ボリス・コフノ

ボリース・エヴゲーニェーヴィチ・コフノ（Boris Kochno, 1904年1月3日 - 1990年12月8日）は、ロシア出身の多才な芸術家であり、台本作家、詩人としてその名を馳せました。モスクワで生まれ、その生涯を通じてバレエ界に多大な影響を与えた人物です。彼の名は、フランス語風に「コシュノ」、英語風に「コクノ」とも呼ばれることがあります。

コフノの初期の人生において特筆すべきは、1919年にエリザヴェトグラード（現在のキロヴォグラード）で過ごした少年時代です。当時、彼は著名な作曲家カロル・シマノフスキと親密な関係にあり、シマノフスキの未完の小説『エフェボス』の一章である「饗宴」のロシア語版を贈られています。この事実は、コフノとシマノフスキの間に特別な絆があったことを示唆しており、シマノフスキはコフノに4つの相聞歌を捧げました。

1920年、コフノはセルゲイ・ディアギレフの秘書として活動を開始し、やがてディアギレフの最も重要な協力者の一人となりました。ディアギレフが亡くなる1929年まで、コフノは彼の生涯最後の伴侶でもありました。コフノが手がけたオペラやバレエの台本には、イーゴリ・ストラヴィンスキー作曲の《マヴラ》（1921年）、ジョルジュ・オーリック作曲の《困った奴ら（Les Fâcheux）》（1924年）、アンリ・ソーゲ作曲の《牝猫（La Chatte）》（1927年）、セルゲイ・プロコフィエフ作曲の《放蕩息子》（1929年）などがあります。また、1925年には作曲家コール・ポーターとの間に深い交流があり、長期間にわたって文通を続けていました。

ディアギレフの死後、コフノはセルゲイ・リファールと共にロシア・バレエ団の共同運営を試みましたが、この試みは成功しませんでした。彼らはディアギレフの蔵書やコレクションを相続し、コフノが受け継いだ資料の一部は、後にフランス国立図書館に購入されました。ディアギレフの遺業を永続させるため、コフノはヴァシーリー・ヴォスクレセンスキーとルネ・ブリュムを監督に迎え、モンテカルロ・ロシア・バレエ団を結成しますが、監督間の不和によりわずか3年で解散。その後、二つの競合するバレエ団が誕生することになりました。1933年にはジョージ・バランシンと協力して短命に終わった「バレエ団1933（Les Ballets 1933）」を設立し、シャンゼリゼ劇場でデビューを飾りました。

また同年、コフノはエドワード・ジェームズと共に、ベルトルト・ブレヒトとクルト・ヴァイルに新作を依頼し、彼らの最後の共同作品となった《7つの大罪》が誕生しました。この作品の舞台制作、演出、振り付けはバランシンが担当しました。

第二次世界大戦後、コフノはローラン・プティと協力し、シャンゼリゼ・バレエ団（バレエ・デ・シャンゼリゼ）を共同で設立しました。1951年まで二人で監督を務め、1945年5月2日にはコフノの舞台演出による《カルタ遊び》を上演し、大成功を収めました。

コフノは、数多くの著作も残しており、特にディアギレフに関する著書『ディアギレフとロシア・バレエ団』や、かつての親友であり協力者であったクリスチャン・ベラールについての回想録『クリスチャン・ベラール』は、バレエ史における重要な資料として知られています。彼の著作は、ディアギレフ率いるバレエ・リュスの活動を深く理解する上で不可欠であり、その証言はバレエ史研究において非常に貴重なものです。コフノの生涯は、バレエ芸術の発展に大きく貢献し、その影響は今日まで続いています。

もう一度検索