ヴァルダナ朝

ヴァルダナ朝（プシュヤブーティ朝）

ヴァルダナ朝は、7世紀前半にハルシャ・ヴァルダナによって創始された、古代北インド最後の統一王朝です。別名プシュヤブーティ朝とも呼ばれます。

建国までの道のり

4世紀から5世紀にかけて繁栄したグプタ朝は、5世紀中頃からエフタル（インド・エフタル）の侵略を受け、徐々に衰退しました。6世紀には、エフタルの部隊長ミヒラクラによる仏教弾圧も行われ、グプタ朝は疲弊し、6世紀中頃に滅亡しました。これにより、北インドは分裂状態に陥りました。

ハルシャ・ヴァルダナによる統一

この混乱を収拾したのが、ハルシャ・ヴァルダナ（戒日王）です。606年頃に即位し、マウカリ朝などを併合して北インドの大部分を統一しました。首都は当初テインザー（ハリヤーナー州）に置かれましたが、後にカーニャクブジャ（カナウジ、ウッタル・プラデーシュ州）に移されました。

ハルシャ王は文武両面に秀でた名君であり、仏教に帰依する一方で、ヒンドゥー教など諸宗教も保護しました。彼の治世下、国内は平和で栄え、インド文芸史においても重要な時期となりました。グプタ朝時代に勃興したヒンドゥー国家主義の思想も、ハルシャ王の治世下でより充実しました。

唐との交流

唐の僧侶である玄奘三蔵は、629年から645年にかけてヴァルダナ朝を訪れ、その様子を『大唐西域記』に記録しました。玄奘は、ハルシャ王の優れた政治や国家の繁栄、首都カナウジの活気、そしてインドの人々の正直で誇り高い姿を絶賛しました。また、唐との間には外交使節の交換も行われ、ハルシャ王の使節は641年に唐の太宗の朝廷を訪問し、2年後には唐からの答礼使がハルシャ王のもとに到着しました。

分裂とその後

647年頃、ハルシャ王が後継者を残さずに亡くなると、アラナシュ（阿羅那順）が王位を簒奪しました。この混乱の中で、唐の使節である王玄策がアラナシュに捕らえられました。この事態に対し、吐蕃（チベット）のソンツェン・ガンポとリッチャヴィ王朝（ネパール）のナレーンドラ・デーヴァが、チベット兵・ネパール兵合わせて8,000人の兵を率いてインドに侵攻し、王玄策を救出しました。アラナシュは捕虜として唐に連行され、ヴァルダナ朝は急速に分裂しました。

分裂後の北インドは、カシミール地方、ベンガル地方のパーラ朝、デカン高原のラーシュトラクータ朝などが各地で勢力を争い、再び群雄割拠の時代となりました。北西部からは侵略勢力が押し寄せ、ヒンドスタン平原は混乱しました。この時期には、西インドを中心にラージプート族による諸王朝が建てられ、この時代は「ラージプート時代」と呼ばれます。

まとめ

ヴァルダナ朝は、ハルシャ・ヴァルダナという名君によって一時的に北インドを統一しましたが、彼の死後、再び分裂し、その後のインドの歴史に大きな影響を与えることとなりました。その短い期間ではありましたが、平和と繁栄をもたらし、仏教文化や文芸を奨励し、唐との文化交流も行われたという点で、インド史において重要な王朝の一つとして位置付けられます。

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