プログレスMS-08

プログレスMS-08は、ロシアの宇宙機関であるロスコスモスによって開発・運用された無人宇宙補給機です。この機体は、国際宇宙ステーション（ISS）へ必要な物資を届けるという重要な役割を担いました。正式名称はロシア語でПрогресс МC-08と表記され、ロシア国内での製造番号は438です。また、NASAではプログレス69Pという名称で追跡・管理されました。

プログレスMSシリーズの進化

プログレスMSシリーズは、長年運用されてきた先行型であるプログレスM型を基に、航法・制御システムや安全性を大幅に近代化した改良型無人宇宙輸送機です。この強化された新バージョンの初打ち上げは、2015年12月21日に行われました。プログレスMS型には、運用効率、信頼性、そして新たな機能の付加を目指した様々な改善が施されています。具体的には、以下のような強化が挙げられます。

人工衛星展開能力: 軌道上で小型人工衛星を放出するための、新しい外部コンパートメントが追加されました。このコンパートメントは、最大4基の発射コンテナーを搭載可能です。この機能はプログレスMS-03から導入されました。
冗長性の向上: ドッキング機構や密閉機構で使用される電気モーターについて、予備システムが追加され、システムの信頼性が高められています。
微小隕石防護強化: 宇宙塵や微小隕石の衝突による損傷を防ぐため、貨物コンパートメントの保護パネルが増設され、防護能力が向上しました。
ルーチ中継衛星連携: ロシアの静止軌道中継衛星「ルーチ」との通信機能が追加されました。これにより、地上局から直接見通せない軌道上でも、機体のテレメトリー情報の取得やコマンド送信が可能になり、通信可能時間が大幅に拡大しました。
GNSS自律航法: GNSS（全球測位衛星システム）を用いた自律航法能力を獲得しました。これにより、地上局からの軌道決定指示なしに、機体自身が正確な位置情報や軌道パラメータを決定できるようになり、地上管制への依存度が低減されました。
ISSとの直接データ交換: ISSとの間で直接的に無線データ交換を行う機能が実現しました。これにより、リアルタイムでの相対的な位置把握や航法が可能となり、ドッキング操作の精度と効率が向上しました。
新型デジタル無線システム: ドッキング操作の際に用いられるTVカメラ映像の品質向上を図るため、新しいデジタル無線システムが導入されました。これにより、より鮮明で安定した映像が得られ、安全なドッキングに寄与します。
システム刷新: ウクライナ製のChezara Kvant-V無線システムおよびアンテナフィーダーシステムは、より高性能な統合コマンド・テレメトリー・システム（UCTS）によって置き換えられました。また、旧来のクルスAドッキングシステムも、デジタル化されたクルスNAシステムへと刷新されました。

打ち上げとドッキング

プログレスMS-08の打ち上げは、協定世界時（UTC）2018年2月13日8時13分33秒に実行されました。カザフスタン共和国に位置するロシアの主要な宇宙港であるバイコヌール宇宙基地から、信頼性の高いソユーズ2.1aロケットによって宇宙へと送り出されました。打ち上げからわずか数時間後のUTC 2018年2月13日10時38分には、ISSの「ズヴェズダ」サービスモジュールの後方側にあるドッキングポートへの自動ドッキングに成功しました。この非常に迅速なランデブーとドッキングは、プログレスMSシリーズに搭載された高性能な航法システムの能力を実証するものでした。

搭載された貨物と衛星

ISSに到着したプログレスMS-08は、合計で2,494 kgに及ぶ重要な貨物や補給物資を届けました。これらの貨物は、ISSで活動する宇宙飛行士の生活維持、 station システムの運用、そして様々な科学実験の実施に不可欠なものです。主な貨物の内訳は以下の通りです。

与圧貨物: 1,390 kg (ISS船内に搭載され、宇宙飛行士が呼吸可能な環境で扱う物資。食料、衣類、実験装置など)
燃料: 890 kg (ISS自体の軌道維持や姿勢制御に使用される推進剤)
酸素と空気: 46 kg (宇宙飛行士の呼吸に必要な気体)
水: 430 kg (生活用水やシステム冷却用水)

これらの主要な補給物資に加え、プログレスMS-08には2機の小型人工衛星が搭載されていました。それぞれの重量は約2.5 kgで、Tanyusha YuZGU-3（別名Radioskaf RS-8、識別番号1998-067PJ）およびTanyusha YuZGU-4（別名Radioskaf RS-9、識別番号1998-067PK）として知られています。これらの衛星は、ロシアの宇宙開発企業RKKエネルギアと、クルスク市にある南西州立大学（YuZGU）の学生たちが共同で開発したものです。これらの小型衛星は、プログレス補給船から直接放出されるのではなく、ISSから宇宙遊泳（船外活動）中の宇宙飛行士によって手作業で軌道上に放出されました。

ミッションの終焉

ISSでの補給任務を終えたプログレスMS-08は、UTC 2018年8月23日2時16分にISSからのドッキングを解除し、離脱しました。その後、機体は制御された軌道離脱マヌーバを実施し、地球大気圏へ再突入しました。大気との激しい摩擦によって機体の大部分は燃え尽きましたが、完全に燃え尽きなかった残骸は、UTC 2018年8月30日に南太平洋上の、あらかじめ船舶や航空機の航行がない安全な海域へと落下しました。これは、役目を終えた宇宙機が軌道上にデブリとして残ることを防ぎ、地上への影響を最小限に抑えるための標準的な運用終了手順です。

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