マドゥライ・スルターン朝

マドゥライ・スルターン朝

マドゥライ・スルターン朝は、14世紀に南インドのタミル地方に存在したイスラーム王朝です。ペルシア語では「مابار سلطنت」と表記され、英語では「Madurai Sultanate」と呼ばれます。首都はマドゥライに置かれ、短い期間ながらもこの地域の歴史に大きな影響を与えました。

歴史的背景

14世紀初頭、インド亜大陸を支配していたデリー・スルターン朝のトゥグルク朝は、ムハンマド・ビン・トゥグルクの治世下で混乱を極めていました。遷都の失敗や失政が相次ぎ、各地で反乱や独立の動きが活発化しました。このような状況下で、南インドのタミル地方（当時はマーバールと呼ばれていました）でも独立の機運が高まりました。

建国と初期の動向

1334年、トゥグルク朝の地方長官であったジャラールッディーン・アフサン・ハーンは、ムハンマド・ビン・トゥグルクがデリーに引き上げた混乱に乗じて独立を宣言し、マドゥライ・スルターン朝を建国しました。トゥグルク朝は軍を派遣して鎮圧を試みましたが、遠征中に伝染病が蔓延し、鎮圧は失敗に終わりました。これにより、タミル地方はデリー・スルターン朝の支配から完全に離脱しました。

同時期には、南インドのカルナータカ地方でもハリハラとブッカの兄弟がトゥグルク朝から独立し、ヴィジャヤナガル王国を建国しました。これにより、南インドは新たな勢力図を描くことになります。

ホイサラ朝との抗争

マドゥライ・スルターン朝は、同じ南インドに存在したホイサラ朝と激しく争いました。1342年には、ホイサラ朝の王バッラーラ3世を戦死させるなど、一時的に優位に立ちました。しかし、1346年にはホイサラ朝の領土はヴィジャヤナガル王国に併合され、マドゥライ・スルターン朝の勢力は徐々に衰退していきます。

ヴィジャヤナガル王国との抗争と滅亡

ヴィジャヤナガル王国は、南インドにおいて強大な勢力を誇るようになり、マドゥライ・スルターン朝は次第に圧迫されていきました。1370年、ヴィジャヤナガル王国のクマーラ・カンパナ率いる遠征軍によってマドゥライ・スルターン朝は制圧され、事実上滅亡しました。その後、1378年にはヴィジャヤナガル王国の君主ハリハラ2世によって、マドゥライ・スルターン朝の領土は正式に併合され、その歴史に幕を閉じました。

まとめ

マドゥライ・スルターン朝は、南インドにおけるデリー・スルターン朝の権威が失墜する中で成立した短命なイスラーム王朝でした。ホイサラ朝との抗争を経て、ヴィジャヤナガル王国の台頭によって滅亡しました。この王朝の歴史は、当時の南インドの政治情勢の複雑さを物語る上で重要な要素の一つです。

参考文献

フランシス・ロビンソン 著、月森左知 訳『ムガル皇帝歴代誌 インド、イラン、中央アジアのイスラーム諸王国の興亡（1206年 - 1925年）』創元社、2009年。
辛島昇『世界歴史大系 南アジア史3―南インド―』山川出版社、2007年。
Sastri, KA Nilakanta (2005) [1955], A History of South India (Paperback ed.), Chennai: Oxford University Press

関連項目

デリー・スルターン朝

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