マザー・イン・シャドウ

ローリング・ストーンズの代表曲の一つとして知られる「マザー・イン・シャドウ」(Have You Seen Your Mother, Baby, Standing in the Shadow?)は、1966年に発表されたシングルです。作詞作曲は、バンドの中心人物であるミック・ジャガーとキース・リチャーズの両名によるもので、彼らの楽曲の中でも特に長いタイトルを持つことで知られています。

この曲は、当時台頭しつつあったサイケデリック・ムーブメントの影響を色濃く反映した作品と言えるでしょう。混沌としたアレンジ、意図的に曖昧さを残したミックス、そして聴き手に強烈な印象を与えるラウドなブラスセクションが特徴的です。ブラスセクションのアレンジは、当時ストーンズのレコーディングに携わっていた名プロデューサー、ジャック・ニッチェによるものです。さらに、楽曲全体にピアノの音色も散りばめられ、多様な音の層が重なり合うことで、独特のサイケデリックな雰囲気を作り上げています。

このような混沌としたサウンドは、キース・リチャーズの強い意向によるものとされています。彼は、それまでのストーンズの音楽性とは異なる、実験的な楽曲に挑戦したいと考えていたようです。一方、ミック・ジャガーは、この曲を「究極の幻覚症状」と表現するなど、キースとは異なる見解を示しています。さらに、キース自身も完成版のミックスには満足していなかったという逸話も残っており、制作過程は決して平坦ではなかったことが伺えます。

興味深いことに、「マザー・イン・シャドウ」は当初、オリジナルアルバムには収録されませんでした。英国では1966年秋にリリースされたコンピレーションアルバム『ビッグ・ヒッツ (ハイ・タイド・アンド・グリーン・グラス)』に、米国では翌1967年にリリースされた『フラワーズ』に初めて収録されました。さらに、米国ではそれよりも前に、1966年10月7日にブリストルにあるコルストンホールで行われたライブバージョンが、『ガット・ライヴ・イフ・ユー・ウォント・イット!』に収録されています。このライブバージョンには、後からオーバーダビングが施されている点が特筆されます。しかし、その後この曲はライブで演奏される機会は少ないようです。

アメリカ盤シングルのジャケットは、女装した5人のストーンズメンバーが写った写真が使われています。この写真は、後に著名な映画監督となるジェリー・シャッツバーグが撮影したものです。また、ピーター・ホワイトヘッド監督によるプロモーションフィルムも制作され、楽曲の世界観を視覚的に表現した作品となっています。

その後もこの曲は様々なコンピレーションアルバムに収録されており、その人気と影響力の大きさを伺わせます。代表的なアルバムとしては、『スルー・ザ・パスト・ダークリー (ビッグ・ヒッツ Vol.2)』、『モア・ホット・ロックス』、『ロールド・ゴールド〜ヴェリー・ベスト・オブ・ザ・ローリング・ストーンズ』、『シングル・コレクション (ザ・ロンドン・イヤーズ)』、『フォーティ・リックス』などが挙げられます。これらのアルバムを通して、「マザー・イン・シャドウ」は、ローリング・ストーンズのキャリアにおける重要な楽曲として、現在も聴き継がれていると言えるでしょう。

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