アデリーナ・パッティ

アデリーナ・パッティ：19世紀最高のソプラノ歌手

アデリーナ・パッティ（1843年2月19日 - 1919年9月27日）は、19世紀に活躍した伝説的なソプラノ・オペラ歌手です。そのキャリアの絶頂期には、ヨーロッパやアメリカの主要都市で巨額の富を築き、同時代のジェニー・リンドやテレーズ・ティーチェンスと並び、史上最も有名なソプラノ歌手の一人として名を馳せました。彼女の歌声は、純粋で美しい叙情的な声質と、卓越したベルカントの技巧によって特徴づけられています。

作曲家のジュゼッペ・ヴェルディは、1877年にパッティを「途方もない芸術家」と評し、その才能を絶賛しました。ヴェルディの言葉は、当時の多くの音楽評論家や社会評論家の意見を代弁するものだったと言えるでしょう。

生涯

アデリーナ・パッティは、1843年にスペインのマドリードで、アデーラ・フアナ・マリア・パッティとして生まれました。両親はイタリア人で、父親はテノールのサルヴァトーレ・パッティ、母親はソプラノのカテリーナ・バリッリでした。彼女は幼少期をニューヨークで過ごし、義理の兄であるモーリス・ストラコシュから歌唱指導を受けました。もっとも、パッティ自身は後に独学で歌唱技術を習得したと主張しています。

歌手としての成長

パッティがオペラデビューを果たしたのは、1859年11月24日、16歳の時でした。ニューヨークの音楽アカデミーで、ドニゼッティの「ランメルモールのルチア」のタイトルロールを演じ、観客を魅了しました。1861年には、ロンドンのロイヤル・オペラ・ハウスに招かれ、ベッリーニの「夢遊病の女」のアミーナ役で出演し、大成功を収めました。その後、パリやウィーンなどヨーロッパ各地でアミーナ役を演じ、その名声を確立しました。

1862年のアメリカツアー中、パッティはホワイトハウスでリンカーン大統領夫妻のために歌を披露しました。夫妻は同年亡くした息子のウィリアムを偲び、「埴生の宿」の歌に感動して涙を流し、アンコールを求めたと言われています。以来、「埴生の宿」はパッティの持ち歌となり、リサイタルの最後に歌われることが多くなりました。

パッティのキャリアは、成功の連続でした。イギリスやアメリカだけでなく、ヨーロッパ、ロシア、南アメリカなど、世界各地で公演を行い、観客を熱狂させました。彼女の美貌もまた、その人気を後押ししました。

1860年代のパッティは、甘美で清らかな高音と、素晴らしい柔軟性を持ち合わせており、ツェルリーナ、ルチア、アミーナなどの役に理想的に合致していました。一方、ヴェルディが1878年に記したところによると、成長してからの彼女の声は低音も完璧で美しく、それによってより一層の興行的成功を勝ち得たという。しかしながら、パッティはオペラ、コンサートのキャリア終盤には保守的な歌手へと転じました。彼女は年月が経ち成熟した自分の声に何が一番適しているかを心得ており、そこにこだわったのである。それが典型的に見られたのが1890年代の彼女のリサイタルのプログラムです。その頃の彼女は技術的な難度の高すぎない、当時親しまれていた時に感傷的な大衆歌謡曲を取り上げており、それらは彼女を崇拝するファンに実に効果的に訴えかけたのです。

商才と引退

全盛期のパッティは、演奏会を始める前に一晩で5,000ドルの報酬を金貨で要求しました。彼女の契約には、公演のポスターの中で彼女の名前を一番上に、しかも他の共演者の名前よりも大きく印刷せねばならないという条項が含まれていました。また、彼女はリハーサルへの参加を強制されることはありませんでした。パッティは、富と名声を誇示するような装飾品を身につけることを楽しみましたが、決して浪費家ではありませんでした。彼女は、最初の結婚が失敗に終わり財産の大半を失った後、特に資産を大切にしました。

1893年、パッティはボストンで、エミリオ・ピッツィのオペラ「ガブリエッラ」のタイトルロールを演じました。このオペラは、彼女がピッツィに委嘱した作品でした。10年後、彼女はアメリカでの最後のツアー公演を行いましたが、これは批評的にも、財政的にも、個人的にも失敗に終わりました。その後、彼女は時折演奏会に出演したり、ウェールズの夜岩城にある私的な劇場で歌ったりする程度にとどまりました。1914年10月、第一次世界大戦の犠牲者を援助するために開催されたロンドンのロイヤル・アルバート・ホールでの赤十字社のコンサートに参加したのが、彼女が公で歌った最後の機会となりました。1919年、パッティは老衰のため亡くなりました。

録音

パッティは、歌曲やオペラのアリアなど、30以上のレコード録音を残しています。これらの録音は、彼女の声が絶頂期を過ぎていた時期に行われたものですが、透き通った声の音色と、レガートの滑らかな旋律線は、今もなお聴く人を魅了します。

私生活

パッティは、3度の結婚を経験しています。最初の夫であるアンリ・カウザックとは、不倫が原因で離婚しました。2番目の夫であるエルネスト・ニコリーニとは、死別しました。3番目の夫であるロルフ・セデルストレムとは、彼女の死まで連れ添いました。パッティ自身には子供はいませんでしたが、甥や姪と親しくしていました。

声質

パッティの声は、温かく、透明感があり、非常に素早いコロラトゥーラソプラノでした。その声域は、ロウCからハイFに及んでいました。批評家のロドルフォ・セレッティは、「彼女の声は技術的に驚異的である」と評しています。

パッティを題材にした作品

パッティは、様々な文学、音楽作品に霊感を与えています。

オッフェンバックの「パリの喜び」
オスカー・ワイルドの「ドリアン・グレイの肖像」
* エミール・ゾラの「ナナ」

アデリーナ・パッティは、その歌声と美貌で、19世紀のオペラ界を彩った伝説的なソプラノ歌手です。彼女の残した録音は、今もなお世界中の人々を魅了し続けています。

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