ブバスティス

古代エジプトの重要な都市の一つであるブバスティスは、現在のエジプト、シャルキーヤ県の県都ザガジグの郊外に位置するテル＝バスタ遺跡にあたります。古代エジプト語では「ペル＝バスト」（Pr-Bȝśt.t）と呼ばれ、「バステトの家」、すなわち「バステト神殿」を意味する名を持っていました。この名称がギリシア語の「ブバスティス」の由来となり、聖書のエゼキエル書に記される「ピ・ベセト」もこの地を指すとされています。

地理と歴史

ブバスティスは、下エジプトのナイル川デルタ地域に位置し、特にナイル川のペルシオン支流東岸近くに立地していました。行政的には、下エジプト第18ノモスであるブバスティス・ノモス（アム＝ケント・ノモス）の州都として機能しました。この地域は、かつてエジプトの軍人階級であるカラシリエスに割り当てられた地区の一部でした。

都市が政治的に重要な地位を占めるようになったのは、紀元前10世紀頃からです。第22王朝の創始者であるファラオ、シェションク1世（紀元前943年即位）以降、ブバスティスは王室所在地となり、続く第23王朝の時代にかけて最盛期を迎えました。この繁栄は、紀元前525年にアケメネス朝ペルシアのカンビュセス2世によってエジプトが征服されるまで続きました。ペルシア軍によって都市は破壊され、その市壁は取り壊されました。

ペルシアによる破壊以降、ブバスティスは次第に衰退していきましたが、キリスト教時代には第2アウグスタムニカ属州の一部として主教座が置かれていた記録も残っています。4世紀から5世紀にかけて、ハルポクラテス、ヘルモン、ユリアヌスという名の司教たちがこの地にいたことが文献で確認されています。紀元前5世紀のギリシアの歴史家ヘロドトスは、ペルシア侵攻後間もない時期にこの地を訪れており、特にバステト神殿やそこで行われる祭りの様子を詳細に記述しています。彼の記録は、当時のブバスティスの様子を知る貴重な資料となっています。

宗教の中心地

ブバスティスは、何よりも女神バステト信仰の中心地として古代エジプトで特別な役割を果たしました。バステトは通常、ネコまたは雌ライオンの頭部を持つ女性、あるいは単にネコの姿で表現され、家庭、豊穣、そして守護を司る神として崇拝されました。古代ギリシア人はバステトを自らの女神アルテミスと同一視しました。

バステト信仰と深く結びついたネコは、この都市において非常に神聖視されました。そのため、ブバスティスには広大なネコ専用の墓地があり、数え切れないほどのネコのミイラが丁寧に埋葬されていました。このネコのミイラ埋葬地は、古代エジプトにおけるこのような墓地の中でも最大級のものの一つです。また、バステト神殿には神託所も設けられており、多くの人々がその神託を聞くために集まりました。

ヘロドトスが描写したバステト神に捧げられる祭りは、古代エジプトの年間行事の中でも特に有名で、非常に賑やかで歓喜に満ちたものだったと伝えられています。エジプト中から多くの巡礼者が船でブバスティスに集まり、歌や踊りを捧げながら神を称えました。

現代の調査

ブバスティスの遺跡では、現代に至るまで様々な考古学的調査が行われています。1964年12月には、エジプトの考古学者シャフィク・ファリドによって、後期新王国時代の宰相イウティの墳墓が「貴人の墓地」から発見されました。2004年3月には、エジプト語、ギリシア語、デモティック（民衆文字）で記されたカノプス勅令の保存状態の良い写しがこの地で見つかりました。2008年以降は、ドイツとエジプトの合同チームによる「テル＝バスタ・プロジェクト」が継続的に発掘調査を進め、多くの知見をもたらしています。

ザガジグ大学や周辺の博物館には、ブバスティス遺跡からの出土品が収蔵・展示されており、古代都市の栄華を今に伝えています。

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