ホタルイ属 (広義)

ホタルイ属(Scirpus)について

ホタルイ属は、カヤツリグサ科に属する多様な植物群です。ホタルイ、アブラガヤ、ウキヤガラなど、様々な形態の植物が含まれます。分類学的には細分化されることもありますが、ここでは広義のホタルイ属として解説します。

特徴

ホタルイ属は、その範囲を広く捉えた場合、植物体の形態に大きな多様性が見られます。例えば、根元から多数の葉を出し、花茎を伸ばして小穂をつけるもの、根元に少数の葉を持ち、花茎の途中や先端にも葉をつけるもの、ほとんど葉を持たず、イグサのように花茎だけが束になって出るものなどが存在します。地下茎についても、ごく短いものから長く横に這うもの、地下に塊茎を持つものまで様々です。

ここでは、佐竹他(1982)の分類体系に沿って、ホタルイ属の特徴を詳しく見ていきましょう。

小穂の構造

ホタルイ属に共通する特徴として、小穂の構造が挙げられます。具体的には、以下の点が共通しています。

両性花: 全ての花が雄しべと雌しべを持つ。
多数花: 小穂には多数の花が含まれる。
鱗片の配列: 鱗片は螺旋状に配列する。
針状の付属物: 雄しべと雌しべの他に、針状の付属物を6-8本持つ。この付属物は花被に由来すると考えられ、多くの種では細い針状で果実の長さ程度で、鱗片に隠れて見えにくいですが、一部の種では開花後に伸びて綿毛状になる。
花柱の基部: 雌しべの花柱の基部が特に発達せず、果実に滑らかに続く。

類似の植物との違い

鱗片が螺旋状に配列した多数花の小穂を花茎の先端に多数つけるという点では、テンツキ属がホタルイ属と似ています。しかし、テンツキ属には針状の付属物がなく、花柱の基部が幅広くなって果実から脱落する点が異なります。また、ハリイ属も同様の特徴を持ちますが、多くの種では花茎の先端に小穂を1個だけつけ、花柱の基部が大きく膨らんで果実の先端に残る点が異なります。

分類

ホタルイ属は世界に約200種、日本には30種ほどが知られています。自然雑種も存在します。

属内には性質が大きく異なる植物が含まれるため、いくつかの属に分割する説もあります。以下に、日本産の代表的な種類を、細分属名とともに示します。

アブラガヤ類(クロアブラガヤ属 Scirpus): よく発達した根出葉を持ち、花茎の先に多数の小穂をつける。
例: アブラガヤ、マツカサススキ
ウキヤガラ類(ウキヤガラ属 Bolboschoenus): 少数の根出葉と花茎の苞葉を持つ。小穂は大きくて多数～少数。
例: ウキヤガラ、コウキヤガラ
ホタルイ類(ホタルイ属 Schoenoplectus): 苞が茎の延長のようになった、イグサに似た姿の植物。小穂は少ない。
例: ホタルイ、ヒメホタルイ、カンガレイ、サンカクイ、フトイ。なお、この群は実際にはSchoenoplectusという学名が与えられていますが、その和名はフトイ属となっています。さらに細分化され、ホタルイやその近縁種はScoenoplectiellaとなり、ホソガタホタルイ属という和名が与えられています。
ミネハリイ類(ヒメワタスゲ属 Trichophorum): 高山植物。花茎の基部には鞘になった葉があり、ハリイのような姿。針状附属物は鱗片を越えて伸びる。ワタスゲに似る。
例: ミネハリイ、ヒメワタスゲ
ビャッコイ類(ビャッコイ属 Isolepis): 沈水性の水草。背の低い草で、各節から葉を出し、先端に小穂を一つだけつける。
例: ビャッコイ
その他: タカネクロスゲは、かつてワタスゲ属(Eriophorum)に分類されていましたが、現在はホタルイ属に含まれます（細分属ではアブラガヤ属）。

個々の植物に関する詳細は、それぞれの項目を参照してください。

出典

佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎他『日本の野生植物　草本I 単子葉植物』,(1982),平凡社
星野卓二・正木智美・西本眞理子、『日本カヤツリグサ科植物図譜』、(2011)、平凡社

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