マイク・ポーカロ

マイク・ポーカロ（Michael Joseph Porcaro、1955年 5月29日 - 2015年 3月15日）は、アメリカ合衆国出身の優れたベーシストであり、多忙なセッションミュージシャンとして知られる傍ら、ロックバンドTOTOの正式メンバーとして世界中の音楽ファンにその名を刻みました。音楽一家に育ち、兄弟と共に音楽の道を歩み、その堅実かつ表現力豊かなベースプレイは、多くのアーティストから厚い信頼を得ていました。晩年は難病との闘いとなり、惜しまれながらも59歳でその生涯を閉じました。彼の音楽遺産は、今もなお多くの人々に影響を与え続けています。

音楽への道とキャリアの始まり

マイク・ポーカロは、著名なジャズ・パーカッショニスト兼ドラマーであったジョー・ポーカロ氏を父に持ち、音楽があふれる環境で育ちました。3人兄弟の次男であり、兄のジェフ・ポーカロはTOTOのドラマーとして、弟のスティーヴ・ポーカロはTOTOのキーボード奏者として活躍した、まさに音楽界のサラブレッドでした。

高校時代には、すでに才能あふれる兄弟や、後にTOTOを結成するデヴィッド・ペイチ、スティーヴ・ルカサーらと共にバンド活動を開始。この頃から培われた技術と経験は、彼のその後のキャリアの礎となります。卒業後、彼は主に他のアーティストやバンドのレコーディング、ライブをサポートするセッションミュージシャンとして活動を始めました。その類まれな演奏力は瞬く間に評判を呼び、ジョー・ウォルシュやボズ・スキャッグスといった大物アーティストとの共演は、彼のセッションベーシストとしての地位を確固たるものにしました。

TOTOでの活動

兄ジェフと弟スティーヴが結成メンバーとして名を連ねたバンドTOTOは、1978年のメジャーデビュー以来、快進撃を続けていました。マイク自身はTOTOのデビュー当初の活動には参加していませんでしたが、1982年、彼にとって大きな転機が訪れます。アルバム『TOTO IV（聖なる剣）』のリリース直後に、当時のベーシストだったデヴィッド・ハンゲイトが脱退。その後任として、マイクが正式メンバーとしてTOTOに迎え入れられたのです。奇妙なことに、『TOTO IV』に収録された楽曲のプロモーションビデオは、ハンゲイト脱退後に撮影されたため、映像に登場するベーシストはマイクですが、実際に演奏されている音源はハンゲイトによるものです。

TOTO加入後、マイクはバンドのアンサンブルに不可欠な存在となります。その安定したグルーヴと確かなテクニックは、TOTOの洗練されたサウンドを支えました。バンド活動と並行して、彼は他のプロジェクトにも参加し、例えば1990年には日本のロックバンドEARTHSHAKERのアルバム『PRETTY GOOD!』でプロデューサーを務めるなど、多方面での才能を発揮しました。

プレイスタイルと使用楽器

マイク・ポーカロのベーシストとしての特徴は、何よりもその堅実なビートメイキングにありました。派手さよりもアンサンブル全体の土台を支えることに徹した彼のプレイは、共演した数多くのアーティストから絶大な信頼を集めました。日本においても、TUBEの前田亘輝氏や渡辺美里氏といったアーティストのレコーディングに参加しており、その影響力の広さが伺えます。

演奏する際には、ベース本体を比較的高い位置に構える独特のスタイルがトレードマークの一つでした。奏法としては、指で弦を弾くフィンガーピッキングを主としていましたが、楽曲によってはピックを使用したり、スラップ奏法を取り入れたりと、状況に応じて多彩なテクニックを使い分けていました。

使用する楽器についても、彼は先駆者的な一面を持っていました。世界的に見ても、5弦ベースを比較的早い時期から積極的に導入したプレイヤーの一人として知られ、特に1986年頃には、まだ一般的ではなかったLow-B弦を効果的に使用するなど、新しいサウンドへの探求心を持っていました。キャリア初期にはIbanezのMCシリーズのような4弦ベースを使用していましたが、1990年代以降はクレイマー、F-Bass、Peaveyといったメーカーの5弦ベースを主に使用するようになります。中でも、1999年にエンドース契約を結んだPeaveyのCirrus（シーラス）5弦モデルは、彼のメインベースとして多くのステージで活躍しました。しかし、レコーディングや小規模なライブでは、F-Bassをはじめとする様々なベースを使い分けていたと言われています。

主な使用ベース：
1984年以前：Ibanez MC-924 (4弦)
1986年：Status シリーズ2ヘッドレス (4弦)
1988年：Kramer シグネイチャー (5弦)
1990年：Alembic ヨーロッパ (5弦、シグネイチャー)、Tobias クラシック (5弦)
1992年：F-Bass スタジオ (5弦)
1995年：Status シリーズ2ヘッデッド (5弦)、Music Man スティングレイ (5弦)、T-Bass/トレースエリオットベース (5弦、TV番組で使用)、Tung (6弦、一部レコーディング)
1999年以降：Peavey Cirrus (5弦、シグネイチャー)、およびF-Bassなど

アンプについても、時期によりトレースエリオットやSWRといったブランドの製品を愛用していました。

病との闘い、そして別れ

順調にキャリアを重ねていたマイクでしたが、2007年に筋萎縮性側索硬化症（ALS）という進行性の難病を発症してしまいます。これにより、彼は音楽活動の継続が困難となり、療養生活に入らざるを得なくなりました。TOTOのコンサートツアーにはリーランド・スカラーが代役として参加しましたが、マイクがステージに戻ることは叶わず、翌2008年にはTOTOが一度解散することとなります。

しかし、彼の才能と人柄を慕う仲間たちは、彼を忘れませんでした。2010年には、マイクの医療費を支援するため、デヴィッド・ペイチ、スティーヴ・ルカサー、そして弟のスティーヴ・ポーカロらが中心となり、TOTOを期間限定で再結成し、チャリティーコンサートツアーを開催しました。このツアーでは、ベースの代役をフォープレイのネイザン・イーストが務めましたが、TOTOの公式サイトでは、療養中のマイクは常に正規メンバーとして扱われ続けており、バンドメンバーとの強い絆が伺えました。

病状は進行し、懸命な闘病生活が続きましたが、2015年 3月15日午前0時14分、彼は自宅で家族に見守られながら静かに息を引き取りました。享年59歳でした。彼の訃報は、弟のスティーヴによってフェイスブックで公表され、世界中の音楽ファンやミュージシャンに深い悲しみをもたらしました。

マイク・ポーカロは、TOTOのメンバーとして、そしてセッションミュージシャンとして、数多くの名演を残しました。彼の温厚な人柄と、音楽に対する真摯な姿勢は、共に仕事をした全ての人々から尊敬されていました。彼のベースラインは、今もなお多くの楽曲の中で力強く響き渡り、彼が音楽界に残した功績は決して色褪せることはありません。

もう一度検索