シュンガ朝

シュンガ朝の興亡

シュンガ朝は、紀元前180年頃から紀元前68年頃まで、古代インドのマガダ国で繁栄した王朝です。マウリヤ朝の将軍であったプシャミトラが、同王朝を滅ぼして自ら王位に就き、シュンガ朝を創始しました。その歴史は、黎明期から衰退、そして滅亡へと至る過程で、様々な出来事が起こりました。

黎明期：マウリヤ朝の終焉とプシャミトラの台頭

マウリヤ朝は、最盛期を築いたアショーカ王の死後、その息子たちによって分裂しました。複数の記録が残るものの、王名や代数が一致しないことから、王朝の分裂が示唆されています。そのような状況の中、マウリヤ朝最後の王ブリハドラタに仕えたプシャミトラ・シュンガは、紀元前180年頃にブリハドラタを暗殺し、自ら王位を奪ってシュンガ朝を創設しました。プシャミトラの出自は明確ではありませんが、一説には卑しい身分から将軍として頭角を現し、軍事力を背景に王位を簒奪したと伝えられています。ただし、インドの文献では「シュンガ」はバラモン姓であるとされており、この伝説には疑問が残ります。

プシャミトラの治世：領土拡大と外敵との戦い

プシャミトラは、パータリプトラを首都とし、ガンジス川流域を中心にマウリヤ朝の旧領土を継承しました。しかし、マウリヤ朝末期の混乱により、かつての領土全てを制圧するには至りませんでした。中央インドではウィダルバ国が新たな敵となり、北西インドにはギリシア人が勢力を拡大していました。特に、ギリシア人の侵入はシュンガ朝にとって大きな脅威であり、パタンジャリの記録によると、ヤヴァナ（インド・グリーク朝）の王がサーケータ市とマディヤミカー市を包囲したとされています。このギリシア人勢力は、バクトリア系の集団であったと考えられており、メナンドロス1世、デメトリオス2世、あるいは別の王である可能性も指摘されています。王子ヴァースミトラの指揮下でシュンガ軍がギリシア人を撃退したという記録も残っており、当時のシュンガ朝はギリシア人の侵入に苦慮していたことが伺えます。

プシャミトラの死と衰退：王位継承と内部の混乱

紀元前144年頃にプシャミトラが死去すると、王子アグニミトラが王位を継承しました。その後、ヴァースジェーシタ、ヴァースミトラと王位が引き継がれる中で、ギリシア人の侵攻も一段落し、アンティアルキダス王との間で使節の交流も行われるようになりました。しかし、以後の王については不明な点が多く、最後の王デーヴァブーティは大臣ヴァースデーヴァによって王位を奪われ、シュンガ朝は終焉を迎えます。伝説によると、デーヴァブーティは放蕩に耽る無能な王であり、ヴァースデーヴァはそれを機に暗殺を実行したとされています。

滅亡とその後のシュンガ王家：カーンヴァ朝の成立

紀元前68年頃、ヴァースデーヴァによってカーンヴァ朝が創設され、シュンガ朝は滅亡しました。ただし、プラーナ文献によれば、カーンヴァ朝の王たちは「シュンガの臣下」とされており、カーンヴァ朝時代にもシュンガ家の地位が何らかの形で残存していた可能性も指摘されています。

シュンガ朝の宗教、国制、文化

宗教：バラモン教の復興と仏教弾圧の伝説

プシャミトラは、仏教を手厚く保護したマウリヤ朝とは異なり、バラモン教の復興に尽力し、仏教教団を弾圧したとされています。仏典には、彼が仏教の中心地であったケイ円寺で仏僧を殺戮したという伝説が残されています。しかし、考古学的発見により、プシャミトラの廷臣に仏教徒が含まれていたことが判明しており、彼の宗教政策は仏典に記述されているほど徹底的なものではなかった可能性も指摘されています。シュンガ朝は、バラモン教的な儀式を好み、社会にバラモン教の復興を促しました。

国制：マウリヤ朝の制度を継承しつつも変革

シュンガ朝の国制は、マウリヤ朝時代の制度を多く継承していたと考えられていますが、詳細については不明な点も多く残っています。高級官吏による「会議」が政策決定に大きな影響力を持っており、地方の王子にも大臣会議（アマーチャパリサド）の補佐が付けられるなど、マウリヤ朝の制度を基盤にした統治が行われました。しかし、地方統治においては、マトゥラーやバルフートで、シュンガ王家の人間が中央政府とは別に「王朝」を開いて統治するなど、マウリヤ朝時代とは異なる変化も見られました。

文化：独自の発展

シュンガ朝時代は、インドの文化においても独自の発展を遂げました。彫刻や建築においても特徴的な様式が見られ、仏教芸術にも影響を与えました。文化面での詳しい記録は多く残っていませんが、宗教的な要素と世俗的な要素が融合した独特の文化が発展したと考えられています。

まとめ

シュンガ朝は、マウリヤ朝の遺産を受け継ぎながら、独自の政治、宗教、文化を築いた王朝でした。約1世紀という短い期間ではありましたが、古代インド史において重要な役割を果たし、その後のインド社会に大きな影響を与えました。プシャミトラによる王朝の創設から、ギリシア人の侵入、そして内部抗争による滅亡まで、その興亡の歴史は、古代インドの複雑な政治情勢を物語っています。

歴代王

中央（パータリプトラ）
プシャミトラ（前185年頃 - 前149年頃）
アグニミトラ（前149年頃 - 前141年頃）
ヴァースジェーシタ（前141年頃 - 前131年頃）
ヴァースミトラ（前131年頃 - 前124年頃）
アンドラカ（前124年頃 - 前122年頃）
プリンダカ（前122年頃 - 前119年頃）
ゴシャ（前119年頃 - 前108年頃）
ヴァジュラミトラ（前108年頃 - 前94年頃）
バーガバードラ（前94年頃 - 前83年頃）
デーヴァブーティ（前83年頃 - 前73年頃あるいは - 前68年頃）

バルフート
ヴィサデーヴァ・ガーギープタ
アーガラージュ・ゴティプタ
ダナプーティ・ヴァーチプタ（紀元前2世紀半ば頃）
ヴァーダパーラ・ダナブーティ

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