ホルムズ

ホルムズ

ホルムズ（Hormuz、オルムズとも）は、10世紀から17世紀にかけてペルシャ湾岸に存在したホルムズ王国の中心的な港湾都市でした。オマーン湾からホルムズ海峡を望む要衝に位置し、ララク島、ホルムズ島、ケシム島といった島々が点在する海域に面していました。

名称の由来

この町の名前は、古代ペルシャの宗教であるゾロアスター教の最高神、アフラ・マズダーに由来すると考えられています。神名の「アフラ・マズダー」が時を経て変化し、「オルムズ（Ormozd）」、そして「ホルムズ（Hormuz）」と呼ばれるようになったとされています。

交易都市としての繁栄

ホルムズは、古くからペルシャ湾とインド、さらには東アフリカを結ぶ海上交易の重要な拠点として発展しました。13世紀にこの地を訪れたマルコ・ポーロは、その著書『東方見聞録』の中で、ホルムズを「コルモス」と呼び、「香辛料、貴重な宝石、美しい真珠、上質な絹織物、象牙など、多様な品々を取引するためにインドの商人たちが集まる場所である」と記し、その繁栄ぶりを伝えています。また、漢文の歴史書にも、中国の海商である楊枢（ようすう）が忽魯模思（ホルムズ）に到達したという記録が残されており、東西を結ぶ国際的な商業港としての地位がうかがえます。

ペルシャ湾から内陸へ、バグダードを経由してコンスタンティノープルや中央アジアに至る陸上交易路もまた、ホルムズが支えるネットワークの一部でした。このルートは特にジェノヴァの商人によって活用されましたが、14世紀以降にオスマン帝国が勢力を拡大し、最終的にビザンツ帝国を滅ぼすに至ると、この交易路は次第に重要性を失っていきました。

ヨーロッパ勢力の進出と衰退

大航海時代の到来は、ホルムズの運命を大きく変えることになります。1498年にヴァスコ・ダ・ガマがインド洋への新しい航路を開拓したのに続き、1515年にはポルトガルの艦隊がホルムズを攻撃し、その支配下に置きました。ポルトガルは要塞を築き、この地の交易を管理するようになりました。

17世紀に入ると、イギリス東インド会社がペルシャの絹取引に関心を持ち、当時のサファヴィー朝のシャー・アッバース1世との間で貿易許可を得ようとします。しかし、その条件の一つとして、ホルムズに築かれたポルトガル要塞への攻撃協力が求められました。1622年、イギリスとサファヴィー朝の連合軍による攻撃の結果、ホルムズは降伏します。降伏後、シャー・アッバース1世はホルムズの港湾機能を対岸のペルシャ本土へ移転させ、そこに新たな港町を建設し、「バンダレ・アッバース」と名付けました。「バンダレ」はペルシャ語で「港」を意味します。これにより、かつてホルムズが担っていた国際港としての役割は終わりを告げ、その後の交易の中心はバンダレ・アッバースへと移っていきました。その後、オランダやフランスの東インド会社もバンダレ・アッバースに商館を設置するようになります。

ホルムズを訪れた歴史上の人物

多くの人々が行き交ったホルムズには、歴史に名を残す探検家や使節も訪れています。

ネアルコス: 紀元前325年頃、アレキサンダー大王の臣下としてこの地に至りました。当時はハルモゼイア（Harmozeia）と呼ばれており、アレキサンダー大王が亡くなる2年前のことでした。
マルコ・ポーロ: 13世紀後半に『東方見聞録』を記したヴェネツィアの商人。彼は東方への往路でホルムズから船に乗ることを断念しましたが、帰路ではインドからの船旅でホルムズに上陸し、コカチン姫を送り届けた記録があります。彼が訪れた頃、ホルムズはチンギス・ハーンの孫であるフレグの子、アルグン・ハーンが治めるイルハン朝の支配下にありました。
イブン・バットゥータ: 14世紀のモロッコ出身の大旅行家。彼は生涯で二度ホルムズを訪れています。彼がこの地を旅した時期もまた、イルハン朝の時代でした。
鄭和: 明の永楽帝の命を受けた大航海を率いた人物。彼は1415年頃、1422年頃、1431年頃と、合計三度にわたってホルムズを訪れたとされています。この時期、ホルムズ周辺地域はティムール朝の支配下にありました。

17世紀にその歴史的役割を終えたホルムズですが、東西交易の栄枯盛衰を示す重要な場所として、今なおその名を留めています。

もう一度検索