ブロニスラフ・フーベルマン

生涯と業績

ポーランド南部のチェンストホヴァに生まれたブロニスラフ・フーベルマン（1882年 12月19日 - 1947年 6月15日あるいは16日）は、20世紀前半を代表するヴァイオリニストであり、後のイスラエル・フィルハーモニー管弦楽団となるパレスチナ管弦楽団の創設者の一人として、その名を歴史に刻んでいます。

音楽の道へ

わずか6歳でワルシャワ音楽院にて音楽教育を始め、9歳からはベルリンへ移り、高名なヨーゼフ・ヨアヒム門下のカール・マルケスやシャルル・グレゴロヴィッチのもとで指導を受けました。若くしてその才能を開花させ、1895年にはウィーンで開催された名ソプラノ歌手アデリーナ・パッティの引退公演で鮮烈な成功を収めます。翌年にはフランクフルトでフーゴー・ヘールマンに、パリではマルタン・ピエール・マルシックにも短期間師事し、欧州各地で研鑽を積みました。

ブラームスとの出会い

フーベルマンのキャリアにおいて特筆すべきは、1896年、わずか13歳でウィーンのムジークフェラインザールにおいて、ヨハネス・ブラームス本人の前で彼のヴァイオリン協奏曲を演奏した出来事です。その演奏は作曲家を深く感銘させ、演奏後にブラームスはカデンツァの途中で拍手によって演奏が乱れたことを謝罪するフーベルマンに対し、「そんなに美しく演奏するからだ」と優しく慰めたといいます。さらに、ブラームスは彼のためにヴァイオリンとオーケストラのための幻想曲を作曲することを約束し、サイン入りの自身の肖像画を贈りました（この新作の約束は、ブラームスの死去により実現しませんでした）。この出来事により、フーベルマンはヨーロッパ音楽界で一躍脚光を浴びる存在となりました。同年にはアメリカでの演奏旅行も成功させています。

社会への関与と抵抗

第一次世界大戦による中断を挟みながら、主にベルリンを拠点にヨーロッパ各地で精力的に活動していましたが、1933年にナチスがドイツで政権を獲得すると、彼はその反ユダヤ主義政策に公然と抗議の意を表明し、ドイツを離れる決断をしました。これは音楽家が社会的な責任を果たすという彼の強い信念の表れでした。

パレスチナ管弦楽団の創設

ナチスによる迫害から逃れてきた若いユダヤ人音楽家たちを救済するため、フーベルマンは1936年にパレスチナにおいて管弦楽団を結成するという壮大な計画を実行に移しました。これが後のイスラエル・フィルハーモニー管弦楽団です。彼は創設にあたり、かねてより敬愛していた指揮者アルトゥーロ・トスカニーニを最初のコンサートの指揮に招き、成功に導きました。自身の売名行為を避けるため、この歴史的な初演にはソリストとして出演しないという、彼の謙虚な姿勢を示すエピソードも残されています。

困難と復活

精力的な活動を続ける中、1937年には演奏旅行先のジャワ島で飛行機事故に巻き込まれ、両腕に重傷を負いました。一時は再起不能も囁かれましたが、フーベルマンは驚異的な精神力と努力をもって困難を克服し、再びステージに立つことになります。第二次世界大戦中は主にアメリカで活動し、戦後ヨーロッパ楽壇にも復帰しましたが、次第に健康を害し、1947年にスイス、ジュネーヴ近郊でその生涯を閉じました。

演奏スタイルと評価

フーベルマンのヴァイオリン演奏は、当時のヴァイオリニストの中でもひときわ個性的でした。カール・フレッシュのような正統派からは異端視されることもありましたが、その強烈な個性に裏打ちされた表現力豊かな音楽は、特に東欧やドイツ語圏で絶大な人気を誇りました。ステレオ録音のような高音質の録音は少ないものの、SPレコードやライブ録音を通じて、今日でも多くの音楽ファンを魅了し続けています。

彼のテクニックは、

すっきりとして「香りのある」と評される音色
飛び跳ねるような固めのスピッカート
大きく幅を取りながらゆっくりかけるヴィブラート
情感あふれる艶かしいポルタメント
* 管楽器のような響きを出すフラウタンド

などを駆使し、音楽の表情を自在に変化させました。ヤッシャ・ハイフェッツに匹敵するヴィルトゥオーゾであり、パガニーニやチャイコフスキーのような技巧的な作品を得意とした一方、バッハ、ベートーヴェン、ブラームスといった内省的で精神性の深い作品においても、他の追随を許さない解釈を示しました。彼の音楽的な精神は、後にヘンリク・シェリングなどの弟子たちにも受け継がれています。

作曲家との関係

ブラームスからの新作献呈の約束はブラームスの死により果たされませんでしたが、奇しくもブラームスが亡くなった1897年に生まれたエーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルトは、フーベルマンのために劇音楽『空騒ぎ』作品14からヴァイオリン組曲を編曲しました。さらに、フーベルマンの依頼を受けてヴァイオリン協奏曲を作曲しています。この協奏曲は超絶技巧を要する難曲であり、フーベルマンの技術を想定して書かれましたが、初演権を持っていたフーベルマンがハイフェッツのリハーサルを聴いて、その技術に感銘を受け、権利をハイフェッツに譲ったという有名な逸話が残っています。ハヴァーガル・ブライアンのヴァイオリン協奏曲もまた、フーベルマンによる演奏を想定して作曲されましたが、こちらも彼の演奏が実現することはありませんでした。

代表的な録音

フーベルマンの代表的な録音としては、SP時代のチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲（一部カットありながらも有名）、ラロのスペイン交響曲、ピアニストのイグナツ・フリードマンと共演したベートーヴェンのヴァイオリンソナタ第9番「クロイツェル」などが挙げられます。晩年のライブ録音では、ピアニストのアンドール・ルバイキンとのシューベルトのグランド・ファンタジアや、アルトゥール・ロジンスキー指揮フィルハーモニア管弦楽団とのブラームスのヴァイオリン協奏曲が特に名演として知られています。

ブロニスラフ・フーベルマンは、その圧倒的な演奏技術と個性的な表現力だけでなく、時代に対する強い意志と行動力を持った音楽家として、今なお多くの人々に記憶されています。

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