ペラグラ
ペラグラは、体の機能維持に不可欠な栄養素であるナイアシン（ビタミンB3、別名ビタミンPP）が極端に不足することによって発生する病気です。これは代謝内分泌系に影響を及ぼす一種の重症な栄養失調と考えられています。病名の「ペラグラ」はイタリア語に由来し、「皮膚の痛み」を意味しており、特徴的な症状である皮膚の異常を示しています。
ナイアシンは食品から直接摂取できるだけでなく、体内で必須アミノ酸であるトリプトファンからも合成されます。このため、食事からのナイアシン摂取が不足している場合だけでなく、トリプトファンが十分に取れていない場合も、体内のナイアシン量が減少し、ペラグラを発症する原因となります。さらに、ナイアシンだけでなく、亜鉛や鉄、ビタミンB2、B6といった他の栄養素も不足している状況では、ペラグラになるリスクがより高まるとされています。
ペラグラの原因はいくつか挙げられます。一つは遺伝的な要因で、「ハートナップ病」のようにトリプトファンを腸からうまく吸収できない病気を持つ人は、ナイアシン不足になりやすくペラグラを発症することがあります。また、特定の食品ばかりを食べる偏った食生活が大きな原因となります。特に、ナイアシンが体に吸収されにくい形で含まれているトウモロコシを主食とする地域で、この病が多く見られました。ただし、トウモロコシをアルカリで処理する「ニシュタマリゼーション」という伝統的な方法を用いると、ナイアシンが体内で利用されやすい形に変化するため、適切に加工されたトウモロコシ製品を食べている場合には発症しにくいとされています（メキシコのトルティーヤなどが例です）。ペラグラは季節性も持ち合わせており、日差しが強くなる春から夏にかけて、トウモロコシ製品中心の食事が続くと発症しやすい傾向があります。遺伝や食事の偏り以外では、栄養を十分に摂取したり吸収したりできない状態も原因となります。例えば、特定の薬剤（化学療法薬など）の使用、胃を切除した後の状態、アルコール使用障害がある人、あるいは極端な偏食や摂食障害（拒食症など）がある人などが、栄養障害からペラグラを発症するケースが報告されています。食糧難の状況下では、入手可能な食料が限定されるため、ペラグラが多数発生することがあります。
ペラグラの症状は、ナイアシン不足に加えて日光に当たることで顕著になる特徴があります。初期には、日光に過敏になりやすくなり（光線過敏症）、特に顔に左右対称の赤い発疹が現れることが多いです。病状が進行すると、消化管全体が影響を受け始め、吐き気や嘔吐、便秘や下痢といった消化器系の不調が見られます。また、舌や口の粘膜に痛みのある口内炎ができたり、喉や食道に炎症が起こったりすることもあります。さらに病気が進むと、全身の倦怠感や不眠、感情の動きが鈍くなるなどの症状が現れ、最終的には脳の機能に重い障害（脳症）が発生します。これにより、周囲の状況が分からなくなる（見当識の喪失）、現実にはないものが見えたり聞こえたりする（幻覚）、過去の出来事を思い出せなくなる（健忘）、思考が混乱する（錯乱）といった深刻な精神神経症状が現れます。適切な治療を行わないまま放置すると、命に関わることもあります。ペラグラの主要な症状は、皮膚炎（Dermatitis）、下痢（Diarrhea）、認知症（Dementia）、そして死（Death）という「4つのD」として記憶されることがあります。
ペラグラの治療は、不足しているナイアシンを体内に補給することが中心です。治療には、ナイアシンの活性型であるニコチン酸アミドや、他の種類のビタミンB群が用いられます。適切な治療を受けることで、多くの場合は症状が劇的に改善し、回復に向かいます。
ペラグラは比較的古くから知られている病気で、病気として初めて記録されたのは1735年のスペインでした。当時、トウモロコシを主食としていた地域で多くの患者が発生していました。ドイツの文豪ゲーテも、イタリア旅行中にペラグラについて見聞し、患者がトウモロコシやソバといった特定の食品に偏っていることから栄養が関係しているのではないかと推察しています。特に18世紀以降、イタリアやバルカン半島の一部で、伝統的な主食であるポレンタの材料がトウモロコシ粉に変わるにつれて、トウモロコシしか食べられない貧困層や農民の間でペラグラが多発するようになりました。20世紀の初頭になっても、アメリカ合衆国では年間10万人もの人々がペラグラで亡くなり、致死率が50%を超える深刻な問題でした。
当初、多くの研究者はペラグラを細菌感染によるものと考えており、実際に病原菌を発見したと主張する科学者も現れました。しかし、アメリカの医学者ジョセフ・ゴールドバーガーは、この感染説に疑問を抱きました。彼は自らの体を使い、患者の血液や排泄物を摂取するという大胆な実験を行いましたが、ペラグラを発症しませんでした。この結果から、ペラグラは感染症ではなく、食事内容に関係する栄養の不足によって引き起こされる病気ではないか、という仮説を立てました。彼はさらに、同じようにトウモロコシを食べている人々の中でも、乳製品や肉、野菜といった他の食品もバランス良く摂取している人にはペラグラが見られないことに着目しました。そして、肉や乳製品などに含まれる何らかの栄養素が不足することがペラグラの原因であるという研究成果を1926年に発表しました。彼の栄養障害説は当時の主流の見解とは異なりましたが、その後の研究でその正しさが証明されていきます。そして1937年、コンラッド・エルヴェヘムがレバーからナイアシンを抽出することに成功し、ペラグラの原因物質がナイアシンであることが明確になりました。ナイアシンを補給する治療法が確立されてからは、ペラグラによる死亡者数は激減し、かつて多くの命を奪ったこの病は克服されていきました。
