ベンゼンヘキサクロリド

ベンゼンヘキサクロリド (BHC) について

ベンゼンヘキサクロリド（benzene hexachloride、略称BHC）は、分子式C6H6Cl6で表される有機塩素化合物です。この化合物はシクロヘキサン環に外部の塩素原子が結合している構造を特徴とし、6つの炭素原子にそれぞれ塩素と水素が結びついています。BHCは、毒物及び劇物取締法において劇物として指定されています。

歴史と発見

BHCは1825年にイギリスの化学者マイケル・ファラデーによって最初に合成されました。その後1912年にオランダのテウニス・ファン＝デル＝リンデンによって分離に成功し、フランスの科学者たちが続いて殺虫効果を発見しました。日本では鐘淵紡績株式会社が最初に工業合成に成功しました。

名称と異性体

日本では「ベンゼンヘキサクロリド」と呼ばれますが、この名称はIUPACの命名規則には従っていません。正しい名前は「1,2,3,4,5,6-ヘキサクロロシクロヘキサン（HCH）」です。BHCにはαからθまでの8つのジアステレオマーがあり、特にα-BHCにはエナンチオマーも存在するため、合計で9種類の立体異性体が存在します。

環境への影響

BHCの中でもγ-BHC（リンダン）は99%以上含まれる製品として知られ、1941年に神経毒としての殺虫効果が確認され以来、農業や住居用の殺虫剤として広く使用されていましたが、環境中での分解が難しく、特にβ-BHCの残留性が問題視されるようになりました。このため、現在では多くの国でBHCの使用が禁止され、POPs条約によって規制対象に指定されています。日本でも化審法により第一種特定化学物質に指定されています。

長期的な曝露は中毒症状を引き起こし、特に脂肪や肝臓、腎臓に蓄積する危険性が指摘されています。母乳中に含まれることも知られており、亜急性・慢性の中毒では頭痛や神経過敏、協調運動の障害などが報告されています。さらに、実験的には肝腫瘍形成や生殖機能の障害も観察されています。

BHCの用途と禁止

かつて農薬として幅広く使用されたBHCですが、その強い毒性と残留の問題から、多くの国で使用が禁止されています。日本では1968年に農薬としての残留基準が設定され、1971年には牛乳からの汚染問題が社会的な問題となりました。

さらに、かつては住居用燻蒸剤としてゴキブリやダニ対策に用いられていましたが、現在は使用が規制されています。1959年の伊勢湾台風後には防疫目的で散布されたこともありましたが、現在ではその使用は認められていません。

医薬用途と製法

BHCは疥癬の治療薬として皮膚に塗布され、ヒゼンダニを殺すために使用されていましたが、近年の規制の影響で日本では医薬品として入手することはできません。また、アタマジラミの駆除に使用される例もありますが、こちらも日本国内での使用は困難です。

製造方法は、ベンゼンと塩素ガスを混ぜて紫外線を照射することで塩素ラジカルを発生させ、それをベンゼンに付加させることで得られます。

まとめ

BHCはその特性からさまざまな用途に使われた一方で、環境と人の健康への影響が懸念され、現在ではほとんどの国で使用が禁止されています。歴史的には重要な農薬だったものの、その毒性と残留性から、利用には多くの制約が課されています。

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