ポリ塩化ビニリデン

ポリ塩化ビニリデン（PVDC）のすべて

ポリ塩化ビニリデン（PVDC）は、塩化ビニリデンモノマーを重合させた非晶性の熱可塑性樹脂です。無色透明で、優れた熱安定性、耐薬品性、耐水性を持ち、適度な弾性も兼ね備えています。特に注目すべきは、防湿性とガスバリア性の高さで、他のプラスチックフィルムにはない特徴です。また、自己粘着性も持ち合わせています。

PVDCの製造

PVDCは、1,1-ジクロロエチレン（塩化ビニリデンモノマー）の重合によって得られます。工業的には、まずエチレンと塩素または塩化水素を反応させて1,2-ジクロロエタンを製造します。その後、水酸化カルシウムまたは水酸化ナトリウムを用いた脱塩酸反応により塩化ビニリデンモノマーを得て、精製後、乳化剤を加えながら重合させます。この工程で石灰乳法や苛性ソーダ法が用いられます。

PVDCの特徴と用途

PVDCは単体ではほとんど使用されず、通常は塩化ビニル（PVC）やアクリロニトリルなどの他の樹脂との共重合体として利用されます。

PVDCの主な特徴は以下の通りです。

優れた耐水性・防湿性・ガスバリア性: 食品包装などに最適です。
熱安定性: 成型時の変色などが起こりにくいです。ただし、125℃を超えると分解し、塩化水素が発生します。
耐薬品性: 多くの化学薬品に対して高い耐性を示します。ただし、高温のジメチルホルムアミドやジエチルホルムアミドには溶解します。
適度な弾性: 柔軟性があり、扱いやすいです。
難燃性: 火災リスクを低減できます。
自己粘着性: 特殊な加工なしで粘着性を有します。

これらの特性を活かし、PVDCは様々な用途で使用されています。

包装用フィルム: 家庭用ラップや食品包装、工業製品の梱包など、最も一般的な用途です。PVCとの共重合体が主に使用されます。
繊維: カーテンなどの難燃性が求められる用途に使用されます。
コーティング剤: 他のフィルムや金属、紙などに防湿性などを付与するコーティング材料として、アクリロニトリル共重合体が使用されます。
ラテックス添加剤: ラテックスに混ぜ込み、防水・防湿性を付与します。

PVDCの歴史

PVDCの重合体は1872年に発見されましたが、加工が困難だったため、実用化には至りませんでした。1933年、ダウケミカルの研究者によって、実用的なPVDCの製造方法が開発され、「サラン」という商品名で販売されるようになりました。当初は軍事用途に使用されていましたが、その後、食品包装フィルムとして広く普及しました。

PVDCの環境問題

PVDCは塩素原子を含むため、焼却時にダイオキシンが発生する可能性があり、環境問題が懸念されています。また、塩化水素の発生も問題となります。近年では、環境負荷の少ないポリエチレンやポリメチルペンテンなどの代替材料も開発され、使用されています。日本の食品包装では依然としてPVDCの使用比率が高く、環境への配慮が求められています。

改質とコンパウンド

PVDCの特性をさらに向上させるため、抗酸化剤や紫外線吸収剤などの添加剤が用いられます。これにより、耐熱性や耐光性を高めることができます。

まとめ

PVDCは、優れた特性を持つ汎用性の高い樹脂ですが、環境問題への配慮も重要です。今後も、環境に配慮した材料開発やリサイクル技術の進歩が期待されます。

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