トク・テムル

トク・テムル：モンゴル帝国の短命な皇帝

トク・テムル(1304年2月16日-1332年9月2日)は、モンゴル帝国第12代カアン、元朝第8代皇帝として知られます。第7代カアン、武宗カイシャンの次男であり、母はタングート出身の昭聖皇后でした。兄は明宗コシラです。

権力闘争と流刑

8歳の時に父カイシャンが急死。叔父のアユルバルワダが即位すると、祖母ダギや丞相テムデルらによる陰謀により、コンギラト部出身の母を持たないコシラ兄弟は中央から遠ざけられ、海南島に流刑となりました。英宗シデバラの治世下でもその状況は変わらず、1323年、シデバラの暗殺後も中央政界には戻れませんでした。晋王イェスン・テムルが即位すると、トク・テムルは懐王に封じられ、建康、そして江陵へと移されました。

予期せぬ即位と譲位

1328年、イェスン・テムルが崩御すると、大都のキプチャク親衛軍司令官エル・テムルがカイシャンの遺児擁立を掲げ反乱。遠方にいたコシラに代わり、近郊の江陵にいたトク・テムルを大都に迎え、即位させました。しかし、トク・テムルは当初即位を拒否。エル・テムルの説得を受け、兄コシラへの譲位を条件に一時的に即位しました。上都ではイェスン・テムルの寵臣ダウラト・シャーが、イェスン・テムルの遺児アリギバを擁立しましたが、エル・テムル率いる大都軍の勝利により、この動きは鎮圧されました。

しかし、コシラはアルタイ山脈西麓からモンゴル高原の諸王族・有力者の支持を得ていました。1329年4月、トク・テムルはコシラに皇帝の玉璽を奉呈し、カアンの座を譲りました。トク・テムルは皇太子となり、宮廷重職にはコシラの側近が配置されました。

再即位とエル・テムルの影

エル・テムルら大都の勢力は、コシラ即位による政権掌握の危険性を察知していました。コシラとの再会直後、コシラは急死。トク・テムルは8月15日に復位しました。エル・テムルはコシラの側近を粛清し、大都の軍閥勢力が再び政権を握りました。トク・テムルの治世は、エル・テムルの独裁に牛耳られ、カアン自身は傀儡に過ぎませんでした。政治的には元朝の衰退が顕著になった時代でした。

短命な治世と遺産

1332年、安西王アナンダの子オルク・テムルによるカアン擁立の陰謀が露見し、オルク・テムルらは処刑されました。同年、トク・テムルは30歳未満で急死しました。後継者には兄コシラの次男イリンジバルが選ばれ、エル・テグスらトク・テムルの息子たちは後継者から外されました。

文化政策

トク・テムルはチベット仏教寺院への多額の寄付や儒学の保護など、文化事業にも関与しました。特に、『経世大典』の編纂は、彼の治世における大きな文化的成果として挙げられます。しかし、彼の治世はエル・テムルを中心とした軍閥の利権争いに彩られ、元朝の衰退を加速させるものとなりました。トク・テムルの短い治世は、権力闘争と政治的不安定、そしてその後継者問題までを含む、元朝の衰退期を象徴する出来事でした。

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