ホロマイコータ

ホロマイコータ (Holomycota)

ホロマイコータは、学名をHolomycotaまたはNucletmyceaと称され、真菌類と、それらの生物に系統的に極めて近い関係にあることが分子レベルの研究で明らかになった一部の原生生物（単細胞の真核生物）を包含する概念上の分類群（クレード）です。従来の分類体系においては、真菌と原生生物は大きく異なる生物群として扱われていましたが、近年の遺伝子情報に基づく詳細な分子系統解析によって、これらの多様な生物が進化的に一つのまとまりを形成していることが強く支持されるようになりました。

このクレードは、真核生物全体をさらに大きなグループに分けたスーパーグループの一つである「オピストコンタ (Opisthokonta)」に位置づけられます。オピストコンタという名称は、「後方の鞭毛を持つ者」を意味し、少なくとも生活環の特定の段階において、細胞の後端に伸びる一本の鞭毛を持つという特徴に由来します。真菌の遊走子や、動物の精子などがその例です。オピストコンタは、真核生物の生命の系統樹において非常に大きな枝の一つを形成しており、真菌類と動物界という、生態学的にも形態学的にも大きく異なる二つの生物界を含む重要なグループです。

オピストコンタは、大きく二つの主要なクレードに分けられます。一つがこのホロマイコータであり、もう一つが「ホロゾア (Holozoa)」です。ホロゾアには、我々人間を含む全ての多細胞動物（後生動物）や、動物に最も近縁とされる襟鞭毛虫類（Choanoflagellates）などの単細胞真核生物が含まれます。ホロマイコータとホロゾアは、オピストコンタ内で互いに姉妹群、つまり最も近縁な関係にあるとされています。この系統関係は、真菌が植物よりも動物に進化的に近いという驚くべき事実を裏付ける強力な証拠の一つとなっています。

ホロマイコータに含まれる生物群は非常に多様です。これには、日常的に目にするキノコやカビ、酵母といった狭義の真菌（Fungi sensu stricto）の全ての主要な系統が含まれます。加えて、かつてアメーバ類や他の原生生物として分類されていたいくつかのグループが、系統解析の結果、真菌の系統樹の比較的根元の方に位置づけられることが判明し、ホロマイコータの一部として認識されるようになりました。具体的な例としては、ヌクレアリア類（Nucleariida。アメーバ様の形態を持つ捕食性の生物群で、太陽虫の一部として扱われることもあります）、フォンチクラ科（Fonticulidae。細胞性粘菌に似た集合体を形成する生物）、そして基底的な真菌とされるロゼラ（Rozella。非常に単純な構造を持つ寄生性の真菌、あるいは真菌にごく近縁な原生生物）などが挙げられます。これらの原生生物の中には、真菌の一般的なイメージとは異なり、アメーバ運動を行ったり、積極的に他の微生物を捕食したりするものもいます。

ホロマイコータが単一の系統群であるという理解は、主として分子情報、特にリボソームRNAや様々なタンパク質の遺伝子配列を比較する分子系統解析の成果に基づいています。これらの解析は、真菌と特定の原生生物群が共通の祖先から進化してきたことを強力に示唆しています。一方で、これらの多様な生物群に共通する明確な形態的、あるいは発生学的な特徴を見出すことは容易ではありません。分子データに基づく系統関係と、従来の形態学的分類とのギャップを埋める研究は現在も進められています。

ホロマイコータという分類群の提唱は、真核生物の系統分類学、特に真菌と動物の進化の道のりを理解する上で非常に重要な意味を持っています。このクレードを研究することで、異栄養生物（他の生物を栄養源とする生物）がどのように多様化し、進化してきたのか、また、多細胞化に至る動物の系統と、単細胞や菌糸で構成される真菌の系統が、進化の歴史上のどの時点で分岐したのかといった根源的な問いに対する洞察が得られます。分子系統解析による分類の再構築は、生命の系統樹に対する我々の理解を絶えず更新しており、ホロマイコータはその代表的な例と言えます。

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