フーコン渓谷

フーコン渓谷：ミャンマーの秘境

フーコン渓谷は、ミャンマー（旧ビルマ）北部のカチン州に位置する広大な渓谷です。その面積は約14,500平方キロメートルに及び、カチン州のミッチーナー県タナイン市に属しています。渓谷は急峻な山々に囲まれ、チンドウィン川の源流となっています。

地理と水系

渓谷の西、北、東には険しい山脈が連なり、これらの山々からタナイ･クハ川、タビエ川、タワン川、テュロン川の4つの川が流れ込みます。これらの川は渓谷内で合流し、チンドウィン川となって南西方向へと流れ出ます。この豊かな水系が、フーコン渓谷の自然を育んでいます。

自然環境と保護

かつて渓谷の斜面は、豊富な雨量に恵まれ、深い森林地帯に覆われていました。特にチーク材は古くから利用されていましたが、近代に入り伐採が著しく進行。その結果、生物の生息環境が悪化し、特にトラの生息数は激減、100頭未満と推定されるほど深刻な状況です。絶滅の危機に瀕したトラを保護するため、2004年にミャンマー政府は渓谷内の約6,500平方キロメートルを「フーコン渓谷野生動物保護区」に指定し、カチン独立軍（KIA）と協力して保護活動を行っています。この保護区は、トラの保護地域としては世界最大級の規模を誇ります。

また、1997年には渓谷に生息する「フェト・ギイ」と呼ばれる小型のシカが、DNA分析によりホエジカ属の独立種であることが確認されました。フーコン渓谷はコハクや金の産地としても知られています。2006年には、この地で産出されたコハクから、約1億年前のハチの化石が発見されました。この化石はMelittosphex burmensisと名付けられ、白亜紀中期の貴重な発見として注目されています。コハクは古くから採掘されていましたが、金が注目されるようになったのは比較的最近のことです。現在のフーコン渓谷は、一種のゴールドラッシュ状態となっています。

ミャンマーの他の山岳地帯と同様に、フーコン渓谷も交通の便が悪く、政治的な対立も抱えているため、自然環境に関する情報は限られています。しかし、急激な開発が進む一方で、自然環境の保護が喫緊の課題となっています。

歴史

第二次世界大戦中、日本軍がビルマを占領した際、連合国側のアメリカは、フーコン渓谷を横断するレド公路を建設しました。この道路は、中国への補給路を確保するために不可欠なものでした。建設には、アメリカ軍の黒人兵士で構成された工兵大隊と、中国人の荷役部隊が主力として貢献しました。

まとめ

フーコン渓谷は、その豊かな自然と歴史的背景から、多くの関心を集める場所です。しかし、急激な開発や資源の乱獲により、自然環境は危機に瀕しています。トラをはじめとする貴重な野生動物を守るための保護活動、そして持続可能な開発が求められています。今後のフーコン渓谷の動向は、ミャンマーの自然保護だけでなく、世界の環境問題への取り組みにも大きな影響を与えるでしょう。

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