ペレアスとメリザンド (シェーンベルク)

交響詩『ペレアスとメリザンド』作品5

交響詩『ペレアスとメリザンド』作品5（ドイツ語: "Pelleas und Melisande" Symphonische Dichtung）は、オーストリアの作曲家 アルノルト・シェーンベルク（Arnold Schoenberg, 1874-1951）が 1902年から1903年にかけて手掛けた管弦楽作品です。シェーンベルクが作曲した唯一の交響詩として知られています。

作品の背景と着想

この作品は、ベルギーの劇作家モーリス・メーテルリンクによる象徴主義演劇 『ペレアスとメリザンド』に霊感を得ています。シェーンベルクは当初、この戯曲を基にしたオペラの作曲を計画していましたが、フランスの作曲家クロード・ドビュッシーが既に同名のオペラを完成させ、大きな成功を収めていたことを受け、最終的に交響詩という形で結実させました。メーテルリンクの『ペレアスとメリザンド』は、他にもガブリエル・フォーレやジャン・シベリウスといった作曲家たちによっても音楽化されており、彼らの作品は劇付随音楽として書かれ、後に組曲に編曲されています。

音楽様式と革新性

本作品は、シェーンベルクが後に徹底した無調音楽へと移行する以前の時期に書かれました。全体としては、リヒャルト・シュトラウスなどの作品に連なる 後期ロマン派様式の響きを持っています。しかし、その中にあって、既に彼の個性的な探求心と革新的な萌芽が見られます。例えば、非常に 複雑な対位法の技法が駆使されている点、従来の機能和声の枠にとどまらない 四度和音（クァルト・アコード）の積極的な使用、そして、伝統的な交響曲の多楽章構成を一つの大きな楽章の中に凝縮しようとする 斬新な単一楽章形式などが挙げられます。

初演の歴史

作品の 世界初演は1905年1月25日、ウィーンで行われました。この歴史的な演奏会では、作曲者であるシェーンベルク自身がタクトを執り、ウィーン演奏協会管弦楽団（現在のウィーン交響楽団の前身）が演奏を務めました。

日本国内での 日本初演は、1972年1月12日に実現しました。東京文化会館にて、指揮者・若杉弘と日本フィルハーモニー交響楽団によって演奏されました。

楽器編成

この交響詩は、非常に 大規模なオーケストラ編成を要求します。いわゆる4管編成を基本としており、以下の楽器が用いられます。

• - ピッコロ
• - フルート 3（うち1人はピッコロに持ち替え）
• - オーボエ 3（うち1人はコーラングレに持ち替え）
• - コーラングレ
• - 小クラリネット（E♭管）
• - クラリネット 3（うち1人はバス・クラリネットに持ち替え）
• - バス・クラリネット
• - ファゴット 3
• - コントラファゴット
• - ホルン 8
• - トランペット 4
• - アルト・トロンボーン
• - テナー・トロンボーン 3
• - バス・トロンボーン
• - コントラバス・テューバ
• - ティンパニ（奏者2名）
• - 大太鼓
• - シンバル
• - タムタム
• - トライアングル
• - 大きなリュールトロンメル
• - グロッケンシュピール
• - ハープ 2
• - 弦五部（第1ヴァイオリン 16、第2ヴァイオリン 16、ヴィオラ 12、チェロ 12、コントラバス 8）

現代では、エルヴィン・シュタインによって3管編成に簡略化された版が演奏される機会もあります。

楽曲構成

楽曲全体は、約45分を要する 648小節から成る 単一楽章形式を取っています。形式としては、伝統的なソナタ形式を基盤としつつも、大きく分けて提示部、展開部、再現部、そしてコーダに相当する部分が連続して演奏されます。しかし、その中で特に注目すべきは、展開部に当たる箇所に、まるで独立した楽章のように、 スケルツォや緩徐楽章に相当する音楽が挿入されている点です。これは、伝統的な交響曲の多楽章構造を、一つの大きな流れの中に統合しようとする試みであり、後にシェーンベルクの『室内交響曲第1番』にも受け継がれる特徴的な手法です。

和声の面では、この作品でシェーンベルクは革新的な手法を用いています。特に注目されるのは、伝統的な機能和声における属和音の第3音（長3度）ではなく第4音（完全4度）を用いた際に、通常は解決されるその第4音を解決せずに次の和音へと進む、独特の 「四度和声」（クァルト・アコード）を初めて効果的に使用した点です。この革新的な和声法は、その後のシェーンベルクの音楽語法の発展を予感させるものです。

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