ホンダ・VTR1000 SP-1/2

ホンダVTR1000 SP-1/2：レースで鍛え上げられた孤高のVツイン

ホンダVTR1000 SP-1/2は、本田技研工業が製造販売していた、水冷4ストロークV型2気筒999ccエンジンを搭載した、輸出専用モデルのオートバイです。その開発コンセプトは、FIMスーパーバイク世界選手権（SBK）をはじめとする世界各国のレースへの参戦、そしてそのためのホモロゲーションマシンとしての役割にありました。北米（カナダ）ではRVF/RC45の後継機種としてRC51という名称で販売されていましたが、正式名称はRVT1000R、型式はSC45です。

日本では正規販売されなかったため、国内で流通する車両は逆輸入車のみという希少性も持ち合わせています。その背景には、レース活動における強い意図がありました。

レース参戦とホモロゲーションマシンの役割

VTR1000 SP-1/2の開発には、ホンダのレーシング部門であるHRC（ホンダ・レーシング・コーポレーション）が深く関わっていました。HRCは、市販車部門である本田技研朝霞研究所と共同で開発を行い、レーシングマシン開発のノウハウを惜しみなく投入しました。まず、HRCがレーシングマシンとしての設計を行い、その後、公道走行に必要な保安部品の追加などの作業を朝霞研究所が行うという、独自の開発体制が採用されました。

ホンダがV型4気筒エンジンではなく、V型2気筒エンジンを選択した理由は、当時のSBKレギュレーションにありました。4気筒エンジンは排気量制限が750ccであったのに対し、2気筒エンジンは1000ccまで許容されていたのです。この排気量差は、レースにおいて大きなアドバンテージとなります。さらに、2気筒エンジンは4気筒エンジンと比較して軽量化と構造の簡素化が容易であり、V4エンジンの開発限界に到達していたという背景もありました。ドゥカティやアプリリアといった、V型2気筒エンジンで成功を収めていたメーカーの存在も、ホンダの決断を後押ししたと言えるでしょう。

SP-1とSP-2：進化を遂げた2つのモデル

SP-1は、高剛性のダイヤモンド形状アルミツインチューブフレームにトラス構造を採用した、極めて高い剛性を誇るマシンでした。しかし、その剛性ゆえに扱いにくさもあったことから、SP-2ではフレームを改良し、適度なしなりを持たせることで乗りやすさが向上しました。開発は1998年に開始されており、初期のプロトタイプではNSR500のカウルを流用していたという逸話も残っています。

SP-1とSP-2の主な違いは、以下のとおりです。

SP-1（前期型）

高剛性ダイヤモンド形状アルミツインチューブフレーム
190幅タイヤ対応のリアホイールリム（5.5インチから6.0インチへ拡大）
SHOWA製43mm倒立フォーク
320mmフローティングブレーキディスク
電子制御式燃料噴射装置（PGM-Fi）
カムギアトレーン駆動
アッパーケース一体型ニカジルメッキシリンダー
ラムエア加圧システム
イリジウムスパークプラグの採用（ホンダ車初）
デジタル式メーター
プレミアムガソリン仕様

SP-1は、レースユースを前提として設計されたため、車体重量は200kgと、ベースモデルであるVTR1000Fよりも重くなっています。しかし、エンジン出力は93PSから133PSへと大幅に向上し、高回転型のエンジン特性が特徴です。

SP-2（後期型）

ヘッドの排気ポート形状変更
浸炭ナットレスコンロッドの採用
スイングアーム形状変更
フレーム剛性の見直し
フロントフォークの軽量化
車体軽量化（約5kg）
スロットルボディの大型化（54mmから62mmへ）
* 燃調の最適化

SP-2では、SP-1の問題点を解消するために、軽量化やフレーム剛性の見直し、燃調の最適化などが行われました。これらの改良により、SP-1よりも扱いやすさが向上しています。しかし、依然としてレースユースを前提とした設計であるため、一般ライダーが気軽に扱えるバイクとは言えません。

RVT1000R（RC51）：北米仕様

北米仕様のVTR1000 SP-1/2は、RC51という名称で販売されました。基本的なスペックは欧州仕様と変わりませんが、ウインカーやヘッドライトなどの保安基準部品が異なります。

SPW：ワークスマシン

SPWは、VTR1000 SP-1/2をベースとしたワークスマシンです。SBK、EWC、全日本ロードレース選手権、鈴鹿8耐、AMAスーパーバイク選手権など、世界各国のレースで活躍しました。市販車とは異なり、センターラジエーターを採用するなど、徹底的な軽量化と空力性能の向上が図られていました。

レース戦績

VTR1000 SP-1/2、そしてSPWは、世界各国のレースで数々の勝利を収めました。特に2000年と2002年のSBK世界選手権では、コーリン・エドワーズ選手がチャンピオンを獲得しています。

まとめ

VTR1000 SP-1/2は、レース参戦を最優先事項として開発された、極めて純粋なレーシングマシンです。その希少性と高い走行性能、そして数々のレースでの活躍から、多くのファンを魅了し続けています。そのスパルタンな乗り味と高い技術力は、現代のバイクにも通じるものがあります。

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