ベビンカ

ベビンカ：多様な姿を見せる南国の伝統菓子

ベビンカは、インドのゴア州を原産とする伝統的な菓子であり、カスタードプディングやケーキのような食感を持つ人気のデザートです。ゴア州では特にクリスマスの祝祭で食卓を彩り、その豊かな風味と独特の層構造は、人々の心を掴んで離しません。

ゴア州のベビンカ：伝統の16層

ゴア州のベビンカは、小麦粉、砂糖、卵黄、カルダモン、ギー（精製バター）、ココナッツミルクを主な材料として作られます。特筆すべきはその製法です。土製のオーブンを使用し、熱い炭を上に乗せて焼くという、伝統的な手法が受け継がれています。生地を薄く何層にも重ねて焼き上げるのが特徴で、伝統的には16層にも及びます。この工程が、ベビンカ独特の層状構造と、しっとりとした食感、そして奥深い風味を生み出しているのです。

マカオと東ティモールのベビンカ：多様なバリエーション

ベビンカはゴア州だけでなく、マカオや東ティモールでも親しまれています。しかし、地域によって材料や製法に違いが見られます。マカオでは米粉を使用することが多く、ゴアのような層状には焼かないのが一般的です。また、「ベビンカ・デ・レイテ」と呼ばれる、牛乳とココナッツミルクの両方を使用し、米粉の代わりにコーンスターチを用いたバリエーションも存在します。さらに、ギーの代わりにバターを使用したり、ナツメグで香り付けをするなど、それぞれの地域で工夫が凝らされています。東ティモールでは「ビビンカ」と呼ばれ、独自の進化を遂げています。

フィリピンのビビンカ：異なる魅力

フィリピンにも「ビビンカ」と呼ばれるケーキが存在しますが、ゴアのベビンカとは異なる特徴を持っています。フィリピンのビビンカは、バナナの葉を敷いた型に生地を流し込み、オーブンで焼き上げます。生地にはバニラやアニスなどの香料が使われ、独特の風味を醸し出します。焼き上がり直前にチェダーチーズを振りかけるなど、仕上げにも工夫が見られます。出来上がったビビンカには、バターやマーガリンを塗り、砂糖やすりおろしたココナッツを振りかけて提供されることも多く、ゴアのベビンカとは異なる魅力を持っています。

フィリピンのビビンカには、小麦粉、もち米粉、キャッサバ、もち米、ピニピグ（未熟な米を搗いてつくる米粉）など、様々な材料を使った種類があり、多様なバリエーションが楽しめます。中でも、2007年にイロコス・ノルテ州ディングラスで作られた長さ1km、重さ1000kgのキャッサバを使ったビビンカは、ギネス世界記録に認定されるほどの大規模なものでした。

ベビンカと台風名

興味深いことに、ベビンカはマカオによって台風のアジア名としても採用されています。お菓子の名前が台風名として用いられるというのは、ベビンカの知名度と親しみやすさを示す一つの例と言えるでしょう。

まとめ

ベビンカは、その起源であるゴア州から、マカオ、東ティモール、フィリピンへと広がり、それぞれの地域で独自の進化を遂げてきた、多様な顔を持つ伝統菓子です。材料や製法、そして見た目や味覚も地域によって異なり、それぞれのベビンカに込められた文化や歴史、人々の思いを感じることができます。それぞれの地域のベビンカを味わうことで、南国の豊かな食文化の一端に触れることができるでしょう。

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