プロメテの火

『プロメテの火』は、日本のモダンダンス史における重要な作品の一つであり、舞踊家・振付家の江口隆哉と宮操子率いる舞踊団によって、1950年に初めて上演されました。この作品の台本は菊岡久利が手掛け、音楽は伊福部昭が作曲しています。初演から高い評価を受け、翌1951年には芸術祭奨励賞を、さらに1952年には芸術選奨文部大臣賞を受賞しました。1950年代には日本全国で100回近く上演され、多くの観客に親しまれた傑作です。上演は一度途絶えましたが、2000年代に入り、関係者の手により再び舞台にかけられています。

作品の構成と内容

この舞踊作品は、古代ギリシャ神話に登場するプロメテウス（プロメテ）が、神々の火を盗んで人間に与えたことで罰を受ける物語を基にしています。作品は以下の五つの場面で構成されています。

プロローグ: 人間たちの群舞が、物語の始まりを告げます。
第一景火なき暗黒アイオの踊り: 火のない暗闇の中で生きる人間たちが、うごめきながら苦境を表します。そこへ、天空の主ジュピターに寵愛される美しい乙女アイオが登場し、優雅な踊りを披露します。しかし、アイオは悪魔の力によって恐ろしい牛の姿に変えられてしまいます。
第二景火を盗むもの: 人間の不便な生活を哀れんだプロメテは、ジュピターに火を与えるよう懇願しますが、その願いは退けられます。人間のために立ち上がったプロメテは、自ら太陽へと向かい、火を盗み出して地上へと降りていきます。
第三景火の歓喜: 念願の火を手に入れた人間たちは、その暖かさと光に触れて狂喜します。舞台には喜び溢れる大規模な群舞が展開されます。
* 第四景コーカサスの山巓: 神々の怒りを買ったプロメテは、罰としてコーカサス山の頂きに鎖でつながれ、激しい嵐に晒され、集まる鷲たちにその身を貪られるという凄惨な苦痛を受けます。そこに、かつて牛に変えられたアイオが偶然通りかかり、悲劇的な対面を果たします。

上演の歴史

初演

作品の初演は1950年12月11日と12日、東京の帝国劇場で行われた江口隆哉・宮操子舞踊団の公演でした。舞踊の構成と演出は江口隆哉と宮操子が共同で手掛け、美術を河野国男が担当しました。演奏は東宝交響楽団、指揮は上田仁が務めました。主要な出演者としては、プロメテ役を江口隆哉自身が、アイオ役を宮操子が演じました。鷲役は江口乙矢と大野一雄という著名な舞踊家が担当し、その他60名を超える大規模な群舞が加わりました。

1950年代の全国巡演

初演の成功後、江口・宮舞踊団は1951年6月から1960年9月にかけて、『プロメテの火』を携えて日本全国を巡演しました。秋田から長崎まで、広範囲にわたる地方公演が行われ、その上演回数は100回近くに及んだと伝えられています。地方公演においては、オーケストラ版の音楽ではなく、ピアノ2台による編曲版が用いられることが一般的でした。しかし、1960年以降、劇場での本物の火の使用が消防法によって禁止されたため、江口隆哉はこの作品の上演を断念せざるを得なくなりました。

2000年以降の復活上演

江口隆哉が1977年に亡くなった後、2000年の遺品整理の際に『プロメテの火』の貴重な録音が発見されました。さらに、宮操子の没後である2009年の遺品からは、作品の全曲版スコアが見つかりました。これらの資料をもとに、江口・宮両氏の門下生を中心に、この傑作の再演が企画・実現されることになります。

具体的には、2011年5月14日と15日には、日暮里サニーホールで行われた「宮操子三回忌メモリアル《江口・宮アーカイヴ》」公演の中で、作品の一部である「《プロメテの火》第三景火の歓喜」が門下生によって再演されました。この時の音楽には、過去のピアノ演奏の録音が使用されました。

2013年6月1日には、ミューザ川崎で開催された「伊福部昭生誕100年記念プレコンサート」において、「プロメテの火」の全曲版が、東京交響楽団の演奏、広上淳一の指揮で演奏され、後にCD化されました。これは舞踊を伴わないコンサート形式での上演でした。

そして、2016年5月28日と29日には、新国立劇場中劇場にて、「プロメテの火」全曲版の舞踊公演が門下生たちによって実現しました。この上演では、2013年に東京交響楽団によって録音された音源が使用されました。

さらに近年では、2018年3月24日と25日に、彩の国さいたま芸術劇場にて、オーケストラによる生演奏での全曲版舞踊再演が行われました。これは現代舞踊協会の主催によるもので、藝大フィルハーモニア管弦楽団が上野正博の指揮で演奏しました。このように、『プロメテの火』は半世紀以上の時を経て、現代に再びその輝きを取り戻しています。

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