ポローニア (エルガー)

ポローニア 作品76

エドワード・エルガーによる管弦楽曲『ポローニア』作品76は、1915年に「交響的前奏曲」として作曲されました。第一次世界大戦のさなか、困難に直面していたポーランド国民へ捧げられた、共感と連帯を示す音楽作品です。

作曲の背景

この作品が生まれるきっかけは、1915年4月13日にポーランド出身の著名な指揮者であるエミル・ムイナルスキからエルガーへ寄せられた依頼でした。エルガーは直前に、戦争で苦しむベルギーへの思いを込めた『カリヨン』作品75を作曲しており、ムイナルスキはこれを知って、今度はポーランドの音楽を基にした作品を書いてほしいと願ったのです。当時のポーランドはロシアとドイツという二大国の間で激しい戦場となっており、多くの人々が祖国を追われていました。こうした状況下で、ポーランドの文化や精神を示す音楽作品を創作することは、国内外への重要なメッセージとなり得ました。

エルガーはムイナルスキの依頼に応え、作曲に取り組みます。作品の大部分はエルガー自身の創作によるものですが、ポーランドの民族的・愛国的な音楽からの引用が随所に織り込まれています。具体的には、『ワルシャワ労働歌』をはじめとするポーランドの愛国歌、ポーランド国歌『ポーランドは未だ滅びず』、そしてポーランドを代表する作曲家フレデリック・ショパンとイグナツィ・パデレフスキの楽曲の主題が用いられています。

初演と献呈

『ポローニア』は、作曲後間もない1915年7月6日、ロンドンのクイーンズ・ホールにて初演されました。この演奏会は、ピアニストであり後にポーランドの首相も務めたパデレフスキと、ノーベル文学賞作家であるヘンリク・シェンキェヴィチによって組織された「ポーランドの犠牲者慰安基金」のための慈善公演でした。この基金は、戦禍を逃れて避難生活を送るポーランド難民を世界中で支援することを目的としており、エルガーの作品はまさにその精神を体現するものでした。初演は作曲者エルガー自身の指揮で行われ、この日のプログラムは紅白のリボンで飾られ、パデレフスキからのメッセージも添えられるという、非常に凝ったものでした。なお、同じ演奏会で演奏された他の楽曲は、トーマス・ビーチャムが指揮しています。

作品は、その慈善活動の中心人物でもあったパデレフスキに献呈されました。パデレフスキ自身もまた、1908年に作曲した自身の交響曲に「ポローニア」という副題を与えており、エルガーのこの作品に対する特別な敬意がうかがえます。エルガーは1915年8月、パデレフスキのピアノと管弦楽のための『ポーランド幻想曲』作品19から主題を引用したことについて、パデレフスキに出版許可を求める書簡を送っています。パデレフスキはこの作品を高く評価し、心からの賛辞を送っています。

楽曲の構成

この作品は、エルガーがポーランド国民を讃えるモチーフとして創り出した自作の主題と、ポーランドの音楽からの引用主題が見事に組み合わされています。曲は華やかな序奏で幕を開け、静まったところでファゴットによってポーランドの愛国歌『ワルシャワ労働歌』の旋律が提示されます。続いて、エルガー自作の「ノビルメンテ」（堂々と、高貴に）と記された主題が現れ、力強く歌われます。その後、厳粛な『Chorał』、あるいは『Z dymem pożarów』として知られる別の愛国歌の主題が、チェロ（コーラングレとハープ伴奏）や木管楽器によって歌われ、トゥッティでクライマックスを形成します。

再び『ワルシャワ労働歌』が展開され、エルガーの自作主題が回帰した後、トライアングルの軽快な響きと共に、献呈相手であるパデレフスキの『ポーランド幻想曲』からの主題が登場します。パデレフスキの主題が聞こえる背後で、ヴァイオリン独奏によってショパンの夜想曲第11番ト短調 作品37-1の憂鬱な旋律が引用され、そこに『ワルシャワ労働歌』が静かに割り込んできます。さらなる展開部を経て『Chorał』が再現され、曲の終わりが近いかと思わせますが、そのまま終止することはありません。静かに収束した後、力強いポーランド国歌『ポーランドは未だ滅びず』の旋律が堂々と現れます。この国歌の主題に導かれるように、作品は壮麗なオーケストレーションによって感動的な結末へと向かいます。最後の数小節では、オーケストラにオルガンも加わり、響きに厚みを加えて閉じられます。

編成

この作品は、比較的大きな編成のオーケストラのために書かれています。使用される楽器は以下の通りです。

フルート2（うち1人はピッコロ持ち替え）、オーボエ2、イングリッシュホルン、クラリネット2、バスクラリネット、ファゴット2、コントラファゴット、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、チューバ、打楽器（奏者6人）、ハープ2台、オルガン、弦五部。

『ポローニア』は、第一次世界大戦下のポーランド国民に対するエルガーの深い共感と、祖国の文化を守ろうとする彼らの精神への敬意が込められた、感動的な作品と言えるでしょう。

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