シェションク1世
古代エジプト第22王朝の初代ファラオであるシェションク1世は、紀元前945年頃から紀元前924年頃まで統治しました。彼の即位名はヘジュケペルラー・セテプエンラー、「明るきはラーの出現、ラーに選ばれしもの」を意味します。シェションクは、エジプト史上初めてリビュア系の部族出身者による王朝を創設し、長らく南北に分裂していた国家を再統一した人物です。また、旧約聖書には「シシャク王」として登場し、イスラエル王国への遠征を行ったことでも知られています。
シェションク1世は、エジプト西デルタに移住していたリビュア系部族、メシュウェシュ族の有力な家系に生まれました。第19王朝期以降、多くのリビュア人がエジプトに入り軍人として頭角を現し、土地や官職を得て地方で勢力を拡大していました。シェションクの家系もその中で大きな力を持つに至り、父や祖父は「マーの首長」の称号を持ちました。彼の叔父大オソルコンは、シェションクに先駆けてリビュア系初のファラオとして即位しています。
シェションクは、第21王朝のファラオ、プスセンネス2世の娘マアトカラーの義父となることで王室との結びつきを強め、エジプト軍最高司令官や王の側近として権力を確立しました。プスセンネス2世の死後、彼は王位を継承し、その正統性を主張するため第21王朝創設者スメンデス1世と同じ即位名を用いました。
即位後の最重要課題は、長年にわたり南北に分断されていたエジプトの再統合でした。シェションク1世は、上エジプトを支配していたテーベのアメン神官団の世襲制を廃止し、次男イウプトをアメン大司祭に任命するとともに、上エジプト長官と軍司令官の職も兼任させました。これにより、事実上の独立勢力となっていた神官団を、ブバスティスから統治する王権の監視下に置き、王権を一つに統合しました。また、主要な地位に親族を配置する政策を取りました。これは、リビュア人社会の伝統的な統治手法を応用したもので、一族による支配体制を強固にするためでしたが、後の王朝分裂の一因ともなりました。
国内を安定させたシェションク1世は、治世後半に中東地域への影響力回復を目指し、積極的な対外政策を展開しました。当時、シリア・パレスティナ地域では、イスラエル王国がダビデ、ソロモン両王のもとで勢力を拡大していましたが、ソロモンの死後、王国は南北に分裂しました。
旧約聖書には、イスラエル王となると予言されソロモンに追われたヤロブアムがエジプトに逃れ、シシャク王に庇護されたと記されています。このシシャク王は、多くの研究者によってシェションク1世に比定されています。イスラエルがレハブアムを王とするユダ王国と、ヤロブアムを王とする北イスラエル王国に分裂した内紛に乗じて、シェションク1世はレハブアムの治世5年目、紀元前925年頃にパレスティナへの大規模な遠征を実行しました。
シェションクの軍勢はユダ王国に侵攻し、エルサレムを包囲しました。レハブアムは多額の財宝を差し出して都市の破壊を免れましたが、ソロモンの神殿や王宮は略奪され、契約の箱を除くほとんどの宝物がエジプトへ持ち去られました（列王記上14章26節）。シェションクはその後、北イスラエルにも矛先を向けたとも伝えられています。略奪された財宝は、後継者オソルコン1世の治世初期に、エジプト各地の神殿に奉納されたとされます。
シェションク1世のパレスティナ遠征は、エジプト側の史料からも裏付けられています。メギドで発見された石碑の断片には、シェションクのカルトゥーシュと共に、征服地リストの一部が刻まれており、この遠征の記念碑と考えられています。これはかつてトトメス3世が大勝を収めた地であり、そこに碑文を残すことで、古の偉大なファラオにあやかろうとした意図がうかがえます。また、カルナック神殿に建立されたブバスティス門には、征服した諸外国のリストをアメン神に捧げるシェションクの姿が描かれており、シリア、フィリスティア、フェニキア、ネゲヴ、ユダヤ北部・南部の地域名が列挙されています。
ただし、このリストにエルサレムの名がないことから、聖書の記述との間に議論が生じています。リストの大部分が風化・欠損しているため失われた部位に記されていた可能性、エルサレムの嘆願によるリストからの除外、あるいはリストが過去の征服地を形式的に踏襲したものであるなど、様々な説が提唱されており、研究者の間でもシシャク王とシェションク1世の同一性やエルサレム攻撃の具体性について議論が続いています。
シェションク1世が国外に残した記録は、数世紀ぶりに公式に記録されたエジプトの国外軍事行動であり、特に鉄器時代末期のカナン地域について言及した貴重な史料です。
