フランス (客船・2代)

豪華客船「フランス」の生涯：栄光と波乱

「フランス」は、フランスのカンパニー・ジェネラール・トランザトランティーク（CGT、現CMA CGM）が運航した伝説的な遠洋定期旅客船です。1962年に華々しくデビューし、その巨大な船体と豪華な内装で世界を魅了しました。サン＝ナゼールのアトランティーク造船所で建造され、1960年の時点で世界最長の旅客船として名を馳せました。その記録は、2004年に「クイーン・メリー2」が登場するまで破られることはありませんでした。

「フランス」時代：栄光の航海

1957年 10月7日、「フランス」はフレンチ・ラインの客船として起工されました。この船台は、かつて「ノルマンディー」が建造された場所と同じでした。1960年 5月11日、シャルル・ド・ゴール大統領夫人イヴォンヌ・ド・ゴールによって「フランス」と命名され、盛大な進水式を迎えました。1961年 11月19日に完成し、翌1962年 2月3日、北大西洋航路にデビューしました。

試験運転では、最高出力17万5千馬力、速度35.21ノットを記録しましたが、ブルーリボン賞を獲得していた「ユナイテッド・ステーツ」には及びませんでした。しかし、処女航海では平均速度約31ノットを達成し、その性能の高さを証明しました。「フランス」は、2月から11月にかけてル・アーブル、サウサンプトン、ニューヨーク間の定期航路を運航し、12月から1月にはドック入り整備やカリブ海クルーズを実施していました。

船内には11の公室があり、それぞれが異なる芸術家によって個性を発揮して装飾されました。特に、古典フランス料理を提供するレストランは、当時の料理評論家から絶賛され、「種類が豊富で優れた料理の数々には驚嘆する。これほどの最高の味を堪能させてくれる場所は他にはない」と評されました。しかし、1960年代には航空機の普及により大陸間の移動手段は航空機が主流となり、夏の旅行シーズンを除いて満席になることは少なかったようです。

また、「フランス」は1航海で6000トンもの燃料を消費し、多くの乗組員の人件費もかさみ、年間を通して巨額の赤字を計上しました。そのため、フランス政府から多額の補助金を受けて運航を続けました。しかし、一部の国会議員やマスコミからは、国威発揚を目的としたド・ゴール大統領の個人的事業ではないかと批判の声も上がりました。

フレンチ・ラインは、新たな乗客層を獲得するため、1972年と1974年のオフシーズンに3ヶ月間の世界一周クルーズを実施しましたが、「フランス」のサイズがパナマ運河を通行できなかったため、ホーン岬経由となり、航海距離が長くなってしまいました。その結果、クルーズスタッフや消耗品の輸送、燃料補給に莫大な費用がかかり、さらなる赤字を招きました。1974年、ド・ゴールの政敵であるヴァレリー・ジスカール・デスタンが大統領に就任すると、フランス政府からの補助金が打ち切られ、フレンチ・ラインは「フランス」の運航停止を決定しました。1974年 9月11日、最後の北大西洋航路での運航を終え、12月にはル・アーブルに係船されました。

「ノルウェー」時代：クルーズ客船としての再生

1977年、一旦買い手がついたものの再利用されなかった「フランス」は、1979年、ノルウェージャン・クルーズライン（NCL）に購入され、カリブ海クルーズ用客船として生まれ変わることになりました。長年の母港であったル・アーブルから西ドイツのブレーマーハーフェンへ回航され、「フランス」という名前にも別れを告げました。

クルーズ客船への改装では、定員を2400人に増やすために客室が大幅に増設されました。一方、高速航行は不要となったため、ボイラーの半分が撤去され、最高出力は4万馬力、速度は17ノットにまで減速されました。島巡りに使用する400人乗りの大型ランチも搭載され、塗装も白と青のツートンカラーに変更されました。1980年4月14日、改装工事が完了し、船名は「ノルウェー」(SS Norway)となりました。総トン数は7万トンに達し、当時世界最大のクルーズ客船であったP&Oの「キャンベラ」を抜いて、世界最大のクルーズ客船となりました。

その後も数回にわたる改装が行われ、特に1990年の改装では、最上部デッキに客室が増設されたため、「フランス」時代の面影は大きく失われてしまいました。

晩年：悲劇的な最期

2003年 5月25日、「ノルウェー」は機関室のボイラー爆発事故に見舞われ、死者8名、負傷者17名という痛ましい惨事が発生しました。幸い乗客に怪我はありませんでしたが、NTSBの調査により、事故原因は老朽化したボイラーの点検・整備不良と断定されました。事故後、「ノルウェー」はマイアミに係船されましたが、修理のためにドイツへの回航が決まりました。2003年 9月6日にマイアミを出港し、9月23日にブレーマーハーフェンに到着しましたが、これが最後の航海となりました。

NCLは、破損したボイラーの修復を検討しましたが、困難と判断し、そのまま係船されました。船内設備はNCLが新たに就航するクルーズ客船の乗組員訓練用として利用されました。2004年 3月23日、NCLは「ノルウェーは二度と航海に戻ることはない」と発表し、事実上の廃船となりました。同時に船籍がNCLの親会社であるスタークルーズに変更されました。

解体の方針が決定しましたが、船内で使用されていた大量の残留アスベストのため、バーゼル条約によりドイツ国内からの解体が禁止されました。NCLは、修理後にオーストラリアで就航させると偽り、ドイツ当局からの出航許可を得て、2005年 5月23日にブレーマーハーフェンを出港し、マレーシアのポート・クラン港に向かいました。しかし、そのまま解体されることになり、2006年には、新たな船主に売却され、リベリア船籍となり、船名も「ブルーレディ」(SS Blue Lady)に変更されました。

その後、解体場所をめぐって環境保護団体から裁判が起こされるなど、様々なトラブルが発生しましたが、2007年 9月11日に裁判所から解体許可が下されました。インドのアランに回航された「ブルーレディ」は、2008年 1月20日から解体作業が開始され、同年中に解体作業を終えました。

解体前に収集された備品や船体の一部はオークションで売却されました。「ノルウェー」に改装される前に船体に掲げられていた「FRANCE」のネオンサインは、復元され、パリの国立海洋博物館で展示されています。

参考文献

野間恒『世界の船』保育社カラーブックス、1970年
柳原良平・中村庸夫『世界の客船』保育社カラーブックス、1983年
柳原良平『船旅の絵本』徳間書店徳間文庫、1986年
柳原良平『柳原良平船の本③ 船図鑑』徳間書店徳間文庫、1988年
柳原良平『船旅を楽しむ本』講談社現代新書、1987年

外部リンク

The Classic Liners of Long Ago: France
The liner France in French Lines Archives
Compagnie Générale Transatlantique
S/S Norway Preservation Foundation
The Great Ocean Liners: France
1
Norway Farewell Transatlantic 2001; many photos of Norway, including interiors and details of artwork
Slide show of SS France/Norway images
Webpage Pictures galleries and personal stories from SS France and SS Norway
SS france Pictures from the official French Line Archives (French captions)
SS France: The tour page
* 3-D virtual still photo and movie renderings of SS France

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