ジャンク・アート

ジャンク・アート：廃材から生まれる芸術

ジャンク・アートとは、廃棄物やがらくたを素材として制作された芸術作品の総称です。廃物美術や廃品美術とも呼ばれ、1950年代以降に急速に注目を集めました。その起源は20世紀初頭のダダイスムに遡りますが、第二次世界大戦後の大量生産・消費社会を背景に、世界中で多様な展開を見せました。

ジャンク・アートの起源

ジャンク・アートの源流は、20世紀初頭の芸術運動に見られます。パブロ・ピカソやジョルジュ・ブラックによるパピエ・コレ（紙のコラージュ）や、クルト・シュヴィッタースのメルツ絵画（紙切れや廃棄物をコラージュした作品）は、身近な廃材を芸術に取り入れた先駆的な例と言えるでしょう。また、マルセル・デュシャンのレディメイド（既製品をそのまま作品として提示する手法）も、既存の物の意味を問い直す点でジャンク・アートに通じるものがあります。

これらの試みは、機械化や工業化が進む社会に対する芸術家たちの反応であり、大量生産される工業製品が氾濫する状況への批判的な視点を示唆していました。しかし、初期のダダイスムにおいては、廃材そのものよりも既製品を異質な組み合わせで展示し、その意味を変容させるアッサンブラージュの手法が中心でした。

廃材美術の一般化

第二次世界大戦後、1950年代後半から欧米を中心に、廃棄物を素材とする芸術作品が同時多発的に登場しました。この現象は、大量生産・大量消費が本格化し、社会に廃棄物が溢れ始めた時代を反映しています。

アメリカでは、ジョン・チェンバレンが廃車の断片を組み合わせた彫刻を制作し、ロバート・ラウシェンバーグは既製品や廃材に絵具を塗り重ねた「コンバイン・ペインティング」を展開しました。また、ルイーズ・ネヴェルソンは、木片や家具の破片を箱に詰め、黒く塗り重ねて巨大な彫刻を作り上げました。ジョゼフ・コーネルは、小箱の中に廃材を詰め込み、個人的な宇宙を表現した作品を制作しました。

ヨーロッパでも、アルマンは同じ種類の廃物を大量に集積させた作品を、セザールは廃鉄を溶接した彫刻や圧縮された廃車による彫刻を、ジャン・ティンゲリーは機械の部品を組み合わせた動く彫刻を制作しました。アルマン、セザール、ティンゲリーらは、1960年にイヴ・クラインらとともにヌーヴォー・レアリスムというグループを結成しました。1961年、イギリスの美術評論家ローレンス・アロウェイは、ニューヨーク近代美術館で開催された展覧会「The Art of Assemblage」において、これらの作品群を指して「ジャンク・アート」という言葉を生み出しました。アロウェイは、ポップ・アートの命名者としても知られています。

廃材と人間との関係

ジャンク・アートの隆盛は、大量生産・大量消費によって物が容易に廃棄されるようになった時代を映し出しています。芸術家たちは、ゴミを素材とすることで、私たちを取り巻く廃物との関係や、大量消費社会における生き方を問い直しました。チェンバレンはゴミの中に美しさを見出し、アルマンはゴミの断片から痛々しさを、ネヴェルソンはゴミとなった物に宿る記憶を、そしてティンゲリーは大量消費社会を無意味な機械によって笑い飛ばしました。

1960年代前半にネオダダやヌーヴォー・レアリスムが収束した後も、作家たちは廃材を用いた制作を続けました。また、廃材はハプニングやパフォーマンスアート、インスタレーションなど、さまざまな芸術表現に取り入れられ、現代美術における一般的な手法の一つとなっています。今日においても、多くの芸術家が廃材を素材に、現代社会の抱える問題や人間のあり方を表現し続けています。