ブラバム・BT49

ブラバムBT49：F1の歴史に刻まれた革新とドラマ

ブラバムBT49は、1979年から1982年にかけてF1世界選手権を戦った名車です。設計を手掛けたのは、数々の名車を世に送り出した巨匠ゴードン・マレー。信頼性の低いアルファロメオ製V12エンジンを搭載した前モデルBT48からの変更、そして数々の改良型を通じて、F1の歴史に大きな足跡を残しました。

誕生の背景：アルファロメオからの決別

1979年シーズン、ブラバムはアルファロメオ製V12エンジンを搭載したBT48で戦っていました。しかし、その圧倒的なパワーとは裏腹に、信頼性の低さが大きな課題でした。加えて、同年にはアルファロメオのワークスチームが復活。チームオーナーだったバーニー・エクレストンは、ブラバムがアルファロメオのセカンドチーム扱いされることを避けたいと考えていました。

これらの状況を踏まえ、ブラバムはコスワースDFVエンジンへの変更を決断。1979年8月21日、シルバーストン・サーキットでBT49のシェイクダウンが行われました。しかし、エースドライバーだったニキ・ラウダは、カナダGPのフリープラクティスでBT49を走行した後、突然引退を表明。その理由として、12気筒エンジンと比較して劣るDFVエンジンのパワー不足への失望が挙げられています。

BT49：軽量化と改良

BT49は、多くの部品をBT48から継承した改良型と言えるでしょう。モノコックはBT48のアルミモノコックをカーボンパネルで強化したもので、この手法は後継モデルBT50まで用いられました。サスペンションは前後プルロッド式、ギアボックスはヒューランドFG400ギアにアルファロメオ製のケースを組み合わせたものを採用。

最大の変更点は燃料タンクです。燃費の優れたDFVエンジンへの変更により、約30リットルもの容量削減を実現。その結果、乾燥重量で15kg以上、フルタンク状態では40kg以上の軽量化に成功しました。また、アルファロメオ製エンジンより全長が短いDFVエンジンに合わせて、エンジンとギアボックスの間にベルハウジングを挿入することで、ホイールベースを確保しています。1979年には3台のシャシーが製造されました。

BT49B：横置きギアボックスの挑戦

1980年シーズン、BT49は継続使用されました。前年までの赤を基調としたカラーリングから、メインスポンサーであるパルマラットのカラーリングである白と濃紺に変更されました。シーズン中盤には、アメリカのワイズマン社が設計した横置きギアボックスを搭載した改良型BT49Bが登場。これはアルファロメオ製ケースよりもコンパクトで、グラウンドエフェクトの効率向上を狙ったものでした。しかし、この変更が仇となり、マシンはナーバスな挙動を示すようになり、ネルソン・ピケは使用を拒否。最終的に、セカンドドライバーが使用することになりました。

BT49T：ターボエンジンへの挑戦

1980年末から1981年にかけて、ブラバムとBMWのエンジン供給契約が締結。そのテスト用に、BMW製ターボエンジンM12/13を搭載したBT49Tが製作されました。ターボエンジンの冷却性能向上のため、冷却系が強化され、マシン各部にはデータ収集機器が搭載されました。ボディカウル形状も変更されています。

BT49C：60mmルールを打ち破った革新

1981年、FISAはグラウンドエフェクトカー規制のため、スライディングスカートの禁止と最低地上高60mm以上のレギュレーション変更を実施。ブラバムは、これに対応したBT49Cを投入しました。失われたダウンフォースを補うためフロントウイングが復活し、軽量化のため多くの部品をカーボン製に変更。

ゴードン・マレーは、「走行中の車高は計測できない」という点に着目し、ハイドロニューマチックサスペンションを開発。このシステムは、走行中はダウンフォースによって車高が自動的に60mm以上を維持するものでした。これはレギュレーション違反でしたが、走行中の車高計測が不可能なため、黙認されました。この革新的なアイデアにより、60mmルールは事実上無効化されました。

ネルソン・ピケは、このBT49Cで序盤からチャンピオンシップをリード。シーズン途中からは、予選に特化した軽量なシャシーが投入され、ピケは7回の表彰台を獲得、最終戦で逆転優勝し、見事ドライバーズチャンピオンを獲得しました。

BT49D：最後の挑戦と水タンク事件

1982年、ブラバムはBMW製直列4気筒ターボエンジンを搭載したBT50を投入。しかし、エンジン開発の遅れから、BT49Cを改良したBT49Dが併用されました。60mmルール廃止によりハイドロニューマチックサスペンションは取り外されましたが、スライディングスカートは固定式のまま。さらなる軽量化のためカーボン製部品が増加し、ノーズデザインもBT50に近づけられました。

このマシンには、車検時の重量規定を満たすため、冷却水タンクとして7ガロンの「水タンク」が搭載されていました。レース中は水を排出、車検前に補充することで、最低重量を下回った状態で走行していました。これはレギュレーション違反でしたが、走行中の車重計測ができないことを盾にしていました。しかし、ブラジルGPでピケが優勝した際、同様の手法を用いたウィリアムズのケケ・ロズベルグと共に失格処分となり、「水タンク事件」と呼ばれる騒動を引き起こしました。この事件は、FISAとFOCAの対立を激化させました。

まとめ：ブラバムBT49の遺産

ブラバムBT49は、コスワースDFVエンジンへの変更、軽量化技術、そして革新的なサスペンションシステムなど、数々の技術的挑戦と、レギュレーションとの攻防、そしてネルソン・ピケのドライバーズチャンピオン獲得など、F1の歴史に数々のドラマを残しました。その技術的革新と、レギュレーションとの戦い、そしてドライバーの活躍は、現在においても語り継がれるべきF1史上の重要な1ページです。様々なバリエーションを含め、合計17台のBT49が製造されました。その中には、予選仕様への改造や、レギュレーション変更対応の改修などが施された車両も含まれており、ブラバムチームの技術開発の高さを物語っています。

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