フランシス・ジェフリー

フランシス・ジェフリー（Francis Jeffrey, 1773年 10月23日 - 1850年 1月26日）は、18世紀後半から19世紀にかけて活動したスコットランド出身の著名な人物であり、特に裁判官、そして影響力のある文芸批評家として知られています。彼は、イギリスの知的・文化的世界に大きな足跡を残した文芸雑誌『エディンバラ・レビュー』の創刊に深く関わり、長年にわたりその編集者として論壇を牽引しました。

生涯と学業

ジェフリーはエディンバラで、民事控訴院の書記を務めるジョージ・ジェフリーの息子として生まれました。エディンバラ王立高等学校で6年間学んだ後、グラスゴー大学に進学し、論理学・修辞学教授ジョージ・ジャーディンの影響を受け、弁論術を磨くとともに法学を修めました。オックスフォード大学ザ・クイーンズ・カレッジでも学びましたが、すぐにエディンバラ大学に戻り、歴史、法学、そしてドゥガルド・スチュアートによる政治経済学の講義を聴講しました。

1794年12月にスコットランドで弁護士資格を取得しましたが、当初抱いていたトーリー党的な思想から、ホイッグ党へと政治的立場を大きく転換させたため、当時の法曹界で順調なキャリアを築くことは容易ではありませんでした。

『エディンバラ・レビュー』の創刊と発展

弁護士としてのスタートが困難であったジェフリーは、1798年にロンドンでジャーナリズムの世界に足を踏み入れますが、当初は成功しませんでした。1801年に最初の妻キャサリン・ウィルソンと結婚し、安定した収入の必要性をより強く感じます。1805年にキャサリンと死別しますが、1813年にはアメリカのシャーロット・ウィルクスと再婚。結婚前にシャーロットと共にアメリカ各地を巡った経験は、彼の政治観、特にアメリカに対する融和的な政策への支持を一層深めました。

文芸雑誌の創刊というアイデアは、ジェフリーを含むホイッグ党系の知識人たちが集まった際にシドニー・スミスによって提案されました。この着想が、1802年10月10日の『エディンバラ・レビュー』創刊へと繋がります。当初、特定の編集者は不在でしたが、創刊3号までを編集したスミスがロンドンへ移った後、ジェフリーがその任を引き継ぎました。彼は1803年から1829年まで、弁護士業と並行して、この影響力ある雑誌の編集長を務めました。

『エディンバラ・レビュー』の寄稿者の多くはホイッグ党支持者であり、雑誌全体として社会・政治改革を強く訴える傾向にありました。特にスコットランドでは、ホイッグ党の主張を伝えるメディアがほとんど存在しなかったため、創刊号がもたらした衝撃は非常に大きかったと評されています。当初は非党派的な寄稿者（ウォルター・スコットなど）もいましたが、ジェフリーが書いた記事を契機にホイッグ党の色合いが鮮明になり、スコットが離脱して対抗誌『クォータリー・レビュー』が創刊される一因ともなりました。

当時の評論誌とは異なり、『エディンバラ・レビュー』は出版者ではなく、編集者であるジェフリーの指示に基づき、能力のある独立した書き手が記事を作成する体制を採用しました。彼らは高額な報酬を受け取り、これが雑誌の質の高さと成功を支えました。主要な創刊メンバーが離れてからも、この画期的な体制により雑誌は隆盛を誇り、最盛期には12,000部を発行しました。ジェフリーが編集を退いた後も、マクヴィー・ネイピアらが引き継ぎ、様々な分野の著名な知識人が寄稿を続けました。

批評家としての活躍

ジェフリー自身は、『エディンバラ・レビュー』に200本を超える記事を寄稿しました。多くは編集長時代に執筆されたもので、必ずしも周到な準備なく書かれたものも含まれますが、その内容は多岐にわたり、明晰で深い洞察に満ちています。アーチボールド・アリソンの美的趣味論、ジェレミー・ベンサムの立法論、文学と社会制度の関係など、幅広いテーマを扱いました。特に知られているのは、特定の文学作品に対する手厳しい論評です。