ナイアシンは食品から直接摂取できるだけでなく、体内で必須アミノ酸であるトリプトファンからも合成されます。このため、食事からのナイアシン摂取が不足している場合だけでなく、トリプトファンが十分に取れていない場合も、体内のナイアシン量が減少し、ペラグラを発症する原因となります。さらに、ナイアシンだけでなく、亜鉛や鉄、ビタミンB2、B6といった他の栄養素も不足している状況では、ペラグラになるリスクがより高まるとされています。
ペラグラの原因はいくつか挙げられます。一つは遺伝的な要因で、「ハートナップ病」のようにトリプトファンを腸からうまく吸収できない病気を持つ人は、ナイアシン不足になりやすくペラグラを発症することがあります。また、特定の食品ばかりを食べる偏った食生活が大きな原因となります。特に、ナイアシンが体に吸収されにくい形で含まれているトウモロコシを主食とする地域で、この病が多く見られました。ただし、トウモロコシをアルカリで処理する「ニシュタマリゼーション」という伝統的な方法を用いると、ナイアシンが体内で利用されやすい形に変化するため、適切に加工されたトウモロコシ製品を食べている場合には発症しにくいとされています（メキシコのトルティーヤなどが例です）。ペラグラは季節性も持ち合わせており、日差しが強くなる春から夏にかけて、トウモロコシ製品中心の食事が続くと発症しやすい傾向があります。遺伝や食事の偏り以外では、栄養を十分に摂取したり吸収したりできない状態も原因となります。例えば、特定の薬剤（化学療法薬など）の使用、胃を切除した後の状態、アルコール使用障害がある人、あるいは極端な偏食や摂食障害（拒食症など）がある人などが、栄養障害からペラグラを発症するケースが報告されています。食糧難の状況下では、入手可能な食料が限定されるため、ペラグラが多数発生することがあります。
ペラグラの症状は、ナイアシン不足に加えて日光に当たることで顕著になる特徴があります。初期には、日光に過敏になりやすくなり（光線過敏症）、特に顔に左右対称の赤い発疹が現れることが多いです。病状が進行すると、消化管全体が影響を受け始め、吐き気や嘔吐、便秘や下痢といった消化器系の不調が見られます。また、舌や口の粘膜に痛みのある口内炎ができたり、喉や食道に炎症が起こったりすることもあります。さらに病気が進むと、全身の倦怠感や不眠、感情の動きが鈍くなるなどの症状が現れ、最終的には脳の機能に重い障害（脳症）が発生します。これにより、周囲の状況が分からなくなる（見当識の喪失）、現実にはないものが見えたり聞こえたりする（幻覚）、過去の出来事を思い出せなくなる（健忘）、思考が混乱する（錯乱）といった深刻な精神神経症状が現れます。適切な治療を行わないまま放置すると、命に関わることもあります。ペラグラの主要な症状は、皮膚炎（Dermatitis）、下痢（Diarrhea）、認知症（Dementia）、そして死（Death）という「4つのD」として記憶されることがあります。
ペラグラの治療は、不足しているナイアシンを体内に補給することが中心です。治療には、ナイアシンの活性型であるニコチン酸アミドや、他の種類のビタミンB群が用いられます。適切な治療を受けることで、多くの場合は症状が劇的に改善し、回復に向かいます。
ペラグラは比較的古くから知られている病気で、病気として初めて記録されたのは1735年のスペインでした。当時、トウモロコシを主食としていた地域で多くの患者が発生していました。ドイツの文豪ゲーテも、イタリア旅行中にペラグラについて見聞し、患者がトウモロコシやソバといった特定の食品に偏っていることから栄養が関係しているのではないかと推察しています。特に18世紀以降、イタリアやバルカン半島の一部で、伝統的な主食であるポレンタの材料がトウモロコシ粉に変わるにつれて、トウモロコシしか食べられない貧困層や農民の間でペラグラが多発するようになりました。20世紀の初頭になっても、アメリカ合衆国では年間10万人もの人々がペラグラで亡くなり、致死率が50%を超える深刻な問題でした。
当初、多くの研究者はペラグラを細菌感染によるものと考えており、実際に病原菌を発見したと主張する科学者も現れました。しかし、アメリカの医学者ジョセフ・ゴールドバーガーは、この感染説に疑問を抱きました。彼は自らの体を使い、患者の血液や排泄物を摂取するという大胆な実験を行いましたが、ペラグラを発症しませんでした。この結果から、ペラグラは感染症ではなく、食事内容に関係する栄養の不足によって引き起こされる病気ではないか、という仮説を立てました。彼はさらに、同じようにトウモロコシを食べている人々の中でも、乳製品や肉、野菜といった他の食品もバランス良く摂取している人にはペラグラが見られないことに着目しました。そして、肉や乳製品などに含まれる何らかの栄養素が不足することがペラグラの原因であるという研究成果を1926年に発表しました。彼の栄養障害説は当時の主流の見解とは異なりましたが、その後の研究でその正しさが証明されていきます。そして1937年、コンラッド・エルヴェヘムがレバーからナイアシンを抽出することに成功し、ペラグラの原因物質がナイアシンであることが明確になりました。ナイアシンを補給する治療法が確立されてからは、ペラグラによる死亡者数は激減し、かつて多くの命を奪ったこの病は克服されていきました。
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