プリズレン連盟

プリズレン連盟：バルカン半島のアルバニア民族運動と大国政治

1878年、オスマン帝国のコソボ州プリズレンで結成されたプリズレン連盟（Lidhja e Prizrenit）は、19世紀後半バルカン半島におけるアルバニア民族運動の重要な転換点となりました。この連盟は、周辺のスラブ諸国によるアルバニア人居住地の併合を阻止し、オスマン帝国内における自治権獲得を目指したアルバニア人の政治組織でした。

成立までの背景

露土戦争(1877-1878)終結後のサン・ステファノ条約では、アルバニア人居住地域がセルビア、モンテネグロ、ブルガリアに割譲される内容が含まれていました。この条約は、ロシアの勢力拡大を危惧したオーストリア＝ハンガリー帝国やイギリスの反対により、最終的にベルリン会議で修正されましたが、アルバニア人の間には強い不安と危機感が広がりました。自らの土地が分割されることを恐れたアルバニア人たちは、抵抗運動を活発化させます。

こうした状況下、アルバニア民族主義者や各地域の有力者たちが、アルバニア人居住地の防衛と自治権獲得を目指して結集。コンスタンチノープルで活動していたアブデュル・フラシェリら指導者を中心とした初期のアルバニア国民運動が、プリズレン連盟へと発展していったのです。

連盟の活動

1878年6月10日、プリズレンに集まった約80人の代表者たちは、徴税権と軍隊設立権限を持つ中央委員会の下に、プリズレン連盟を結成しました。当初、オスマン帝国当局は連盟を黙認するどころか、ある程度支援する立場をとっていました。しかし、その目的や方向性については、イスラム教徒の団結と防衛を重視する意見と、アルバニア民族全体の自主性とアイデンティティ確立を目指す意見が対立していました。

ベルリン会議は連盟の要望を無視し、アルバニア民族の存在すら否定する発言さえありました。会議の結果、アルバニア人居住地域の一部がモンテネグロやセルビアに割譲されることが決定されると、連盟は武装抵抗を開始。グシニェ、プラヴァ、シュコドラなど各地で抵抗運動が展開されました。

連盟の抵抗運動は、グシニェとプラヴァのオスマン帝国への返還という成果をあげましたが、ウルツィニはモンテネグロに割譲されました。ウルツィニのアルバニア人住民の抵抗は、列強諸国の圧力によって鎮圧されました。また、1881年にはテッサリアとアルタ地方がギリシャに割譲されるなど、アルバニア人の領土は次々と侵食されていきました。

鎮圧とその後

オスマン帝国は、プリズレン連盟の活動を抑制するため、デルヴィシュ・パシャ率いる大規模な軍隊を派遣しました。1881年4月、プリズレンはオスマン帝国軍に占領され、連盟の指導者たちは逮捕・追放されました。アブデュル・フラシェリは投獄された後、釈放されましたが、数年後に亡くなりました。

プリズレン連盟は鎮圧されましたが、その活動はアルバニア民族のアイデンティティ確立に貢献しました。また、列強諸国にアルバニア人の存在を印象づけることにも成功しました。しかし、アルバニア人の統一を阻む課題も多く残されました。アルバニア語話者は地理的に分散しており、宗教も多様でした。標準語や文字の統一も大きな課題でした。

19世紀末には、アルバニア語の標準化に向けた動きが始まり、アルバニア語出版協会などが設立されました。しかし、ギリシャ正教会などからの抵抗もあり、アルバニア語教育の普及は容易ではありませんでした。

オスマン帝国の衰退と青年トルコ革命後も、アルバニア人の自治要求は続き、何度も衝突や弾圧が繰り返されました。最終的に、オスマン帝国はアルバニア人の自治権拡大に一定の譲歩をすることになりますが、アルバニア人居住地の統一という目標には到達できませんでした。プリズレン連盟の活動は、後のアルバニア独立運動へと繋がる重要な一歩となりました。

プリズレン連盟の重要性

プリズレン連盟は、長きに渡るオスマン帝国支配に対するアルバニア人の明確な抵抗運動でした。周辺国との領土紛争、オスマン帝国政府との対立、そして列強諸国の思惑が複雑に絡み合ったバルカン半島の動乱期において、アルバニア民族のアイデンティティと自治権獲得を目指す重要な試みでした。その活動は、後のアルバニア独立へと続く歴史的な流れに大きな影響を与えました。

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