ペーザロ家の祭壇画
『ペーザロ家の祭壇画』は、16世紀ルネサンス期のヴェネツィアを代表する巨匠、ティツィアーノ・ヴェチェッリオが1519年から1526年にかけて制作した油彩画です。この作品は、ヴェネツィアのサンタ・マリア・グロリオーザ・デイ・フラーリ聖堂に設置されており、現在も同じ場所で見ることができます。祭壇画は、ヤコポ・ペーザロが、自身の一族が購入した礼拝堂のためにティツィアーノに依頼しました。ヤコポはキプロスのパフォス司教であり、教皇領の海軍司令官でもありました。この作品は、彼が第二次オスマン＝ヴェネツィア戦争での勝利を感謝するために制作されたとされています。
ヤコポ・ペーザロは、1502年のサンタマウラの戦いで教皇軍のガレー船を率いて勝利しました。彼はこの戦いの勝利を記念し、自身の信仰を表明するためにティツィアーノに祭壇画の制作を依頼しました。ティツィアーノは、この依頼を受ける前に、同教会のために主祭壇画『聖母被昇天』を制作しており、さらに数年前には同じくヤコポの依頼で『聖ペテロと教皇アレクサンデル6世、ペーザロ司教』を制作しています。完成まで7年の歳月を要した本作品の報酬は、102ドゥカートと当時としては驚くほど低額であり、複数回に分けて支払われました。
祭壇画の中央には、幼いキリストを抱く聖母マリアが描かれています。聖母の前には、敬虔なポーズでひざまずくヤコポ・ペーザロがいます。聖母の斜め下には、青い衣服と黄色のマントをまとった聖ペテロがおり、読書を中断してヤコポを聖母に紹介しています。画面左端には、教皇とヤコポの紋章が描かれた大きな赤い旗が掲げられており、旗の先端には月桂樹の枝が飾られています。この旗を掲げ、トルコ人とムーア人の捕虜を連れている黒い甲冑の騎士は、ヤコポの勝利を象徴していると考えられています。画面右側には、アッシジの聖フランチェスコが、ペーザロ家の5人の成員をキリストと結びつけています。特に緋色の服を着ているフランチェスコ・ペーザロは、聖フランチェスコとの同一性を通して救いがもたらされることを示唆しています。聖フランチェスコの後ろには、同じくフランチェスコ会の聖人であるパドヴァの聖アントニウスが描かれています。
聖母マリアのモデルは、ティツィアーノの亡くなった妻だとされています。聖母はヤコポの方を向いているのに対し、幼いキリストは別の方向を向き、左足を上げて聖母の腕から踏み出そうとしています。このポーズは、復活したキリストが墓から出てくる様子を暗示していると考えられています。また、画面上部には雲の上に天使たちが現れ、十字架を持っています。
画面全体は、生地の質感や光の表現に注意が払われており、ヴェネツィアの光が画面を照らしているようです。特に旗や衣装の豊かな質感は、光と影のコントラストによって強調されています。
この作品は、ティツィアーノの『聖母被昇天』に続く革新的な研究の成果です。従来の聖会話では聖母が画面の中央に配置されていましたが、ティツィアーノは聖母を横にずらすことで、新たな構図を創り出しました。それでも、聖母は円柱にもたれかかる玉座に座り、画面の頂点に位置しています。聖母の一段下には聖ペテロが配置され、ヤコポとフランチェスコが形成するピラミッドの頂点となっています。この構図により、ティツィアーノは画面に動きを生み出し、バロック時代のより複雑な構図技法を予感させました。彼は斜めと三角形の原理を用いて、観る者の視線を聖母子に引き寄せ、ペーザロ家の敬虔さと精神的な空間を統合しています。
また、祭壇画が身廊の左側に設置されることを考慮し、聖母を画面の右側に配置することで、鑑賞者が最初に絵画を見たときに、聖母が左から歩いてくる礼拝者を迎えるように見えます。
円柱を用いた建築的な舞台設定は、天国への視線を強調し、作品の垂直方向と高さを際立たせています。この円柱はルネサンス絵画では前例がなく、多くの議論の対象となっています。
ティツィアーノは、同じ教会のパオロ・ヴェネツィアーノによる14世紀の作品『聖母子と二人の聖人と二人の寄進者』を知っていたと考えられます。この作品は、聖母子の両側に聖人と寄進者が対称的に配置されている点で、ティツィアーノの作品と共通の要素を持っています。
『ペーザロ家の祭壇画』は、その後の多くの作品に影響を与えました。パオロ・ヴェロネーゼ、ヤコポ・バッサーノ、モレット・ダ・ブレシアといった画家たちの作品に、この祭壇画の影響が見られます。
2012年、イタリア北部地震により祭壇画が設置された祭壇が損傷したため、絵画は一時的に取り外されました。その後の調査で、絵画にひび割れや絵具の剥離が見られたため、大規模な修復作業が行われました。修復は、非営利団体セーブ・ヴェネツィアの資金提供のもと、修復家ジュリオ・ボーノをはじめとする専門家チームによって行われました。修復作業では、絵画の洗浄、汚れや酸化したニスの除去、絵具層の修復、そして湿度や温度変化への対策が施されました。