シェションク1世は遠征から帰還後まもなく、あるいは数年後に死去し、息子オソルコン1世が王位を継承しました。彼の墓所はまだ特定されていませんが、タニスやブバスティスなどが候補地として挙げられています。
生い立ちと権力基盤
シェションク1世は、エジプト西デルタに移住していたリビュア系部族、メシュウェシュ族の有力な家系に生まれました。第19王朝期以降、多くのリビュア人がエジプトに入り軍人として頭角を現し、土地や官職を得て地方で勢力を拡大していました。シェションクの家系もその中で大きな力を持つに至り、父や祖父は「マーの首長」の称号を持ちました。彼の叔父大オソルコンは、シェションクに先駆けてリビュア系初のファラオとして即位しています。
シェションクは、第21王朝のファラオ、プスセンネス2世の娘マアトカラーの義父となることで王室との結びつきを強め、エジプト軍最高司令官や王の側近として権力を確立しました。プスセンネス2世の死後、彼は王位を継承し、その正統性を主張するため第21王朝創設者スメンデス1世と同じ即位名を用いました。
国家の再統合
即位後の最重要課題は、長年にわたり南北に分断されていたエジプトの再統合でした。シェションク1世は、上エジプトを支配していたテーベのアメン神官団の世襲制を廃止し、次男イウプトをアメン大司祭に任命するとともに、上エジプト長官と軍司令官の職も兼任させました。これにより、事実上の独立勢力となっていた神官団を、ブバスティスから統治する王権の監視下に置き、王権を一つに統合しました。また、主要な地位に親族を配置する政策を取りました。これは、リビュア人社会の伝統的な統治手法を応用したもので、一族による支配体制を強固にするためでしたが、後の王朝分裂の一因ともなりました。
パレスティナ遠征：シシャク王の事績
国内を安定させたシェションク1世は、治世後半に中東地域への影響力回復を目指し、積極的な対外政策を展開しました。当時、シリア・パレスティナ地域では、イスラエル王国がダビデ、ソロモン両王のもとで勢力を拡大していましたが、ソロモンの死後、王国は南北に分裂しました。
旧約聖書には、イスラエル王となると予言されソロモンに追われたヤロブアムがエジプトに逃れ、シシャク王に庇護されたと記されています。このシシャク王は、多くの研究者によってシェションク1世に比定されています。イスラエルがレハブアムを王とするユダ王国と、ヤロブアムを王とする北イスラエル王国に分裂した内紛に乗じて、シェションク1世はレハブアムの治世5年目、紀元前925年頃にパレスティナへの大規模な遠征を実行しました。
シェションクの軍勢はユダ王国に侵攻し、エルサレムを包囲しました。レハブアムは多額の財宝を差し出して都市の破壊を免れましたが、ソロモンの神殿や王宮は略奪され、契約の箱を除くほとんどの宝物がエジプトへ持ち去られました（列王記上14章26節）。シェションクはその後、北イスラエルにも矛先を向けたとも伝えられています。略奪された財宝は、後継者オソルコン1世の治世初期に、エジプト各地の神殿に奉納されたとされます。
遠征の証拠と歴史的意義
シェションク1世のパレスティナ遠征は、エジプト側の史料からも裏付けられています。メギドで発見された石碑の断片には、シェションクのカルトゥーシュと共に、征服地リストの一部が刻まれており、この遠征の記念碑と考えられています。これはかつてトトメス3世が大勝を収めた地であり、そこに碑文を残すことで、古の偉大なファラオにあやかろうとした意図がうかがえます。また、カルナック神殿に建立されたブバスティス門には、征服した諸外国のリストをアメン神に捧げるシェションクの姿が描かれており、シリア、フィリスティア、フェニキア、ネゲヴ、ユダヤ北部・南部の地域名が列挙されています。
ただし、このリストにエルサレムの名がないことから、聖書の記述との間に議論が生じています。リストの大部分が風化・欠損しているため失われた部位に記されていた可能性、エルサレムの嘆願によるリストからの除外、あるいはリストが過去の征服地を形式的に踏襲したものであるなど、様々な説が提唱されており、研究者の間でもシシャク王とシェションク1世の同一性やエルサレム攻撃の具体性について議論が続いています。
シェションク1世が国外に残した記録は、数世紀ぶりに公式に記録されたエジプトの国外軍事行動であり、特に鉄器時代末期のカナン地域について言及した貴重な史料です。
シェションク1世は遠征から帰還後まもなく、あるいは数年後に死去し、息子オソルコン1世が王位を継承しました。彼の墓所はまだ特定されていませんが、タニスやブバスティスなどが候補地として挙げられています。
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