彼の批評家としての素養は、エディンバラ大学で受けたドゥガルド・スチュアートによる哲学教育や、スコットランド常識学派の伝統に根差しています。これらの影響は、政治経済、形而上学、倫理学といった分野の基礎知識を批評に応用する形で表れました。例えば、彼はスコットランド詩人ウィリアム・ドラモンドの観念論を批判し、実在的な事象と結びつかない「心的感覚」に依拠する姿勢に慎重な立場を示しました。また、物質的な運動に全てを帰する唯物論や、功利主義における善悪の基準が道徳的感情に依存する点について、ベンサムらを批判しています。

私生活では、1806年にトマス・ムーアの詩の道徳性を批判したことが原因で決闘騒ぎに発展しましたが、当局に止められ、後に両者は和解し、ムーアは『エディンバラ・レビュー』に寄稿するなど良好な関係を築きました。

「湖畔詩人」への辛辣な批評

ジェフリーの批評活動で最も有名なのは、ロマン主義詩人たち、とりわけウィリアム・ワーズワース、ロバート・サウジー、サミュエル・テイラー・コールリッジといった、イングランド北部の湖水地方を拠点とした詩人たちへの厳しい論評です。彼は創刊号でサウジー作品を批判したのを皮切りに、ワーズワースの1807年詩集に対して「独創性を謳いながら陳腐」と断じ、彼らの詩を攻撃・嘲笑しました。1811年の書評では、ワーズワースらを「先人の模倣、猿真似」「明らさまに、また忌々しいほど作為的」と酷評しています。

コールリッジが自身の『文学的自叙伝』（1817年）でジェフリーの批判に応答すると、ジェフリーはこれに対し、『エディンバラ・レビュー』に掲載された同書評に編集者注を付け、再び彼らの詩を「めそめそして気が病んでいる（whining and hypochondriacal）」とこき下ろしました。この注において、彼らをまとめて指す「湖畔派（Lake School）」という蔑称が初めて用いられ、広く知られることとなりました。

弁護士そして政治家として

『エディンバラ・レビュー』での成功は、ジェフリーが主戦場とした法曹界でのキャリアにも良い影響を与えました。彼は民事・刑事両方の裁判で活躍し、スコットランド国教会の全体集会にも定期的に出席。その鋭敏な洞察力と流麗な弁舌は、証人や相手側の主張の弱点を見抜く上で遺憾なく発揮されました。

ジェフリーはグラスゴー大学の教区牧師や、スコットランド弁護士会の会長にも選ばれています。特に1829年の弁護士会会長就任は、『エディンバラ・レビュー』編集業務からの引退を決意する大きな契機となりました。

1820年代にはホイッグ党政治への関与を深め、1830年にホイッグ党が政権を握ると法務総裁（Lord Advocate）に任命されました。また、1830年と1834年には下院議員としても議会活動を行いました。

議員を辞した後、スコットランドの最高裁判所である民事控訴院で裁判官となり、「ジェフリー卿（Lord Jeffrey）」と呼ばれるようになりました。特に晩年の1842年から死去する1850年までは、その上部組織で重要な役割を担いました。1843年にスコットランド教会が分裂した際には、脱退者側の弁護を務めています。

フランシス・ジェフリーは1850年にエディンバラで亡くなり、同市のディーン墓地に埋葬されました。

業績と記念

ジェフリーが『エディンバラ・レビュー』に寄稿した200以上の記事の一部は、後に自身によって選ばれて出版されています。また、友人であったコックバーン卿による伝記『ジェフリー卿の生涯と書簡選集』が刊行され、ジェフリーの生涯と業績を伝える貴重な資料となっています。

エディンバラには彼の名を冠したジェフリー・ストリートがあり、議事堂にはジョン・スティール卿による彼の胸像が設置されるなど、スコットランドにおける彼の功績は今なお記憶されています。

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