に根ざした生活様式を求めました。この「適応主義」は布教の成功に大きく貢献しましたが、カブラルはこれを否定しました。彼はヨーロッパ中心主義の考えから抜け出せず、日本人を低能力な民族とみなし、ヨーロッパ式の教えを押し付けることが日本人のためになると考えていました。

カブラルはジョアン・デ・トーレス、ケンゼン・ジョアンという2人の日本人伝道士を伴い、戦乱の続く畿内を視察。堺でオルガンティノとロレンソ了斎の出迎えを受け、足利義昭との会見に成功。さらにルイス・フロイスを伴って岐阜へ向かい、織田信長の庇護を受けることに成功しました。フロイスによれば、カブラルが眼鏡をかけていたことから、岐阜の市民の間で「伴天連は目が四つある」という噂が広まり、岐阜城の門前には多くの人が集まったそうです。

1573年（天正元年）には、カブラルは山口へ足を運び、信徒から大歓迎を受けました。その後、九州に戻り、大友宗麟に洗礼を授けました。宗麟は若き日に出会ったザビエルへの追憶として、フランシスコという洗礼名を選びました。

日本人観とヴァリニャーノとの対立

一見順調に見えたイエズス会の布教活動でしたが、カブラルの政策によって日本人信徒と宣教師の間に溝が生まれつつありました。彼は日本語を習得させず、日本人にもラテン語やポルトガル語を教えようとしませんでした。その理由は、日本人がこれらの言語を理解すると宣教師を尊敬しなくなるから、というものでした。さらに、日本人が司祭になる道も閉ざされていました。

1579年（天正7年）、巡察師アレッサンドロ・ヴァリニャーノが日本を訪れ、カブラルから日本人が布教に適していないという報告を受け、衝撃を受けました。ヴァリニャーノは畿内を視察し、多くの優れたキリスト教徒やキリシタン武将に出会い、日本布教の問題点がカブラルにあると考えるようになりました。

ヴァリニャーノはカブラルの宣教方針を否定し、日本人司祭の育成、本部との連絡の徹底、トーレスの適応主義の復活を指示しました。カブラルはヴァリニャーノを非難しましたが、1581年（天正9年）に布教責任者を解任されました。

その後

1583年（天正11年）に日本を離れてマカオへ移ったカブラルは、後にインドのゴアへ移り、1592年から1597年までインド管区長を務めました。1609年4月16日、ゴアで生涯を終えました。

カブラルの日本人観は、同時代人の制約から抜け出せず、ヨーロッパ中心主義的なものでした。彼は日本人を「黒人」とみなすなど、差別的な言動も目立ちました。彼の功績は、織田信長の庇護を得るなど初期の布教活動を推進した点にありますが、適応主義を否定し、日本人を差別したことは、負の遺産として残りました。

カブラルの物語は、異文化理解の難しさと、先入観や偏見がもたらす弊害を教えてくれます。また、ヴァリニャーノのような人物が現れ、誤った方向に進む組織を修正することの重要性も示唆しています。

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