ブラッディ・ナイフ

ブラッディ・ナイフの生涯：複雑な出自と壮絶な戦い

ブラッディ・ナイフ（Bloody Knife）は、19世紀のアメリカ西部で活躍したインディアンの戦士であり、アメリカ軍の斥候として知られています。スー族とアリカラ族の血を引く複雑な出自を持ち、その生涯は部族間の対立とアメリカ軍との関わりの中で、数奇な運命をたどりました。

生い立ちと部族間の確執

ブラッディ・ナイフは、1837年から1840年の間に、現在のダコタ準州で生まれたと推測されています。父はスー族ハンクパパ氏族、母はアリカラ族の出身でした。スー族の集落で育ちましたが、スー族とアリカラ族は長年敵対関係にあり、アリカラ族の血を引く彼は差別を受けました。特に、スー族の戦士シッティング・ブルの義兄弟であるゴールを憎んでいたとされています。15歳頃、母親と共にアリカラ族の集落に移住し、アメリカ毛皮公社のフォート・クラーク交易所で働きました。

スー族とアリカラ族の対立は絶えず、ブラッディ・ナイフは父の元を訪れた際、ゴールとその取り巻きから襲撃を受けました。1862年には、ゴールが率いるスー族の襲撃により、彼の兄弟たちが殺害され、遺体は狼の餌にされました。これらの出来事が、彼をスー族、特にゴールに対する憎しみを募らせる要因となりました。

アメリカ軍での活動

1865年、ブラッディ・ナイフはアメリカ軍に雇われ、アルフレッド・サリーの部隊で伝令兵として働きました。同年、ゴールが白人を殺害したという情報を聞きつけ、アメリカ軍はゴールを捕縛するために部隊を派遣します。ブラッディ・ナイフは、この作戦に参加し、ゴールの居場所を案内しました。ゴールは逃走しましたが、伝説によると、この際、兵士に銃剣で刺されながらも、息を吹き返したとされています。ブラッディ・ナイフは、ゴールが死んでいないと主張しましたが、聞き入れられませんでした。この話は、後にゴールがシッティング・ブルを殺そうとした際に起こった出来事と類似しているため、作り話である可能性も指摘されています。

1866年、アンドリュー・ジョンソン大統領は、インディアン斥候隊を正式に軍に組み込むことを承認しました。ブラッディ・ナイフは、正式に斥候隊に入隊し、伍長待遇となりました。しかし、アルコール依存症の問題から、職務に支障をきたすこともあったようです。それでも1872年には、下士官に昇進しました。1873年、彼はフォートライスでジョージ・アームストロング・カスター中佐と出会い、意気投合します。カスターは、彼の斥候としての能力を高く評価し、横柄な性格を率直であると気に入りました。しかし、カスターは気性が荒く、1874年には彼を銃で撃ったこともありました。一方で、カスターは彼の名前が刻まれたメダルを贈り、信頼を寄せていました。ブラッディ・ナイフもその期待に応え、スー族の集落を発見し、戦いを有利に導きました。

1874年、カスターはブラックヒルズ遠征を遂行しました。この遠征には、1000人以上の兵士に加え、地質学者や鉱夫、記者、そしてブラッディ・ナイフを含む65人のアリカラ族斥候隊が参加しました。この遠征前には、ゴール率いるスー族がアリカラ族の集落を襲撃し、ブラッディ・ナイフの息子を含む多くの住民が殺害されました。アリカラ族の男たちは復讐に燃えていましたが、カスターは金鉱の調査を優先し、スー族との衝突を避けようとしました。同年の8月、カスターが狩猟を趣味としていたハイイログマを仕留めるのを手伝ったとされています。一部の記録では、クマに止めを刺したのはカスターではなく、ブラッディ・ナイフであったとも伝えられています。

他のアリカラ族斥候が月給13ドルであったのに対し、ブラッディ・ナイフは月に75ドルを受け取っており、さらに遠征の成果に応じて、ボーナスも支給されていました。

リトルビッグホーンの戦いと最期

1876年、リトルビッグホーンの戦いが勃発します。ブラッディ・ナイフは、偵察中にスー族、シャイアン族、アラパホ族の連合軍の大規模な野営地を発見し、その規模の大きさをカスターに警告しました。しかし、カスターは忠告を聞き入れず、戦いに突入しました。戦いの前、ブラッディ・ナイフは「今日、日が丘の向こうに落ちるのを見ることはないだろう」と呟いたとされています。彼は、マーカス・リノの部隊に配属され、アリカラ族とクロウ族の斥候隊と共に攻撃を命じられましたが、敵の圧倒的な数に押され、戦闘開始直後に頭部を撃たれて即死しました。隣にいたリノは、ブラッディ・ナイフの血を浴び、混乱して退却を命じましたが、これがさらなる混乱を招き、多くの兵士が犠牲となりました。

カスターの部隊は全滅し、アメリカ軍は大敗を喫しました。戦いの生存者や目撃者、ブラッディ・ナイフの遺族は、「ゴールがブラッディ・ナイフを殺した」と主張しましたが、その証拠は確認されていません。その後、ジョン・ギボンの部隊が到着し、リノの部隊は救出されました。ギボンの部隊は、スー族の住居跡でブラッディ・ナイフの頭皮を発見し、埋葬しました。後に、彼の遺体はノースダコタ州の斥候隊の墓地に再埋葬されました。

遺産

ブラッディ・ナイフは、1866年にOwlという名前のアリカラ族の女性と結婚し、少なくとも3人の息子と2人の娘をもうけました。娘の一人は1870年に病死し、息子の一人は1874年にゴール率いるスー族の襲撃で殺害されています。妻のOwlは、1879年に未払いの賃金を請求し、1881年にアメリカ政府からブラッディ・ナイフの最後の賃金を受け取りました。

ブラッディ・ナイフは、アリカラ族の間で英雄として称えられ、彼を称える歌が作られました。また、有名なインディアン斥候の一人として、テレビドラマや映画で描かれることもあります。

ブラッディ・ナイフの生涯は、部族間の対立、アメリカ軍との関わり、そしてリトルビッグホーンの戦いという悲劇的な出来事を通して、複雑なアメリカ史の一部を映し出しています。

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