ベトナムの鉄道

ベトナムの鉄道は、ベトナム社会主義共和国における重要な交通インフラです。政府が所有するインフラを、公社が借りて運営する上下分離方式を採用しています。2008年時点ではベトナム鉄道公社が唯一の鉄道運営会社でしたが、2021年にハノイ・メトロが開業し、都市鉄道網が整備され始めています。

主要路線

南北を結ぶ「統一鉄道」は、ハノイとホーチミンを結ぶ主要路線です。南北分断時代には鉄道も分断されていましたが、統一後、その名で親しまれるようになりました。しかし、ベトナム戦争による戦災や経済的困窮から設備が老朽化しており、近年になって近代化工事が進められています。

統計

1996年の国連調査によると、営業キロ数は2,600km、輸送量は16億8千万トンキロ及び22億6千万人キロでした。国土面積と人口において日本と比較すると、それぞれ約90％、約60％ですが、鉄道営業キロは約10％にとどまります。全61省のうち、鉄道が敷設されているのは31省です。

2007年の鉄道輸送シェアは、旅客が約9%、貨物が約4%でしたが、2020年にはそれぞれ20%、30%に引き上げる計画がありました。しかし、地形的要因から南北間の輸送は海運、東西間の輸送はトラックやバスとの競合が激しい状況です。

歴史

ベトナムの鉄道の歴史は、フランス植民地時代の仏領インドシナ時代に遡ります。最初に開業したのは、昆明（中国）からハノイを結ぶ鉄道で、ベトナム領内区間は1905年に開通しました。山岳地帯での建設を容易にするため、軌間は1,000mm（メーターゲージ）が採用され、その後のベトナム鉄道の標準となりました。

1935年にはハノイとサイゴン（現ホーチミン）を結ぶ南北鉄道が全線開通しましたが、その後の独立戦争、南北分断、ベトナム戦争により多くの施設が破壊されました。1976年に南北鉄道は運行を再開し、国際列車も運行されましたが、中越戦争により一時中断しました。老朽化対策として1993年からは円借款による橋梁の緊急リハビリ事業が実施されました。

1995年からは政府がインフラを所有する上下分離方式が採用され、2003年には鉄道全般を監督するベトナム鉄道局が設立され、ベトナム鉄道公社が運営主体となりました。

事業者

広域輸送

ベトナム鉄道公社 (Tổng Công Ty Đường Sắt Việt Nam)

都市鉄道

ハノイ・メトロ
ホーチミン・メトロ

観光鉄道

ファンシーパン登山鉄道

設備

ベトナムの鉄道の線形は良好で、曲率半径は300m以上、勾配も10‰以下がほとんどです。これにより、軌道や車両の性能が十分であれば、高速運行が可能です。

軌間はメーターゲージが約86%を占め、三線軌条区間でもメーターゲージ車両が使われています。レールは南北線で38kg/mと43kg/m、他区間で30kg/mのものが用いられています。枕木は主に木製ですが、コンクリート製への代替が進んでいます。

橋梁は道路橋としても利用されるものがあり、列車が走らない時間帯にはスペースが開放されています。トンネルは南北線とドンダン線に集中しており、特にハイヴァン峠には曲率半径の小さいトンネルが連続しています。

車両

ベトナムの鉄道には電化区間がないため、すべての列車がディーゼル機関車を使用しています。機関車は東ヨーロッパ製が多く、老朽化や部品不足が課題でした。近年はベルギー製や中国製のエンジンへの換装が進められ、速度が向上しました。

客車は1960年代から1970年代に製造されたものが多く、寝台車の寝台長は短く、幅も狭いです。貨車はボギー車が主流です。最近では、中国製のディーゼル機関車が導入され、輸送事情が改善されつつあります。

観光客向けに、旅行代理店やホテルが運営する車両が定期列車に併結されています。

信号

鉄道信号機は駅構内のみに設置されており、ポイントの切り替えがされていない場合、列車は場内信号機や遠方信号機で待機します。腕木式の信号も使われており、色灯化が進められています。通信設備は災害に弱く、光ファイバーの導入が検討されています。

運行概要

ベトナム鉄道公社の路線は非電化で、ほとんどが単線です。2003年にベトナム鉄道公社が発足し、傘下のハノイ旅客鉄道会社、サイゴン旅客鉄道会社、貨物鉄道会社が輸送事業を行っています。

列車番号が若いほど優等列車になる傾向があり、最速の列車は全区間を約29時間で走破します。国際列車は、ハノイ・ドンダン線を経由して中国の南寧まで直通しています。かつては北京まで直通列車が運行されていましたが、現在は南寧で乗り換える必要があります。

座席と等級

車内座席には、寝台と座席の等級があり、エアコンの有無、寝台の上段・下段、列車の速達度などで料金が異なります。

今後の整備計画

ベトナムでは、鉄道の高速近代化工事が進められており、列車速度の向上を目指しています。また、ハノイ-ホーチミン間を結ぶ南北高速鉄道の建設が計画されています。

都市鉄道に関しては、ホーチミン市とハノイ市で本格的な整備計画があります。ハノイでは、2021年にハノイ・メトロが開業しました。ホーチミンでは、2007年に円借款契約が締結され、1号線の建設が進められています。

既存路線の改良も進められており、ハノイ-ザーラム間の複々線化や、南北線の複線化、電化、駅の増設などが計画されています。

路線

ベトナム鉄道公社

メーターゲージ
南北鉄道（統一鉄道）：ハノイ - ホーチミン (1,726km)
ハノイ・ドンダン線：ハノイ - ザーラム (5km)
ハノイ・ハイフォン線：ハノイ - ハイフォン (102km)
ハノイ・ラオカイ線：ハノイ - ラオカイ (296km)
バクホン・ヴァンディエン線：バクホン - ヴァンディエン
三線軌条（メーターゲージ、標準軌）
ハノイ・ドンダン線：ザーラム - ドンダン (157km)
イエンチャック・ナーズオン線：イエンチャック - ナーズオン (31km)
ハノイ・クアンチエウ線：ハノイ - クアンチエウ (75km)
標準軌
ケプ・カイラン線：ケプ駅 - ハロン (105km)
ハロン支線：チーリン - コータイン (16km)
ケプ・ルーサー線：ルーサー - ケプ (57km) (現在は運休)

都市鉄道

ハノイ・メトロ
ホーチミン・メトロ

隣接国との鉄道接続状況

中華人民共和国 - 接続あり
ラオス - 接続なし
* カンボジア - 接続なし

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