ボリス・コジェヴニコフ

ボリス・ティホノヴィチ・コジェヴニコフ

ソビエト連邦が生んだ音楽家、ボリス・ティホノヴィチ・コジェヴニコフ（Борис Тихонович Кожевников）は、1906年12月13日に生まれ、1985年4月8日にその生涯を終えました。彼は作曲家として、そして指揮者として活躍しました。その名前はロシア語の発音に近い「カジェーヴニカフ」とは異なり、日本ではラテン文字表記からの推測により、「ボリス・コゼフニコフ」と誤って読まれるケースもしばしば見られます。

経歴

コジェヴニコフの音楽への道は、彼の故郷であるノヴゴロドから始まりました。彼は音楽の専門的な学びを深めるため、ハルキウにある音楽演劇大学に進学し、そこで作曲と指揮の技術を習得しました。1933年に同大学を卒業した後、さらに研鑽を積むべくモスクワの軍楽学校へと進みました。音楽家としての活動と並行して、教育者としてのキャリアも築いており、1940年からは名門モスクワ音楽院の教壇に立ち、後進の指導にあたりました。また、劇場での指揮者としても活動し、舞台音楽の世界でもその才能を発揮しました。

作品

コジェヴニコフは多岐にわたるジャンルの音楽を手がけましたが、中でも特筆すべきはその膨大な吹奏楽曲の数です。管弦楽作品や歌曲なども作曲していますが、吹奏楽のためには70曲を超える作品を創作しました。これには5曲の交響曲をはじめ、祝祭的な序曲や雄壮な行進曲、情景を描写する交響詩、民族的な色彩を持つ狂詩曲、そして様々な楽章からなる組曲など、多種多様な形式の作品が含まれています。彼の吹奏楽曲は、その豊かな音楽性と技術的な要求から、当時のソビエト連邦国内では広く演奏されていたと考えられます。

しかし、これらの吹奏楽曲は、旧ソ連の音楽事情や楽譜の流通経路の限定性、そして使用される楽器編成の違いといった要因から、旧ソビエト連邦の国外ではほとんど演奏される機会がありませんでした。多くの優れた作品が、限られた地域でのみ知られる存在となっていたのです。

例外的に国際的な広がりを見せた作品もあります。彼の吹奏楽交響曲第3番「スラヴャンスカヤ（スラヴ風）」は、アメリカ海兵隊軍楽隊の指揮者であったジョン・ブージョアによって、より国際的に一般的な編成であるアメリカ式編成用に編曲された楽譜が出版されました。この編曲版が登場したことにより、交響曲第3番は旧ソ連国外でも演奏される機会が増え、日本を含む世界の各地で実際に演奏されたり、録音されたりしています。これは、コジェヴニコフの吹奏楽曲が持つ魅力の一端が、国境を越えて共有された貴重な例と言えるでしょう。

主要作品

コジェヴニコフの代表的な作品には、以下のようなものが挙げられます。

管弦楽曲

ウクライナの主題による舞踏組曲
シンフォニエッタ
喜びの序曲
トランペット協奏曲

吹奏楽曲

交響曲第1番
交響曲第2番「勝利」
交響曲第3番「スラヴャンスカヤ」
交響曲第4番
交響曲第5番「バム鉄道建設労働者たちに捧ぐ」
祝典序曲
ロシア幻想曲
愛国的序曲

ボリス・コジェヴニコフは、特に吹奏楽の分野で多くの作品を創作し、ソビエト連邦の音楽文化に貢献しました。その作品の多くは未だ世界的に広く知られてはいませんが、一部の作品は編曲を通して新たな聴衆を得るなど、彼の音楽は現代にも受け継がれています。

もう一度検索