ボードゥアン4世 (エルサレム王)

ボードゥアン4世：癩病を抱えたエルサレムの勇王

ボードゥアン4世（Baudouin IV, 1161年 - 1185年3月16日）は、エルサレム王国の王として1174年から1185年まで在位しました。アモーリー1世の息子であり、「癩王」としても知られています。その短い生涯は、病魔との闘い、そしてイスラム勢力との激しい戦いに彩られています。

幼少期と病の発覚

幼い頃、ボードゥアンは父王の宮廷で育てられ、母アニェスとは離れて生活しました。9歳になると、古典学者であり、歴史家でもあるギヨーム・ド・ティールから教育を受けました。ギヨームによれば、ボードゥアンは非常に才能豊かで、美しく、朗らかで活発な少年でした。馬術にも長け、頭の回転も速く、記憶力も抜群でした。受けた恩は決して忘れず、侮辱は忘れないという一面も持っていました。特にラテン文学と歴史に強い興味を示しました。

ある日、ボードゥアンが他の貴族の子どもたちと遊んでいた際、彼だけが手の引っ掻き傷に痛みを感じていないことにギヨームが気づきました。これがきっかけとなり、ボードゥアンが皮膚病（ハンセン病）に罹患していることが判明します。治療法は見つからず、病は次第に進行していきます。

サラディンとの戦い

13歳で王位に就いたボードゥアンは、当初、摂政の助けを借りて国を治めました。当時、イスラム世界ではサラディンが勢力を拡大しており、エルサレム王国は危機に瀕していました。ボードゥアンは自ら軍を率いて、サラディンに対抗します。

1177年、アスカロン要塞を急襲したサラディン軍に対し、ボードゥアンは僅かな手勢を率いて立ち向かいました。この「モンジザールの戦い」で、ボードゥアンは自ら「真の十字架」を掲げ、兵士たちを鼓舞します。病身を押して戦う彼の姿に兵士たちは奮い立ち、サラディン軍を打ち破ることに成功しました。この勝利は、病に苦しみながらも戦い続けるボードゥアンの勇気を象徴する出来事として語り継がれています。

その後も、ボードゥアンはサラディンとの戦いを続けました。1179年には、マルジュ・アユーンの戦いで敗北を喫し、ヤコブの浅瀬の戦いでは城の建設を断念せざるを得なくなりました。しかし、彼は要塞を築き、サラディン軍と死闘を繰り広げます。1180年には、サラディンとの間で講和条約を結ぶことにも成功しました。

しかし、エルサレム王国の封臣であるルノー・ド・シャティヨンの休戦破棄行為により、サラディンは再びエルサレム王国に侵攻。ボードゥアンは激怒しますが、1182年6月に救援要請を受け、モアブからガリラヤを転戦。サラディンの大軍を追い返すことに成功します。さらに、ベイルート防衛も成功させました。ボードゥアンはイスラム圏でも、サラディンに対抗するため、アレッポ総督とモスル総督の独立を支援します。1183年には、ルノーが私掠船でヒジャーズ地方を荒らしたため、サラディンの反撃を招きます。全身不随となり、盲目となりながらも、ボードゥアンは担架に乗ってルノーの要塞ケラク城に向かい、サラディン軍と戦いました（ケラク包囲戦）。サラディンが撤退した後も、彼は守備隊を増強し、城壁を立て直すまでエルサレムに戻ることはありませんでした。

王位継承問題と最期

病状の悪化により、結婚の望みが絶たれたボードゥアンは、王位継承問題に決着をつける必要に迫られました。彼は姉シビルにグリエルモ・ディ・モンフェッラートを娶せ、二人の間に後のボードゥアン5世が生まれましたが、グリエルモは数ヶ月後に死去。シビルはギー・ド・リュジニャンと再婚しますが、ギーには王国の重責を担う能力はありませんでした。ボードゥアンは1183年にギーに摂政権を委任しますが、彼の無能ぶりからすぐに摂政権を剥奪、幼いボードゥアン5世を即位させます。

1185年、ギーはアスカロンの領地で、エルサレム王に帰服したベドウィン族を虐殺。これに激怒したボードゥアンは、ギーの敵であるトリポリ伯レーモンに王国の全権を委譲します。死期を悟ったボードゥアンは、エルサレムの貴族たちに集まるよう命じ、自らの死に立ち会わせました。24歳という若さで、ボードゥアンは波乱に満ちた生涯を終えました。

評価と遺産

アラビアの歴史家エル＝イマードは、「この癩病持ちの子は、その権威を敬わせることができた」と述べています。十字軍の歴史家ルネ・グルッセは、ボードゥアンの苦痛と克己に満ちた姿を、「十字軍の全史を通じても、おそらくは最も高貴な姿であろう」と賞賛しました。

ボードゥアン4世は、病魔に侵されながらも、その勇気と決断力でエルサレム王国を支え続けた不屈の王でした。彼の生涯は、困難に立ち向かう人間の強さを物語るものとして、今も語り継がれています。

参考資料・文献

Bernard Hamilton, "Women in the Crusader States: The Queens of Jerusalem", In Derek Baker. Medieval Women. Ecclesiatical History Society, 1978年
Bernard Hamilton, The Leper King and his Heirs: Baldwin IV and the Crusader Kingdom of Jerusalem. Cambridge University Press, 2000年
René Grousset, L'Empire du Levant, Histoire de la question d'Orient. 1949年, ISBN 2-228-12530-X
ルネ・グルッセ 『十字軍』 白水社文庫クセジュ、1954年

関連項目

* キングダム・オブ・ヘブン - 本作中では全身を服や布で覆い、顔に仮面をつけている。

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