ホールカル家

ホールカル家（Holkar）は、18世紀から19世紀にかけて中央インドのマールワー地方を支配したマラーター同盟の有力な諸侯です。その歴史は、マラーター王国の武将マルハール・ラーオ・ホールカルが、マールワー地方での勢力を確立したことに始まります。首都はインドール、マヘーシュワル、バーンプラに置かれました。

ホールカル家の成立とマールワー獲得

マルハール・ラーオ・ホールカルは、もともとマラーター王国の武将でした。1720年代、宰相バージー・ラーオの命により、マールワー地方への遠征に参加しました。1731年、マルハール・ラーオはマールワー2州の支配を委ねられ、マラーター同盟の諸侯としての地位を確立しました。1734年までには、その支配はインドール、マヘーシュワルにまで拡大しました。

マルハール・ラーオは、1738年にデリーの戦いでムガル帝国軍を破り、同年にはボーパールの戦いでニザーム王国軍を打ち破りました。この結果、ニザーム王国はマールワー地方をマラーター勢力に割譲することになりました。1740年から1741年にかけて、宰相バーラージー・バージー・ラーオはデリーへの遠征を行い、マールワー地方の割譲をムガル帝国に認めさせ、ホールカル家の支配を確立しました。1747年には、インドールに宮殿ラージワーダーの建設を開始しました。

アフガン勢力との対立と第三次パーニーパトの戦い

マルハール・ラーオはインドールを中心に勢力を拡大し、1754年には帝位継承に影響力を持つまでになりました。しかし、アフガン勢力ドゥッラーニー朝の侵入が頻繁になり、マラーター勢力とアフガン勢力の衝突は避けられなくなりました。1757年、アフガン王アフマド・シャー・ドゥッラーニーはデリーを占領し、虐殺と略奪を行いました。

マラーター王国は、ラグナート・ラーオとマルハール・ラーオをデリーに派遣し、アフガン勢力を破りました。その後、パンジャーブ地方への遠征も行いました。1760年には、マラーター軍はデリーを占拠しましたが、第三次パーニーパトの戦いでアフガン勢力に大敗しました。マルハール・ラーオは辛うじて逃げ延びることができましたが、この大敗でマラーター同盟の結束は緩み、諸侯の独立性が強まりました。

アヒリヤー・バーイーの治世

1766年、マルハール・ラーオが亡くなり、孫のマーレー・ラーオも翌年に亡くなったため、アヒリヤー・バーイーとその夫トゥコージー・ラーオ・ホールカルが共同統治することになりました。アヒリヤー・バーイーは、インドールの南、ナルマダー川の畔マヘーシュワルに遷都し、内政を中心に統治しました。彼女はヒンドゥー寺院のパトロンであり、多くの寺院を建設しました。彼女が再建したソームナート寺院は有名です。

一方で、アヒリヤー・バーイーは、北インドで勢力を拡大していたシンディア家と対立し、しばしば紛争が起こりました。1795年にアヒリヤー・バーイーが亡くなった後、夫のトゥコージー・ラーオが単独統治者となりました。

内乱とシンディア家との争い

1797年、トゥコージー・ラーオが息子カーシー・ラーオに当主位を譲りましたが、すぐに亡くなったため、当主位を巡る争いが勃発しました。カーシー・ラーオの弟マルハール・ラーオは、弟のヤシュワント・ラーオとヴィトージー・ラーオの支持を受けていましたが、カーシー・ラーオはシンディア家のダウラト・ラーオ・シンディアの助力を得て、マルハール・ラーオを殺害しました。ヤシュワント・ラーオとヴィトージー・ラーオは逃亡に成功しました。

1799年、ヤシュワント・ラーオはマヘーシュワルに入城し、カーシー・ラーオを廃位しました。そして、マルハール・ラーオの息子カンデー・ラーオとともに共同統治者となりました。ヤシュワント・ラーオは、シンディア家と対立を深め、1801年のウッジャインの戦いでシンディア軍に大きな損害を与えました。

宰相府との争い

1802年、宰相バージー・ラーオ2世は、ヤシュワント・ラーオの弟ヴィトージー・ラーオを処刑したため、ヤシュワント・ラーオの恨みを買いました。ヤシュワント・ラーオはプネーに進撃し、バージー・ラーオ2世とシンディア軍を破り、プネーを占領しました。1803年、ヤシュワント・ラーオはカンデー・ラーオを連れて本国に帰還しました。

第二次マラーター戦争と講和

プネーを追われたバージー・ラーオ2世は、イギリスと軍事条約バセイン条約を結び、プネーに戻りました。この条約に反発したマラーター諸侯は、ヤシュワント・ラーオを中心にイギリスに対抗しましたが、第二次マラーター戦争で敗北しました。ホールカル家は、ボーンスレー家やシンディア家が降伏した後も、イギリス軍と互角に戦い、1805年にラージガート条約を締結しました。この条約で、チャンバル川以北の領土を放棄しましたが、後にこれらの領土は返還されました。

1807年、カンデー・ラーオが亡くなり、ヤシュワント・ラーオが単独の当主となりました。彼は、ムガル帝国の皇帝アクバル2世から様々な称号を賜りました。

第三次マラーター戦争と藩王国化

1811年、ヤシュワント・ラーオが亡くなり、幼少の息子マルハール・ラーオ2世が当主位を継承しました。ヤシュワント・ラーオの妃トゥルシー・バーイーが実権を握りましたが、ホールカル家の領土は政情不安に陥りました。1817年、第三次マラーター戦争が勃発し、ホールカル家はイギリス軍と交戦しましたが、大敗しました。1818年、マンドサウル条約が締結され、ホールカル家はイギリスに従属する藩王国となりました（インドール藩王国）。

イギリス統治下におけるホールカル家

1818年、ホールカル家の首都は正式にインドールに遷都されました。1832年、マルハール・ラーオの死後、マールターンド・ラーオが継承しましたが、すぐに廃位され、ハリ・ラーオが藩王となりました。ハリ・ラーオの病弱のため、カンデー・ラーオ2世が養子として迎えられました。1844年、カンデー・ラーオの死後、トゥコージー・ラーオ2世が藩王位を継承しました。1857年のインド大反乱では、インドール藩王国軍が反乱軍に味方するなど危機が発生しましたが、何とか乗り切りました。

1947年、インド・パキスタン分離独立により、ホールカル家はインドに帰属しました。

脚注

参考文献

ビパン・チャンドラ著、栗原利江訳『近代インドの歴史』山川出版社、2001年。
小谷汪之『世界歴史大系南アジア史2―中世・近世―』山川出版社、2007年。
ブライアン・ガードナー著、浜本正夫訳『イギリス東インド会社』リブロポート、1989年。

関連項目

マラーター王国
マラーター同盟

外部リンク

Holkars of Indore
* WorldStatesmen- India

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