マグネトー

マグネトー：永久[[磁石]]の力による点火と発電

マグネトーは、永久[[磁石]]を用いて高電圧の交流電気を発生させる装置です。内燃機関の点火装置や、自転車や自動車の照明など、様々な用途で利用されてきました。磁石を意味するmagnetとは異なることに注意が必要です。

マグネトーの歴史

マグネトーの高圧磁石発電機としての最初の考案はAndre Boudevilleによるものですが、実用性に欠けていました。その後、フレデリック・リチャード・シムスとロバート・ボッシュの共同開発によって実用的なマグネトーが誕生します。

1899年にはゴットリープ・ダイムラーが開発した「ダイムラー・フェニックス」で火花点火機関の点火装置として初めて採用され、その後、黎明期の自動車メーカー各社がマグネトー式点火装置を採用していきました。1902年のボッシュによるダブルコイル式マグネトーの開発、1903年の実用的な点火プラグの登場を経て、マグネトー式点火装置は完成の域に達します。

鉛蓄電池と点火コイルを用いた低圧バッテリー式点火装置が登場した1918年以降も、小型内燃機関の点火装置として広く使用され続けました。また、医療分野でも精神医学などで使用された歴史があります。フランスの医師Duchenneは1850年に磁石を用いた発電機を発明し、医療に応用していました。

エンジンの点火装置としてのマグネトー

マグネトーを用いた点火装置は、バッテリーが不要なため機器の軽量化に貢献します。草刈機やチェーンソーなどの可搬式作業機械や、オフロードレース用オートバイなどで広く利用されています。

マグネトーには「シャトル式」（コイル回転、磁石固定）と「インダクタ式」（磁石回転、コイル固定）の2種類があり、用途に応じて使い分けられています。マグネトーで発電された電力は点火コイルに送られ、点火用電気として使用されます。エンジンの回転に伴い、カムシャフトがコンタクトブレーカーを断続し、一次コイルの電流を断続することで、ファラデーの電磁誘導の法則により二次コイルに高電圧が誘起されます。コンタクトブレーカーの接点にはアーク放電が発生するため、これを抑制するためにコンデンサが使用されます。

一次コイルと二次コイルの巻数比は電圧増幅率に大きく影響し、巻数比が大きいほど増幅率が高くなります。近年では、電気的ロスが大きいコンタクトブレーカーに代わり、イグナイターを持つフルトランジスタ式ディストリビューターやCDI（キャパシター・ディスチャージド・イグニッション）式点火装置が用いられるようになり、効率と信頼性が向上しました。バッテリー点火方式よりも信頼性が高いため、航空機用エンジンでも広く使用されています。

航空エンジンのツインマグネトー

航空機用レシプロエンジンでは、マグネトーによる点火システムが広く採用されています。これは、マグネトーがバッテリーなどの外部電源を必要とせず、コンパクトで信頼性の高い点火システムを構築できるためです。

多くの航空機用エンジンは2系統のマグネトーと、シリンダー当たり2つの点火プラグを備えています。これは、エンジン性能の向上と故障時の冗長性を確保するためです。2つの点火プラグは燃焼室内に異なる位置に火炎を発生させることで、完全燃焼時間を短縮し、ノッキングを抑制します。特に大排気量シリンダーでは有効です。ツインマグネトーシステムは燃焼効率の改善にも寄与し、オクタン価の低いガソリンの使用も可能にします。太平洋戦争中の戦闘機用エンジンでは、シリンダー1気筒当たりの排気量が大きかったため、このシステムは特に重要でした。

1970年代の排ガス規制対策として、航空エンジンの概念を応用したツインプラグ式エンジンが一部メーカーから発売されましたが、現在では少数派です。

自動車におけるツインプラグ

一部の旧式高級車には、マグネトー式とバッテリー式点火装置を併用するツインプラグシステムが採用されていました。コストを抑えながら信頼性を高める目的でしたが、点火時期の制御技術の未熟さから、点火時期のずれによる不具合が発生しやすかったです。特に高回転時において問題となり、航空機用と異なり、早期に廃れていきました。自動車用ガソリンエンジンではバッテリー点火装置が主体であり、マグネトーは補助的な役割に留まりました。現代のエンジンは燃焼効率が向上し、ツインプラグシステムは不要となっています。

手動式電話機

黎明期の手動式電話機には、マグネトー式発電機が搭載されていました。電気が引かれていない地域で、電話交換手を呼び出すために使用されました。クランクを回して発電し、ベルを鳴らします。通常の通話には亜鉛-炭素電池が使用されました。日本では「磁石式電話機」と呼ばれていました。現在でも軍用有線電話機にはマグネトー式発電機が採用されている場合があります。日本の一般加入回線では2002年まで4号磁石式電話機が貸し出されていましたが、着信専用の共電式電話機として機能していました。

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