ヘンリー (サセックス公)

サセックス公爵ヘンリー王子

サセックス公爵ヘンリー王子（Prince Henry, Duke of Sussex）は、1984年9月15日生まれのイギリス王族、元軍人です。正式名称はヘンリー・チャールズ・アルバート・デイヴィッドですが、英語圏ではハリー王子（Prince Harry）の通称で広く知られています。チャールズ3世国王と故ダイアナ妃の次男であり、現在のイギリス王位継承順位は第5位に位置しています。

経歴

生い立ちと教育

1984年にウェールズ公チャールズ（当時）とダイアナ妃の間に誕生しました。兄にウィリアム皇太子がいます。名門イートン校を卒業後、王子はオーストラリアでの牧場勤務やレソトの孤児院でのボランティア活動に従事しました。2005年にはサンドハースト王立陸軍士官学校に入学し、軍人としての道を歩み始めます。近年は、カリフォルニア州を拠点とするメンタルヘルス関連の新興企業で、最高インパクト責任者として活動しています。

軍歴

士官学校卒業後の2006年、イギリス陸軍に入隊し、近衛騎兵連隊に配属されました。同連隊は儀礼のみならず、戦闘任務も担います。イラクへの派遣が計画されましたが、イスラーム過激派による攻撃予告を受け中止となりました。王子はこの決定に失望しつつも、軍務継続の意志を示しました。

2007年末からはアフガニスタンで極秘裏にタリバン掃討作戦に参加。前線航空管制官として危険な任務に従事しました。イギリス国内メディアとの協定により派遣は伏せられていましたが、米国のインターネットメディアの報道を機に公になり、王子は帰国しました。当時のゴードン・ブラウン首相は王子を「模範的な兵士」と称賛しました。

2012年、再びアフガニスタンに派遣された際、タリバンは王子殺害計画を公言しました。同年10月には、戦闘ヘリコプターから空対地ミサイルを発射し、タリバン兵を殺害したことが報じられています。これは王子にとって初の殺害行為を伴う戦闘経験となりました。英国メディアはこれを「英雄的行為」と報じる一方、日本の産経新聞は殺害対象がタリバン兵である根拠に疑問を呈しました。王子は2015年6月に陸軍大尉として除隊し、ロイヤル・ヴィクトリア勲章ナイト・コマンダーを受章しています。2021年2月には、王室を離脱したことに伴い、軍人としての名誉称号を返上しました。これにより、公務から退いた他の王族同様、祖母エリザベス2世の国葬など公的な場での軍服着用が原則認められなくなりました（後に不寝の番では特例で着用）。

人物と私生活

スポーツを好み、イートン校ではラグビーやポロに打ち込みました。スキーやモトクロスなども趣味としています。サッカーではアーセナルFCのサポーターであることを公言しています。音楽にも造詣が深く、特にレゲエやヒップホップ、一時期はエミネムに傾倒していました。

スキャンダルを起こすこともありましたが、陽気で笑顔が多い性格から、国民からの人気は総じて高く、特に若年層からの支持が厚いとされました。2015年のラグビーワールドカップ開会式では、ショートフィルムにカメオ出演し、ユーモアを披露しています。

私生活では、ジンバブエ出身のチェルシー・デービーと交際と破局を繰り返した後、2010年に終止符を打ちました。この関係はタブロイド紙だけでなく、チェルシーの父親がジンバブエの独裁者ムガベ大統領と親しい関係にあったことから高級紙でも注目を集めました。

2017年11月、アメリカ人女優メーガン・マークルとの婚約を発表。2018年5月19日にウィンザー城の聖ジョージ礼拝堂で結婚式を挙げました。結婚に伴い、サセックス公爵の爵位が授与されました。夫妻には2019年5月に長男アーチーが、2021年6月に長女リリベットが誕生しています。長女の名前「リリベット」はエリザベス女王の幼少期の愛称に由来しますが、命名を巡っては事前に女王の了承があったか否かで論争となりました。

英国王室からの離脱とその後

王室公務からの引退とアメリカ移住

2020年1月8日、夫妻はインスタグラムを通じ、主要王族の立場から退き、経済的自立を目指しながら英米を行き来する生活を送る意向を表明しました。この発表は、エリザベス女王やチャールズ皇太子への事前の相談なしに行われたと報じられ、宮殿側は失望を表明しました。夫妻の経費の大部分はチャールズ皇太子の収入から賄われており、王室助成金の辞退は示唆されましたが、経済的支援は王室での役割次第とされました。

夫妻は2019年に会社を設立し、「Sussex Royal」の商標登録を申請するなど、商業活動への準備を進めていたことが後に明らかになっています。

女王との話し合いの結果、夫妻は2020年春をもって公務から正式に退き、HRHの称号を返上し「サセックス公爵夫妻」となること、ウィンザーのフロッグモア・コテージ改修費約240万ポンドを返済することが決定しました。ヘンリー王子は、公的資金を受け取らずに王室に仕え続けることを望んでいたが不可能だったと語り、悲しみを表明しました。また、エリザベス女王は「Royal」を含む商標「Sussex Royal」の使用を禁じました。

