ヘンリ・トイヴォネン

ヘンリ・トイヴォネン：才能と悲劇のラリードライバー

1956年、フィンランドのユヴァスキュラに生まれたヘンリ・パウリ・トイヴォネンは、世界ラリー選手権（WRC）の歴史に名を刻んだドライバーです。ラリードライバーとして成功を収めた父と、後にプロサーキットレーサーとなった弟を持つ、まさにモータースポーツ一家に育ちました。

華々しいキャリアの幕開け

幼少期からレーシングカートを始め、1977年にはフォーミュラ・Veeのフィンランドチャンピオンに輝きます。しかし、サーキットレースの安全性への懸念から、ラリーへと転向。1975年にWRCに初参戦し、その後も着実に経験を積み重ねました。

1980年、タルボのワークスドライバーとして活躍を開始。その大胆なドライビングスタイルは数々のクラッシュを招きましたが、同時に驚異的な速さを生み出しました。同年、RACラリーでWRC初優勝。24歳86日での優勝は、28年間もの間最年少優勝記録として君臨しました。

その後、オペル、ポルシェとチームを移籍しながらも、常にトップレベルで戦い続けました。1984年にはポルシェでヨーロッパラリー選手権（ERC）で活躍し、タイトル争いを展開。WRCでもランチアに移籍し、1985年RACラリー、1986年ラリー・モンテカルロで優勝を飾るなど、実力を証明しました。

グループBの影と悲劇的な最期

しかし、WRCは危険と隣り合わせでした。特に、当時使用されていたグループBマシンは、その圧倒的なパワーと危険性から多くの事故を引き起こしていました。

1986年5月2日、ツール・ド・コルスで首位を快走していたトイヴォネンは、ランチア・デルタS4でコースアウト、崖下に転落し、コ・ドライバーのセルジオ・クレストと共に亡くなりました。事故原因は不明なままですが、グループBマシンの危険性、そして過酷なコースコンディションが事故に繋がったという見方が一般的です。

この事故を受け、FISA（国際自動車スポーツ連盟）はグループBマシンのWRC参加を禁止。この決定は、トイヴォネンの死が、ラリーの歴史における大きな転換点となったことを示しています。

才能と人間性

トイヴォネンは、クールで真面目な性格の持ち主として知られていました。グラベル、ターマック両方に対応できる高いドライビングスキルは、サーキットでの経験が培ったもの。F3選手権へのゲスト参戦時には、その卓越したドライビングテクニックがエディ・ジョーダン監督から絶賛され、もしF1に進出していれば成功したであろうと評価されました。

そして、レガシー

彼の死は、ラリー界に大きな衝撃を与えましたが、その功績は今もなお語り継がれています。毎年開催される「レース・オブ・チャンピオンズ」では、彼を称える「ヘンリ・トイヴォネン・メモリアルトロフィー」が授与されています。彼の名前は、危険と隣り合わせだった時代を象徴する存在として、そして、ラリースポーツにおける偉大なドライバーの一人として、永遠に記憶されるでしょう。

弟のハリによる証言では、アクセルペダルの故障が事故原因の可能性が示唆され、新たな事実も明らかになりつつあります。しかし、真実は依然として謎に包まれたままです。

トイヴォネンの事故は、グループBマシンのもたらす危険性に対する警鐘であり、WRCの歴史における大きな転換点となりました。彼の死は、ラリースポーツの安全性の向上に貢献したと言えるでしょう。彼の功績と、そしてその悲劇は、これからも多くのラリーファンに語り継がれていくことでしょう。

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