ベアルン (空母)

フランス海軍航空母艦ベアルン：戦艦から空母への変遷と波乱の艦歴

ベアルンは、フランス海軍が保有した最初の航空母艦として知られています。その誕生から解体まで、激動の時代を象徴する数奇な運命を辿った艦でもあります。本稿では、ベアルンの建造から運用、そして終焉に至るまでの歴史を詳細に解説します。

戦艦から空母へ：建造の経緯と軍縮条約の影響

ベアルンは、当初ノルマンディー級戦艦の5番艦として建造が開始されました。しかし、第一次世界大戦の勃発により建造は中止。戦後、1920年に進水したものの、そのまま放置される状態が続きます。その後、1922年のワシントン海軍軍縮条約締結により、戦艦としての建造計画は正式に放棄されました。しかし、同条約では建造途中の戦艦を航空母艦に改造することを認めており、フランスはベアルンを空母に改造することを決定。1923年から改造工事が開始され、1927年に竣工しました。

ベアルンは、初期の空母としては高い完成度を誇っていました。しかし、フランス海軍は明確な空母運用方針を確立しておらず、艦載機の整備も遅れていました。そのため、イギリスやアメリカ、日本などの列強諸国の空母と比較すると、総合的な戦闘能力は大きく見劣りしていたのが現状でした。

独自の設計思想：当時の技術革新とフランス海軍の創意工夫

ベアルンの設計には、フランス海軍独自の工夫が数多く盛り込まれていました。戦艦を改造した空母という制約はありましたが、当時の空母設計のトレンドを反映しつつ、独自の技術も導入されました。

装甲飛行甲板: ベアルンは、世界でも初期の例となる装甲を施した全通式飛行甲板を備えていました。これは、敵の攻撃からの防御能力を高めるという設計思想に基づいたものです。
島型艦橋: 艦橋と煙突を一体化した島型艦橋は、飛行甲板の邪魔にならず、操艦の効率を高めるというメリットがありました。さらに、ベアルンでは煙突に海水を利用した煤煙冷却装置が搭載され、着艦機の視界確保に配慮した設計となっていました。
横張り式着艦制動装置: 初期の空母では縦張り式が主流でしたが、ベアルンは横張り式を採用。これは、後の空母設計の主流となる安全性の高い方式でした。
3基のエレベーター: 緊急時の発進効率向上のため、世界でも珍しい3基のエレベーターを装備していました。

一方で、戦艦からの改造という制約もあり、最高速力は21.5ノットと低速であったり、艦載機の格納方法に工夫が必要であったなど、設計上の課題も残っていました。

武装と搭載機：時代を反映した艦載機と兵装

ベアルンは、対水上艦戦闘能力を維持するため、15.5cm速射砲や7.5cm高角砲、3.7cm機関砲など、様々な砲を装備していました。さらに、魚雷発射管も搭載しており、当時の空母の設計思想をよく反映した武装構成でした。

搭載機に関しては、フランス海軍航空隊が運用する艦上機は、アメリカや日本海軍の艦載機に比べて性能が劣っていました。そのため、ベアルンはフランス国産機と外国製機の両方を搭載していました。運用された機体には、Levasseur PLシリーズ攻撃機、Potez 56E輸送機、Loire-Nieuport LN.401爆撃機、Curtiss SBC Helldiver爆撃機、Vought V-156爆撃機、 Wibault 74戦闘機、Dewoitine D.373戦闘機などがあります。

第二次世界大戦とその後：激動の時代を生き抜いて

第二次世界大戦において、ベアルンはフランス海軍、ヴィシー政府軍、自由フランス海軍と所属を移しながらも、終戦まで生き残りました。戦争中は、航空機輸送艦としての役割を担い、連合国軍の戦力維持に貢献しました。戦後も教育訓練艦として使用され、1967年に解体されるまで、長い艦歴を刻みました。

まとめ：フランス海軍の試行錯誤と航空母艦史における位置づけ

ベアルンは、フランス海軍の航空母艦運用における試行錯誤を象徴する艦でした。高い完成度を持つ一方で、運用上の課題や時代の変化に対応しきれなかった面もありました。しかし、その独自の設計思想や戦時中の活動は、航空母艦史において重要な位置を占めています。ベアルンの歴史を学ぶことは、20世紀の激動の時代と、航空母艦の技術発展を理解する上で貴重な機会となるでしょう。

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