2020年6月には講演エージェントと契約し、同年9月にはNetflixやSpotifyと多額の契約を結び、制作会社を設立しています。

2021年2月、王室は夫妻が公務に復帰しないことを最終的に確認し、軍の名誉称号や公的なパトロンの地位を返上することが発表されました。同年3月には、ヘンリー王子がメンタルヘルス企業ベターアップ社の最高インパクト責任者に就任したことが公表されました。

アメリカでのメディア出演と世論

王室離脱後、夫妻は数々のメディアに出演し、その胸中を語りました。2021年2月にはジェームズ・コーデン氏の番組に出演し、「王室からは絶対に去らない」と述べつつ英国メディアを批判しました。これに対し、英国国内からは厳しい批判が上がりました。

同年3月にはオプラ・ウィンフリー氏とのインタビューに応じ、大きな波紋を呼びました。夫妻は、王室メンバーから長男アーチーの肌の色に関する懸念が示されたこと、メーガン妃が差別的な待遇を受け、精神的に追い詰められ自殺念慮を抱いたこと、キャサリン妃に泣かされたこと、経済的支援を打ち切られたことなどを主張しました。ヘンリー王子は、父チャールズと兄ウィリアムが王室に「とらわれの身」であるとし、自身もメーガン妃に出会うまで「閉じ込められていた」と語りました。

しかし、夫妻の主張の一部には、憲法学者の見解やカンタベリー大主教の発言などから信ぴょう性に疑問が呈されました。例えば、アーチー王子が称号を得られないのは人種問題ではなく、王室の規定に基づくものであり、結婚式も公に行われたという反論がありました。また、夫妻が王室在籍時から商業活動を計画していたことなども報じられました。

このインタビューに対する世論は、米国では同情的な意見が多かったのに対し、英国では厳しい受け止めが多数を占めました。特に、人種差別主張への不信感や、インタビュー時期（フィリップ王配入院中）への批判、君主制への損害を懸念する声が多く聞かれました。著名人やメディア関係者からも賛否両論、あるいは批判的なコメントが相次ぎました。

その後の王室との確執

インタビュー後、王室は人種差別に関する懸念を深刻に受け止め、家族で対処すると声明を発表しましたが、ウィリアム王子は「私たちは人種差別的な家族ではない」と異例の反論をしました。

フィリップ王配の葬儀のため、ヘンリー王子は単身帰国しましたが、メーガン妃は妊娠中のため欠席しました。その後も、ダイアナ元妃の銅像除幕式でウィリアム王子と並び立つ場面はありましたが、警備の問題などから英国王室との関係には緊張が続きました。2022年のエリザベス女王プラチナ・ジュビリーには一家で帰国しましたが、「人目を引かない」扱いとなり、公務メンバーとは一線を画す形で参加しました。女王崩御の際には、メーガン妃の同行を巡ってチャールズ国王とヘンリー王子の間で意見の衝突があったと報じられています。女王国葬では軍服着用が認められませんでしたが、特例で不寝の番のみ着用が許されました。

2022年12月にはNetflixでドキュメンタリーシリーズ「ハリー＆メーガン」が配信され、2023年1月には自叙伝「スペア」を出版。これらの内容は王室の内情を暴露するものであり、ベストセラーとなった一方で、事実誤認の指摘や「プライベートを売って稼いでいる」という批判も浴びました。2023年5月のチャールズ国王戴冠式には単身出席しましたが、公的な役割はありませんでした。

慈善活動

ヘンリー王子は、2006年にレソト王室のセーイソ王子と協力し、レソトのエイズ撲滅を目指す慈善団体「サンタバリー」を設立しました。HIV感染者が偏見を恐れずにカミングアウトできる環境を作るため、「フィール・ノー・シェイム（恥じることはない）」キャンペーンを展開し、自らも「小さな秘密」を公表して人々に勇気を与えました。

王室離脱後は、妻メーガン妃と共に「アーチウェル財団（Archewell Foundation）」を立ち上げ、活動を続けています。災害支援団体との協力や、Netflix・Spotifyとの契約を通じて制作会社を設立し、メディアコンテンツによる社会貢献も目指しています。2021年には、新型コロナウイルスワクチンの公平な普及を訴えるイベントに登壇し、国際的な連帯を呼びかけました。

スキャンダル

若い頃から様々なスキャンダルに見舞われてきました。10代前半から飲酒や喫煙、マリファナ吸引が報じられ、アルコール依存症の兆候も見られました。イートン校在学中には、試験の不正疑惑や、仮装パーティーでのナチス制服着用問題が浮上し、大きな非難を浴びました。父チャールズ国王の指示でホロコーストに関する学習を行ったこともあります。

軍入隊後も、パーティでの行動やパパラッチとの乱闘、パキスタン人兵士への差別的発言などが問題視されました。特に2012年には、ラスベガスのホテルで撮影された全裸写真が流出し、王室がプライバシー侵害を訴える事態となりました。

アフガニスタン任務中の発言も物議を醸しました。2013年には、任務を「ゲーム」に例える発言でタリバンから非難されましたが、2023年の自叙伝で戦闘員25人を殺害したと具体的に記述したことで、再びタリバンや英国内の軍関係者から批判を受けました。

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