修復された祭壇画は、2017年9月に再び元の場所に戻され、その再設置を祝う式典が行われました。この修復は、文化遺産の保護における重要な事例となりました。
制作の背景
ヤコポ・ペーザロは、1502年のサンタマウラの戦いで教皇軍のガレー船を率いて勝利しました。彼はこの戦いの勝利を記念し、自身の信仰を表明するためにティツィアーノに祭壇画の制作を依頼しました。ティツィアーノは、この依頼を受ける前に、同教会のために主祭壇画『聖母被昇天』を制作しており、さらに数年前には同じくヤコポの依頼で『聖ペテロと教皇アレクサンデル6世、ペーザロ司教』を制作しています。完成まで7年の歳月を要した本作品の報酬は、102ドゥカートと当時としては驚くほど低額であり、複数回に分けて支払われました。
作品の構成
祭壇画の中央には、幼いキリストを抱く聖母マリアが描かれています。聖母の前には、敬虔なポーズでひざまずくヤコポ・ペーザロがいます。聖母の斜め下には、青い衣服と黄色のマントをまとった聖ペテロがおり、読書を中断してヤコポを聖母に紹介しています。画面左端には、教皇とヤコポの紋章が描かれた大きな赤い旗が掲げられており、旗の先端には月桂樹の枝が飾られています。この旗を掲げ、トルコ人とムーア人の捕虜を連れている黒い甲冑の騎士は、ヤコポの勝利を象徴していると考えられています。画面右側には、アッシジの聖フランチェスコが、ペーザロ家の5人の成員をキリストと結びつけています。特に緋色の服を着ているフランチェスコ・ペーザロは、聖フランチェスコとの同一性を通して救いがもたらされることを示唆しています。聖フランチェスコの後ろには、同じくフランチェスコ会の聖人であるパドヴァの聖アントニウスが描かれています。
聖母マリアのモデルは、ティツィアーノの亡くなった妻だとされています。聖母はヤコポの方を向いているのに対し、幼いキリストは別の方向を向き、左足を上げて聖母の腕から踏み出そうとしています。このポーズは、復活したキリストが墓から出てくる様子を暗示していると考えられています。また、画面上部には雲の上に天使たちが現れ、十字架を持っています。
画面全体は、生地の質感や光の表現に注意が払われており、ヴェネツィアの光が画面を照らしているようです。特に旗や衣装の豊かな質感は、光と影のコントラストによって強調されています。
革新的な構図
この作品は、ティツィアーノの『聖母被昇天』に続く革新的な研究の成果です。従来の聖会話では聖母が画面の中央に配置されていましたが、ティツィアーノは聖母を横にずらすことで、新たな構図を創り出しました。それでも、聖母は円柱にもたれかかる玉座に座り、画面の頂点に位置しています。聖母の一段下には聖ペテロが配置され、ヤコポとフランチェスコが形成するピラミッドの頂点となっています。この構図により、ティツィアーノは画面に動きを生み出し、バロック時代のより複雑な構図技法を予感させました。彼は斜めと三角形の原理を用いて、観る者の視線を聖母子に引き寄せ、ペーザロ家の敬虔さと精神的な空間を統合しています。
また、祭壇画が身廊の左側に設置されることを考慮し、聖母を画面の右側に配置することで、鑑賞者が最初に絵画を見たときに、聖母が左から歩いてくる礼拝者を迎えるように見えます。
円柱を用いた建築的な舞台設定は、天国への視線を強調し、作品の垂直方向と高さを際立たせています。この円柱はルネサンス絵画では前例がなく、多くの議論の対象となっています。
他の作品との関連
ティツィアーノは、同じ教会のパオロ・ヴェネツィアーノによる14世紀の作品『聖母子と二人の聖人と二人の寄進者』を知っていたと考えられます。この作品は、聖母子の両側に聖人と寄進者が対称的に配置されている点で、ティツィアーノの作品と共通の要素を持っています。
作品の影響
『ペーザロ家の祭壇画』は、その後の多くの作品に影響を与えました。パオロ・ヴェロネーゼ、ヤコポ・バッサーノ、モレット・ダ・ブレシアといった画家たちの作品に、この祭壇画の影響が見られます。
修復について
2012年、イタリア北部地震により祭壇画が設置された祭壇が損傷したため、絵画は一時的に取り外されました。その後の調査で、絵画にひび割れや絵具の剥離が見られたため、大規模な修復作業が行われました。修復は、非営利団体セーブ・ヴェネツィアの資金提供のもと、修復家ジュリオ・ボーノをはじめとする専門家チームによって行われました。修復作業では、絵画の洗浄、汚れや酸化したニスの除去、絵具層の修復、そして湿度や温度変化への対策が施されました。
修復された祭壇画は、2017年9月に再び元の場所に戻され、その再設置を祝う式典が行われました。この修復は、文化遺産の保護における重要な事例となりました。
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