ポーランド・ソビエト・リガ平和条約

リガ平和条約：ポーランドとソビエト間の紛争終結と新たな対立の始まり

1921年3月18日、ポーランドとソビエト・ロシア（およびウクライナ・ソビエト社会主義共和国）の間で、リガ平和条約が締結されました。この条約は、両国間のポーランド・ソビエト戦争を終結させるものでしたが、同時に、その後の両国関係、そして東ヨーロッパの歴史に大きな影響を与えることとなりました。

背景：戦争と革命の余波

ポーランド・ソビエト戦争は、第一次世界大戦後の混乱期に、ロシア内戦と並行して勃発しました。ポーランドは、歴史的にロシアと対立しており、ポーランド・リトアニア共和国時代の領土回復を目指していました。一方、ソビエトは、共産主義革命を西ヨーロッパに拡大しようとしており、ポーランドをその橋頭堡と見なしていました。もし、ソビエトがポーランドを占領した場合、ドイツの共産主義者と連携し、ドイツでの共産主義革命を成功させる足がかりになると考えていました。

歴史家のJ.F.C.フラーは、ワルシャワの戦いを重要な戦いの一つとしています。ポーランドがこの戦いで勝利したことで、ソビエトは平和条約締結を求める交渉を始めたのです。

交渉の経緯と条約の内容

条約交渉は1920年8月にミンスクで始まりましたが、ポーランド軍の反撃により、リガに移され再開されました。ソビエト側は複数回の提案を行いましたが、ポーランド側も修正案を提示し、最終的に10月12日に停戦が調印、18日に発効しました。この交渉において、ポーランドの代表はヤン・ドンプスキ、ソビエトの代表はアドリフ・ヨッフェが務めました。

しかし、この条約は当初から多くの議論を呼びました。ポーランドの多くの人々は、ポーランド・ボリシェヴィキ戦争で獲得した領土が、この条約によって失われたと感じていました。彼らは、ポーランドの独立を真に保障するためのものが欠けていると主張しました。特に、ユゼフ・ピウスツキは、この条約を「卑怯な行動」と批判しました。彼は交渉にオブザーバーとして参加しましたが、国家元首としての権限は持ちませんでした。彼は、ソビエトが軍事的敗北により、ポーランドに領土の譲歩を提案したものの、ポーランド側は勝利を逃したかのように交渉を進めていたと感じていました。

ポーランド議会（セイム）は、ミンスクをポーランド側に残すというソビエトの大幅な譲歩を受け入れるか否かで投票を行いました。国家主義者のスタニスワフ・グラプスキは、さらに100kmの領土獲得を主張しましたが、結局これは否決されました。これは、民族構成を重視する国家主義的な戦略の勝利であり、ピウスツキが提唱した連邦制構想の破綻を意味しました。一方で、大衆は戦争終結を望んでおり、両陣営は国際連盟からの圧力も受けていました。ソビエトは国内の不安定な状況（クロンシュタットの水兵の反乱や農民の蜂起）に直面しており、レーニンは平和条約の締結を急ぎました。

最終的に、ポーランドとソビエトは、ベラルーシとウクライナで紛争中だった領土を分割することで合意しました。

条約の影：民族問題と裏切り

リガ平和条約は、ポーランドとウクライナの同盟関係にも大きな亀裂を生じさせました。シモン・ペトリューラ率いるウクライナはポーランドと協力して戦っていましたが、条約によってポーランドは彼らを「裏切った」形となり、両陣営の不信感を高めました。ピウスツキは、この条約を恥知らずなものと感じ、近視的な政治的計算によるものだと批判しました。彼は、「皆さん、私はあなたたちに詫びないといけない」と、ウクライナの人々に語ったと伝えられています。この条約は、それぞれが単独で和平を結ぶことを禁止する、ポーランドとウクライナの同盟に反するものでした。

この裏切り行為は、ポーランドとウクライナの少数民族との関係を悪化させました。彼らは、ポーランドがソビエトのプロパガンダに利用され、1930年代から40年代にかけてヴォルィーニで起きたウクライナ人虐殺の遠因にもなったと感じました。1921年末までに、ウクライナ人やベラルーシ人、ロシア白軍の兵士たちはポーランド国境を越えて降伏するか、ソビエト軍によって殲滅させられました。

ユゼフ・ピウスツキが夢見た東ヨーロッパの独立国家によるミェンズィモジェ構想は、この条約によって挫折しました。ポーランドは、ウクライナとの同盟における責任を果たせず、リトアニアとの関係も、首都と主張するヴィリニュスのポーランド併合によって悪化しました。

条約の遺産：国境と民族問題

リガ平和条約は、ポーランドの東部国境を安定させましたが、同時に、ポーランド・リトアニア連合がロシアによって奪われた領土の多くを回復させるものでもありました。しかし、その地域には、ポーランド人の少数民族（約100万人）だけでなく、ウクライナ人、ベラルーシ人、リトアニア人、ユダヤ人などの少数民族（約600万人）も居住していました。ソビエトはこの地域に住むポーランド人に対して報復を行い、財産没収、宗教的迫害、そして1930年代にはカザフスタンへの強制移住を行いました。ポーランド側では、これらの少数民族は、共産主義の独裁から解放され、1938年まで自由な生活を送ることができましたが、差別や1929年からの世界恐慌の影響は避けられませんでした。

ポーランドは、ポーランド分割期間における帝政ロシアへの経済投資に対する賠償金として3000万ルーブルを受け取り、ロシアは1772年に略奪したザウスキ図書館の絵画などのポーランドの国有財産を返還しました。

レーニンは、この平和条約を一時的な妥協と考え、革命の西への拡大という目標を一時的にあきらめました。

リガ平和条約は、ポーランドとソビエトの関係において、一時的な平和をもたらしたものの、多くの問題と今後の紛争の種を蒔く結果となりました。この条約は、東ヨーロッパの地政学的な状況を大きく変えるとともに、その後の歴史に大きな影響を与えることになりました。

もう一度検索