ブダシリ

ブダシリ：モンゴル帝国を揺るがした皇后の生涯

ブダシリ（不答失里）は、元朝の第3代皇帝、文宗トク・テムルの皇后として知られています。コンギラト部という名門に生まれ、トク・テムルとは血縁関係も深く、その正室として生涯を共にすることになります。

トク・テムルがまだ懐王と呼ばれていた頃、ブダシリは彼と共に江南での生活を送りました。そして天暦元年（1328年）、トク・テムルがカアンとして即位すると、ブダシリは皇后の座に就きます。二人はエル・テグスら複数の子をもうけました。

しかし、トク・テムルが至順3年（1332年）に崩御すると、事態は複雑さを増していきます。権勢を振るっていたエル・テムルは、トク・テムルの息子エル・テグスを擁立しようと画策しました。しかし、ブダシリは夫の遺志を尊重し、トク・テムルの兄である明宗コシラの遺児を後継者とすることを主張しました。

この主張は、エル・テムルの意に反しましたが、彼は権力の維持を優先し、コシラの幼い遺児リンチンバルを新たにカアンに擁立します。ブダシリはリンチンバルの即位に伴い皇太后となりますが、リンチンバルはわずか2ヶ月で病死してしまいます。

再びエル・テグスの擁立を迫られたブダシリでしたが、今度はエル・テグスの幼少を理由にこれを拒否。コシラの成人した長男、トゴン・テムルを後継者に推挙しました。こうしてトゴン・テムルが広西から呼び戻され、即位することになります。ブダシリは太皇太后の尊号を受け、摂政を務めることになりましたが、政治の実権はエル・テムル、そしてその後を継いだバヤンという軍閥の手に握られたまま、ブダシリとトゴン・テムルは傀儡として政治を余儀なくされました。

しかし、トゴン・テムルは成長し、20代に差し掛かると、その傀儡の立場に耐えかねるようになります。後至元6年（1340年）、彼はバヤンの甥であるトクトと手を結び、バヤンを打倒するクーデターを起こしました。

この政変は、ブダシリとエル・テグスの運命をも変えます。バヤンによってトゴン・テムルの後継者に内定していたエル・テグスは皇太子を廃され、実母であるブダシリと共に追放されてしまいます。エル・テグスは高麗へ向かう途中で殺害され、ブダシリも追放先の東安州で急死しました。

ブダシリの生涯は、権力闘争に翻弄されながらも、自らの信念を貫き通そうとした強さと、その悲劇的な最期が、彼女を元朝の歴史における重要な人物として位置付けています。名家の出身でありながら、常に政治の渦中に身を置き、その決断は元朝の行く末に大きな影響を与えました。彼女の生き様は、権力と運命、そして母としての強い愛情を複雑に織りなすドラマとして、後世に語り継がれるべきでしょう。

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